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45 一体誰が?

「面倒な話だ……こんなことになるのなら、俺一人で見張りをしていればよかったな」


「それはそれで、問題があるとは思うのだけどね。アレスはどうしたいの?」


 どうしたいか……幸い俺だという確証もない。

 そのため、魔晶石は収納すれば特定をするのは不可能だ。

 結界も噂程度に終わるのなら、俺みたいの奴が特定されるということも無いだろう。

 一部の人間に伝われば、俺だと特定される可能性はある。


「このまま続けるのは、俺としてはお勧めしない。というよりも、ここから早急に出ていったほうがいいかもしれない」


「アンタはダンジョン攻略者なのだから。気にすることはないんじゃないの?」


「そうですよ、アレスさんはすごい人なんですから」


「あのな。何で俺がわざわざ無能を晒していたと思う?」


 学生でダンジョン攻略者は異例中の異例の話だ。

 そもそも俺はまだ高等部に入ってすらいない。その情報も本当に一部の者だけに留められている……と思う。

 学園長にも自由にさせろとは言っていたはずなのに、あんな課題とかを出される始末だ。

 とはいえ、学生達の反応からしても、一応は秘匿にされたままになっている。その話も何処から漏れていくかはわからない。


「そのおかげで、アンタのことは、公爵家だから特待生になったとか、色々と噂話はあるわよ」


「そうなのか……家に迷惑がなければ良いんだがな」


 八月に一度は帰ろうとか思っていたけど……なんか、怖いな。


「それはいいとして、俺は一度戻って結界の情報が出回っているかを確認しておきたい」


 レフリアの言うように、コテージがダンジョンの外で使われているのだとしたら……いや、それだけでもないな。

 誰がこんな事をしたのかも知りたいところだ。


「なら、そうしよう……リアもそれでいい?」


「そうね。確かにこれだけ規格外だと、素性を隠しているのも納得がいくわね。今回はアンタの強さを知りに来たわけだから」


「理解してくれて助かる。パメラ、ミーアはどうした?」


 女の子なんだから、支度に時間がかかるというのは分からなくもないんだが……いくら何でもおそすぎるだろ。


「私が呼んできますね。アレスさんはとりあえず、外で待っていてください」


「は? 何で外に?」


 パメラに背中を押され無理やり追い出される。ミーアに何があったと言うんだ?

 昨日の様子からして特におかしな所もなかった。

 疲れがあるとしても、あの三人はそんな事はなさそうにしていた。パメラとレフリアの様子からしても、夜の出来事に関しては気にしていないように見える。

 だとしたら、そういうことか……。


「お待たせしました」


「大丈夫なのか?」


 顔も少し火照ってかのように紅潮している。

 手を触ると、すかさず身構えられ後ずさりをしていた。


「もしかして、熱でもあるのか?」


「い、いえ。大丈夫ですから」


「ミーアは大丈夫ですよ。アレスさんは、とりあえずアレを片付けてください」


 何でパメラが仕切っているんだ?

