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39 アレスの強さが分からない

「二人共待たせたか?」


「そりゃ待っていたわよ。どっかの馬鹿が謹慎なんてしていたから」


 開口一番酷い言われようである。

 事実だからあえて何も言わないが……というよりも反論をすればきっと、さらに酷いことを言われそうだ。


「おはようございます、レフリア様」


「おはようー」


 パメラはやっぱり朝が弱いみたいだな。

 今日は朝から移動だと言うのに、ミーアに布団を剥ぎ取られるまで寝ていたのだからな。


「ハルト。どうだ?」


「どうって何が? ああ、剣のことかい?」


「何って、レフリアとの仲のことだと思ったのか? そんなの俺が……くぶっ、なんでも無いから、それを仕舞ってくれないか?」


 俺がそういうと、耳まで真っ赤にしたハルトから腹に一発貰ってしまう。

 何で殴られるんだよ……前から思っていたけど、お前って意外と手が出るタイプだな。

 何も言わず、あのでかい剣をブンブン振り回して大丈夫だとでも言っているのか? それともただの照れ隠しのつもりか?

 この二人は俺に対して手が出るのが早すぎないか?


「ハルト、少し落ち着け。危ないからそんな物を振り回すな。まあ、それを振り回せる事を言いたいのか? そういうことなのか?」


「アレス様。もどかしいのは私も重々承知しておりますが、そのような事を軽々しく言うものではありませんわ。ね?」


 そう言うミーアは、レフリアに視線を向ける。逞しくなったな、以前ならこういった話は避けてきたはずなのに……俺達の視線に気がついたレフリアも顔を赤くしている。

 ハルトは未だに遠くでクレイモアを振り回していた。


「今は関係ないでしょ? と、とにかく、私達はアンタの強さをまだ知らないんだし。とりあえず実力を見せてよ」


「それは構わないが……何処に行くつもりなんだ?」


「ミーカトよ」


 分かってはいたがやっぱりそうなるよな。ミーカトダンジョンもあの日以来になるんだな。今頃、ラティファは何処まで行っているのだろうか?

 初級ではやたらと騒いでいたあの王子にも会ってないな。

 王子という待遇もあるのだから、無茶なことにはなっていないだろう。


「あの馬車で向かうのだけど、そろそろ出発だから離れないようにしてね」


 見た所乗り合いの馬車のようだな。

 ゲームでもそれなりの日数がかかっていたが、こういうもので移動しているんだよな。

 俺一人だけなら飛んで行けなくもないけど……今は付き合うしか無いよな。


「ハルト、お前のことだから馬車に乗らず走ってくるものだと思っていたぞ」


「何で僕がそんな事をしないといけないのさ」


「腕だけじゃなくて、足も鍛えれば大剣の反動も制御できるかもしれないだろ?」


 なんて冗談を言ってみたのだが……本当に走っているぞアイツ。

 どれだけ元気なんだよ。


「アイスブロック」


 まだまだ余裕を見せるハルトに、俺はあえて足に重りになるように氷の魔法をかける。


「アレス! これはいくら何でもきついよ」


「何だったら、手にも重りを付けるか?」


 息も絶え絶えなハルトを見て笑っていたのだが、俺は背中を蹴られてしまい馬車から転がり落ちる。

 走り去っていく馬車には、俺の見下すレフリアの姿が見えていた。

 いきなり何をするんだ!


