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43 彼女達のそれぞれの思い

 これは一体どうなんだ?


「レフリア……」


 あの結界は、最大級の魔法を俺が使っても突破できない。

 お前たちが仲良く料理をして楽しんでいるようだが、このコテージだって、俺がわざわざギルド長を脅……快適に寛げるのは俺がいたからなんだぞ!


 そして、その食料の山。お前らがギルドの登録をしている間に、わざわざ準備をしていたのは俺なんだぞ?

 レフリアが言うように、勝手に取り出していたのは俺からかもしれない。

 だが、もう少し早い段階で言えば良いものを……この扱いは酷すぎやしないか?


「まあまあ、落ち着いて」


 このままだと腹の虫がおさまらない。

 こうなったら、明日はレフリアには強化掛けまくってやろう。

 ハルトも困惑していたから、あいつだって……いや、そんなものじゃ生ぬるいか?


「アレス。今……ものすごく悪いことを企んでいるよね?」


「そんなことはないぞ。アイツに強化を掛けまくってやる、その程度だ!」


「リアの態度も悪いとは思うけど、アレスだって余計なことを言ったりしていたよね?」


 そんな事は……すぐに答えられないということは、俺自身言い過ぎたと思うところはある。

 それでもと言いたいが、その言葉を口にするには少々危険だ。

 俺たちの話が聞こえたのか、ミーアが包丁を片手にこっちを見ているからな。


「それは……まぁ、悪かったよ。降参だ、美味い飯にありつけるだけで、俺にとっちゃ十分すぎる。感謝申し上げます」


「全く、あのバカは!」


 ハルトは苦笑を浮かべたあと、レフリアを目で追っていた。

 俺も言い過ぎたか……俺には関係がないとは言え、あのミーアがお節介を焼いていた。

 それもあって、余計な事まで言い過ぎてしまったのも事実だ。


 自分の親友が幸せになってくれるのならと、多分ミーアはそう思っているのだろう。

 その意見には俺も賛同はしている。二人が婚約まで行くのなら、ゲームとしてはまともに進んでいるのかもしれない。

 それで余計なことに巻きこまれないといいのだが……な。


「おー……うまそう」


「アレス様、どうぞ」


「いいからミーアが座れ。俺はここで構わない」


 テーブルに置かれた器を持って、キッチンを机代わりにしていた。

 これで上手ければおかわりし放題だ。


 俺のようにただ焼くだけとは違い、久しぶりに楽しい食事をすることができていた。

 皆はお腹が満たされ、疲れもあってか椅子に座ってまったりとくつろいでいた。


「さて……と」


 俺は収納から、ある物を取り出す。

 当然俺の行動……というよりも、手にしているものを見ていた。

 特にお腹に溜まるわけでもなく、それでいてかなり甘い。


「あ、アレスさん」


「アンタ、冗談よね?」


「アレス様。ど、どうか」


「アーレースー!」


「なんだ、いらないか」


 俺が持っていたシュークリームは、パメラに瞬時に奪われテーブルの上に置かれる。

 こうなると分かっていたが……残っている数は七個。

 小樽を取り出し、グラスに注ぐと水を凍らせ、風魔法で小さく切り刻む。


「器用なものよね」


「そうでもないぞ。こういった調整は日々の経験がものを言うだけだ。慣れればどうということもない。ほら、追加はないからな。ちゃんと話し合って決めろよ」


 ここにいるのは四人。そして目の前に置かれたシュークリームは七個。

 まだないこともないが……少しぐらいこれで暇つぶしにもなるだろう。


 しかし、俺としては何かしらのゲームが始まるのかと思ったが、あのハルトも、レフリアに対抗もできず、あっさりと決まってしまう。

 食事を済ませ、少しばかり談笑をしてから早い就寝についた。


「アレス。まだ起きているかい?」


「どうした? 枕が変わると寝られないのか?」


「少し相談しても良いかな?」


「相談も何も、レフリアに告白すればいいだけのことだろ?」


「何言っているんだよ。僕なんかがそんな……」


 思ってる思ってる。見ていたら十分わかるだろ?