 コテージを収納して、ミーアは何故かパメラの後ろに隠れている。

 いつもなら俺のことを見ているのに、今は目を合わせようともしない。


「やっぱり、あの日なのか?」


「何のことですか?」


「ほら、女の子特有の、あのひでぶ」


 パメラから鳩尾に拳がめり込んできた。腹を抑えて蹲る俺を、軽蔑の眼差しでパメラが見下ろしていた。

 なんなんだ……レフリアと同様に心配しただけじゃないか。


「アレスさん。いくら婚約者とは言え、それは口に出すものじゃないです」


「わ、悪かった。ただ、俺は心配していただけで……ここはダンジョンの中だから、危険にならないように気を配ってだな」


「心配をしているのはいいことですが、もう少し配慮を心がけてください。いいですね?」


「分かりました、申し訳ございません」


 全くもって納得がいかない。そんな事言われるのは嫌かもしれないが、お前達はもう少し危機感を覚えたほうがいい。

 場合によっては体調不良だけでも、全滅するかもしれないというのに……そこの所をもう少し考えてくれよ。


「今日は朝から散々な目にあった」


「自業自得でしょ? そんな事はどうでもいいの。それより反応はどうなの?」


 二階層まで戻ると、魔物らしい反応は数匹だけ確認できた。

 ということは、殲滅してからそれほど時間は経っていないらしい。

 俺の他にそんな事を考える馬鹿が、実在するとは思えないが現状はこの有様なんだよな。


「まさに手当たりしだいだな。俺と同じように索敵が出来るのか、大人数で手当り次第なのかは分からないな」


「もしかしたら、殿下の仕業じゃないかしら?」


「ああ、あれか……」


 能力値だけで言えばその可能性も否定はできない。しかし、今のハルトよりも強いというのは、俺にとって想像もできない。

 だけど……それでもたったの十人の学生だ。俺が十人なのとわけが違う


 こんなこと、俺がやろうにもそれなりの時間はかかる。それを、何階層も魔物の出現を待たずにというのは不可能だ。

 ゲームに登場していないだけで、俺以上に強い人間が居ることは否定はできない……だめだな、考え出していたらきりがないな。


「この話は一旦保留だな……」


「アンタなら、この辺りの魔物はどれぐらいで一掃出来るの?」


「そうだな。本気でやったとしても早くて一時間か? やろうと思ったこともない無い、もっと掛かる可能性もある」


「そうよね」


 こんな所でそんな気も起こらないからなんとも言えない。一人で何をやってもというのなら、十分すらかからないだろう。

 あの王子に、そこまでの能力があるのかは疑問に思う所だが、初日にも関わらず怯みもしないで突き進んでいたのだから可能性もなくはない。

 ギルド会館へと向かい、報酬を貰うため訪れたがこれと言った噂も飛び交ってはいないようだ。


「何か掴めたの?」


「全く何もないな。あのまま下の階層へと行っているのか、どの道俺達だと知られているわけでもないのだから。やり過ごすしかないだろう」


「そう。ごめん、何も気が付かなくて」


「配慮を怠ったのは俺の責任だ。お前が気にすることでもない」


 リザードマン如きにどうすることも出来ないと思い、俺が甘く見ていたのがそもそもの間違いだったんだ。

 それに対して、レフリア達に責任があるはずもない。


 あのまま街にいるよりも、学園に戻ったほうが良い、という俺の話を聞き入れてくれ馬車ではなく時間もあるので徒歩で帰ることにした。

 面倒な話だと言うのに、そこまで考えてくれたのは正直に嬉しかった。


「そういや後何日残っているんだっけ?」


「七日ほどね」


 七日か……様子を見に行くぐらいならできそうだけど。

 スォークランダンジョンはともかくとして、他のダンジョンも気になる。

 あの辺りは、まだ俺の知らないダンジョンもあるはずだ。その様子を確認しに行くのも良いかもしれない。


「アレス様?」


「ああ……いや、お前たちはどうするつもりなのかと思ってな。八月は学園が休みだろ?」


「私達は帰るわよ」


 レフリアとハルトはいないか……この二人はどうなんだろう?

 パメラはどうするつもりなんだ?

 確か……家ではあまり良く思われていないとか言っていたな。


「パメラ、お前はどうするんだ? 家に帰るのか?」


「わ、私ですか?」


「ミーアも帰るとは思うし、お前は帰りたそうでもないみたいだからさ」


 パメラは、小さく「え?」と声を出している。


「もしご実家に帰られないのでしたら、私の! シルラーン家に来てはいかかでしょうか?」


「あ、はい。そそそ、そうします。ありがとうございます」


 俺が提案するまでもなく、ミーアの好意でパメラものんびりとして休暇が遅れそうだな。

 それにしても、九十度のお辞儀とは……やればできる子だな。

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