「アーーレス!!」


「まっ、待て。ハルト! こっちに来るな!」


 俺は落とされたことで、ハルトからの奇襲を受けていた。

 捕まれば何をされるかわからないので、追いかけてくるのなら走って逃げるしか無い。


「追いついたよ、アレス」


「げっ、何でその重りをつけているのに……捕まってたまるか、ブレイブオーラ」


 強化魔法を使い、馬車へと一気に走り込む。

 縁を掴み、座っていた所へと戻る。


「レフリア、怪我したらどうするつもりなんだよ」


「アンタのことだから怪我すると思ってもなかったわよ」


 馬の休憩中に戻ってきたハルトは、仕返しのつもりか殴られるもののかなり弱々しくなっていた。

 氷の重りを砕き、用意してあった水を冷やしてから何杯もがぶ飲みし、馬車の中でぐったりとしていた。


 ただでさえ重い鎧を着ているというのに、よくここまでできるな。

 流石にこれ以上白い目を向けられたくもないので、大人しくしていたほうが良さそうだな。


 ミーカトについたのは午後八時。

 馬車に乗っていたが、それなのに疲れもあったので、明日になってからギルド会館に行くことになった。

 一応挨拶も兼ねて、俺は一人でギルドへと向かっていた。


「あああ、あなたは!」


「この前振りです。ギルド長は居ますか?」


「え、あの……少しお待ち下さい!!」


 やってきたギルド長は、俺を見るなり怪訝そうな顔をしている。

 あんな事があったのだから当然俺のことを警戒するよな。


「きょ、今日はどうした?」


「少しお願いがあってですね」


 俺は、奥の部屋に案内され明日登録に来る生徒の話と、少しばかり無茶なお願いをするものの快く引き受けてくれた。


 四人がギルド登録を済ませている間に、俺は少し買い物へと出かけていた。

 もちろん二人には反対されたが、約束を破ったら何でも言うことを聞いてやると言ったら、すんなりと送り出してくれた。


 何でもという言葉に二人が何を思ったのかは想像しやすい。

 そんな約束をしている状態で、また何処かにフラフラと行くつもりもない。

 ダンジョンに入るのだから、食料など色々と必要だったが、あまり時間をかけると何を言われるかわからないからさっさと買い物を済ませた。


「おかえりー」


「登録は終わったか?」


「もちろん」


「ギルドの腕輪は装備しているな。これを付けていないと、倒しても意味がないからな」


「大丈夫です。アレスさん、今日は頑張ってください」


 そう言ってパメラは見せびらかすように腕輪を見せてくる。

 皆は俺の強さが知りたいということだけど……本気でやったとして本当に付いてこれるのか?


「頑張ってもいいのなら、余裕で最下層まで行けるが……お前らは大丈夫なのか?」


 そういうと皆は、顔色が少し悪い。初めてのダンジョンで、最下層は死にに行くようなものだから当然の反応だろう。

 実際ここは初日で最下層まで到達しているから、俺としても何の問題はない。

 俺がいるから危険はないが、そんな事を言ってもミーアを除いては半信半疑でしかない。


 ダンジョンへと向かう間、ずっと両手に花。暴走でもない限り、周りにいるのは野生動物ぐらいなものだから危険はないが……二人は俺の手汗とか、気にならないのか? 気にしていないよな?

 大丈夫なんだよな?


「ここがミーカトのダンジョンですか……」


「とりあえず入るか」


 さすがにダンジョンの中へと入ったことでようやく手を離してくれた。

 あまり残念に思うことはないが、二人が掌を見ていたのが少し気にはなった。

 やはり気持ちが悪かったのだろうか? そう思ったのなら手を繋がないでくれよ。


 久しぶりに来たのは良いが、当然他の学生もいるな。こんなに効率悪くしていて本当に大丈夫だろうか?

 ゲームの話と関係のない学生、いわゆるモブ達は、何を目的としてダンジョンに入っているんだ?


 主要キャラは当然ラスボスだけど、今思えば殆どの生徒には関係のない話になる。だったら、彼らの目標は何処にあるのだろうか?

 この世界の貴族たちは、各地に出現するダンジョンの排除が目的だ。

 そのための経験だとしても、弱い所でくすぶっていても意味がないように思える。


「ちょっと、ここって魔物いないの?」


「そうですね。全然見かけないですね」


「居るに決まってるだろ。ここに入ってから十体は倒している。あっちには他の学生もいるから手は出していない」


 レフリアは俺の額に手を当てて、『コイツは何を言ってんだ』と言わんばかりに呆れているようだ。

 馬鹿にしているレフリアの手を振り払い、ハルトはあまり気にしていないようなのでそのまま奥へと進んでいく。


 索敵魔法は誰も使っていないから、敵の存在を発見すらできていない。だから俺が遠距離魔法で倒していると言われた所で実感もないようだ。


「そうだな、左行くか。もう少しすれば見えてくるぞ。数は三体」


「本当に位置が分かると言うの?」


「アレスだからね。としか言えないけど。皆、気を抜かないで」 


 リザードマンの姿が見えると、それぞれ武器を構えるが同時に風の刃で、リザードマン達は切り刻まれ粉々になり塵とかしていく。

 一瞬のことだったから理解が出来ていないのか、皆はぽかんと口を開けたまま固まっていた。


「これで分かっただろ? 風魔法、エアスラッシュを使っていたんだよ。部屋でも見せたはずだぞ?」


「エアスラッシュ? 冗談よね? 私が使っているのからして、全くの別物よ?」


「アレス様、エアスラッシュは風の刃を飛ばすもの、今のは明らかに違うように見えたのですが」


 それも熟練によるものだと思っている。追撃のために二撃三撃と増やしていく過程で、どうしても効率が悪くなっていく。

 最初から、斬撃を飛ばすのではなく、球状を保ったまま放ち魔物に触れると斬撃が始まる。

 一度の攻撃で、多段攻撃のできるこのエアスラッシュが一番効率が良かった。


「ということなんだが……分かるか?」


「アンタの頭がおかしいのは分かったわ。エアスラッシュと言うよりも全くの別物じゃない」


「そんなことはないだろ? 元はこれなんだから。それはいいとして、索敵魔法で敵を感知して、風魔法を撃ち進んでいた。どうだ、納得できたか?」


 各自ため息をついていた。俺とのレベル差に不安でもあるのだろう。

 皆のためにも、ある程度は戦って貰う必要があるよな。


「何というか、アレスがいてくれて助かるよ」


「そうね……あまりにも有望すぎて、これからの将来が大変そうね。お二人さん?」


「それはどういう意味なんだ?」


 二人からはこれ以上はダメだからと強く念押しをされ、よくわからないまま生返事をするしかなかった。

 俺の強さは理解してくれたようだが、いまいち納得がいかない。

 魔法の変化なんてそれほど珍しいことでもないだろ?


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