 お前達が、俺と同じような結末があったとしても、その問題は俺が解決するのだから、今からでも好きにすればいいと思う。


 レフリアのルートが、どういったシナリオなのか俺は何も知らない。

 何らかの問題があったのだとしても、ミーアのようなことにはならないと思いたい。


「あのな、レフリアがどうこうじゃなくて、お前がアイツの事をどう思っているかだ。好きならそれでいいだろ? 例え、思いが一方的なものだろうと、お前がアイツのことを好きなら、それをぶつければいい」


「でも応えてくれなかったらと思うとね……リアのことは好きだよ。ずっと一緒だったから。だから、断られると今までのように一緒に居られないのかと思うと……怖くて」


 幼馴染だからということで、全く意識していないよりかは良いが、逆にそのことで今までの関係が壊れるのを気にしているんだな。

 日本みたいな所でならそれでも良いのだろう。


 レフリアが、あるいはハルトが、何時その命を落とすのかわからない。

 ここはそんな世界だ。

 この二人には、俺のような臆病者になって欲しくはない。


「アホか。お前は長く一緒にいたから、臆病になっているだけだ。例えばだけど、他人に取られて悔しい思いをするのなら、言って後悔するのと何も言わずに後悔するのとどっちがいい?」


「リアが……誰かと?」


「考えたこともないのかよ。性格は別として、あの見た目なら引く手は数多だろうな。お前がレフリアを好きなように、他にも物好きは居ると思ったほうが良いぞ。俺としてはあんなガサツな女の……」


 扉を強く開けられ俺は飛び起き、怒りでなのか髪の毛を逆立てたレフリアの姿が見えた。

 腕を組み、ゆっくりと部屋に入ってくる。壁に背中を当てて、入り口へと向かうが俺の様子を瞬き一つもしないまま見ている。


「二人共うるさい。言っておくけど丸聞こえなのよ」


「聞こえていたのか……待て待て、俺は悪くないと思うぞ。大体ハルトが話を持ちかけたのであって、あ、いや……」


「それが何?」


 これまでに無いレフリアの低い言葉に、俺は何かを言い返すことが出来なかった。

 さっきの事でかなり怒っている? 俺を睨みつける目は、怒っているのだが……ハルトが近づいてきたことで、視線がずれると悲しそうにも見えた。


「アレス。部屋から出ていって貰えるかな? リアと話がしたいから」


「あ、ああ。わかった」


「ありがとう」


 レフリアとすれ違うと、小さな声で「もぅ」と、呟いていた。彼女からすれば、今回のことは想定外のことだろう。

 しかし、二人のことだから何も問題はないよな。


 部屋から出ると、ミーアとパメラはリビングで待っていた。

 何も言わず手を引かれ、片方の部屋に案内される。


「二人共、そろそろ手を離してくれても良いんじゃないか?」


 この状況は何なんだ?

 二人は並べられたベッドを前にたじろぐ俺を気遣い、壁にもたれて座っていた。

 ミーアは手を繋ぐだけではなく、腕も絡めている。パメラは何度もニギニギと俺が握り返すのを待っているかのようだった。

 引こうとすれば、やたらと力を込めているし、パメラに至っては少し痛いぐらいだ。


「あの、さ……何時までこうしているつもりなんだ?」


「アレス様。私は以前からずっとお慕いしております」


「私もアレスさんのことが好きです」


 俺の言葉を待っているわけでもなく、二人は俺に体を預けていた。

 まだ二人に答えを出すことが出来ないでいた。いや、出すわけにはいかなかった。

 ミーアはもちろんのこと、パメラを選ぶわけにもいかない。

 俺がアレスである以上、ミーアがパメラに取って代わるだけかもしれないから。


「何も答えてくれなくても構いません。いつまでも、私は貴方様だけをお待ちしております」


「うん。私も……選んでなんていえません。それでも、見ていてくれるだけでも良いですから」


 いや違う、アレスだからであって、パメラも王子が俺にとって変わっただけに過ぎない。

 けれど、俺はそんなシナリオを望んではいない。二人には、もっと相応しい人間がいて、その思いを受け止めてくれる相手がいるはず。


「私は待っております、妻ですから」


「ミーアそれを今言わないでよ。私だって……」


「ふふっ、ごめんなさい」


「じゃあ、旦那様大好きです」


 もうやめてくれ。

 わかったから……これ以上は本当に止めてくれ。

 二人の行動は、俺が余計なことを言ってしまったからこうなっているのかもしれない。

 だとしても……俺以外の相手に向けるべきなんだ。


「勘弁してくれ。俺達は今日このままなのか?」


 それから二時間は経っただろうか? ハルトに呼び出され、並んだベッドにミーアとパメラを運びリビングで一人横になった。

 二人共、先に寝ていてくれたから助かった。

 なぜこの二人は……俺なんかにあんな事を言ったのだろうか?


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