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38 結託した二人

 寮の外に燃え捨てられた布団が発見され、寮長には散々怒られるがある程度内情も知られているのでまたかと言ったご様子だった。

 こんな事が起きるのなら、いっそ王都で家を借りてはと言われてしまう。


 一瞬は考えてみたものの……その生活がどれだけ悲惨な結末が待っているのか容易に想像がつく。

 余っている部屋には、悪びれる様子もなく二人がやってくるだろう。


「今後このようなことがないように努力はします」


「ええ、そうしてください」


 重い足取りで、自室へと戻ろうかと思ったが……時刻は夕暮れに差し掛かっている。

 学食に行って先に食事を済ませようと思った。食べていれば、少しでも気が紛れると思った。


「アレス」


「ああ、ハルトか……」


「なんだか元気がないね。二人となにかあったの?」


 何かがあったと言うよりも、これから何が起こるのかが気になる。

 ミーアは俺を繋ぎ止めたことで、なりふり構うことが無くなっている。

 そして、パメラも対抗心を燃やし今日のような奇行に走る。


「むしろ、何もないと思うか?」


「何時もよりご飯が少ないからね。僕で良かったら相談ぐらいには乗るよ。解決はできそうにもないけどね」


 人の心配をするよりも、まずは自分の心配をしろよな。

 俺達は特に会話もなく食事を進めていく。

 ハルトの食べ方に違和感を感じる。フォークやナイフを持つ手が小刻みに震えている。


「お前……クレイモアの調子はどうなんだ?」


「ありがたく使わせてもらっているよ。でも、まだまだダメだね。思っていたよりもかなり重くてね」


 ここに来るまでずっと振り続けていたんだろうな。

 過度に訓練をしているから、疲労もかなり溜まっているみたいだな。


「無理をしても意味がないだろう。ちょっと待ってろ」


 疲労に効くのは酸っぱい物だっけ?

 学食の中にも果物は少しだけ用意されている。レモンなんかはないが、オレンジが用意されているので何個かボウルに乗せてハルトに差し出した。


「これも食っとけ、疲労にいいらしい……多分だけど」


「うん、ありがとうね」


 俺達は寮に戻って来たのだが、ハルトは俺に話でもあるのか自分の部屋に戻ること無く、俺の後を付いて来ている。

 今聞くよりも着いてからでいいだろうと思い何も聞かなかった。


 それにしても、さっきのようなことがあるのだから毎日交代をしてまでここにいる必要があるのだろうか?

 一週間の内に一日だけでも良いような気がする。

 いや、そもそも居る事自体がおかしい話だが、今更出ていくつもりはないだろうから、日数を減らして貰えるだけで十分助かる。


 前世でも女性と暮らしていたとはいえ、下着姿を見た所でなんとも思わない実の姉だったからな。

 彼女も出来ないし、アレスというだけでデブにも関わらずこの差は一体何なんだ?

 前世からの換算だとDTレベルが三十を超えたことで、魔法使いに成れたからか?


「おかえりなさい、アレスさん」


「ハルト様とご一緒だったのですね。帰りをお待ちしておりました」


 二人はさっきのことがまるで無かったかのように、普通にしている。

 ハルトは軽く手を上げて、「おやすみ」とだけ言い残して去っていく。

 俺を監視していたのか?


 部屋の真ん中にある椅子に座らされ、二人はそのまま台所へと行き夕食の準備に取り掛かっていた。

 あの小さいキッチンで二人が楽しそうに何かを作っている。 


 俺のベッドには真新しい布団が既に用意され、どちらかが入ったような匂いはしない。

 さっきのは一体何だったんだ? 

 しばらくすると、部屋の中はいい匂いが立ち込めテーブルには料理が並べられたのだが。


「えっと、あの……これはどういうことなんだ?」


 二人が座っている前には、野菜炒めのような物とスープが置かれ、俺の前には、小さなパンが一つだけ置かれていた。


「「頂きます」」


 そう言って俺と目を合わせることもなく、二人は料理を食べ始めた。

 俺も手を合わせ、そのパンは一口で食べ終わってしまう。

 食べた後だから、それほど欲しいとは思わないが……あまりにも虚しさだけが募る。


「アレス様は、先程ハルト様と夕食を食べて来られたのですよね?」


「いや……まあ、そうだけど」


「だったら大丈夫ですよね」


 二人はフォークを置いて黙ったまま俺を見ていた。

 右に左にと視線を移動させ、二人の様子は一向に変化が見られない。


「えっと……ごめん?」


「そうですか」


「それだけなんですね」


 それだけってどういう意味なんだ?

 二人は今かなり不機嫌な顔をしている。

 ミーアとパメラは俺と言うよりも、俺の後ろにあるベッドを見ている気がした。


 あれはパメラが余計なことをしたからであって、俺が悪いということにはならないと思うんだけど?

 もしかして、あのことが原因だというのか?


「その、怒っているのか? ほら、二人が寝た布団で寝られるかって言ったこと」


「アレス様からすれば、私達と距離を取ろうとしているのは存じております。正直あのお言葉は傷つきました」


「いや、あれはだな……」


「あんなに嫌がられるなんて、そんなに私は臭いますか? 」


「だから、そうじゃないんだって。その、アレだよ……分かるだろ?」


 こっちは毎日悶々としているというのに……二人してそんなに落ち込まないでくれよ。


「私達がこちらに赴くのはご迷惑ですか?」


「アレスさんは、私に言えないこともあるみたいだから……もうここに来ないほうが……」


 何でそんな事を?

 いや……俺はそうなることを望んでいた。


「この数日でしたが本当に楽しい毎日でした。ですが、アレス様にとってご不快だったのかもしれません」


 そんなことはなかった。戸惑うばかりだったし、二人といた時間に俺も楽しいと思っていた。

 二人から逃げ出し、俺は一人になるつもりだった。

 それは伝えていることで……そんな事を言われても仕方のないことだ。


 だけど、ミーアの想いに触れて、俺は二人と一緒にいることを望んだ。

 それなのに……この二人が俺の元から離れるというのか?

 でも、それは俺が望んでいたことだ。


 だけど……今はまだ!


「二人共ここに居てください。お願いします」


 頭を下げていると二人は席を立ち俺の頭を撫でていた。

 俺を許してくれたというのだろうか?


「本当にごめん。慣れない生活に戸惑っていたんだ。俺は元々一人で過ごしていた時間が多くてだな」


「ミーア、どうしようか?」


「今日は急なことですので、仕方がないですが……その内に新しい物を用意しましょう」


「何の話なんだ?」


「ベッドの話ですよ?」


 ベッド? どっからそんな話になったんだ?

 戻ってきてからベッドを使っていたが特に問題もなかったと思う。


「大きいのにしようか?」


「それもいいとは思いますが、今はまだ同じ物を用意した方がよろしいのではないかと」


「いやいや、本当に何の話をしているんだ?」


「アレス様が先程仰っていたではありませんか。私達二人にここに居て欲しいと」


「そうだけど……ベッドが……なんで?」


 この二人はとんだ思い違いをしているんじゃないのだろうか?

 二人には居て欲しいとは言ったが、それはただあの話の流れのことであってだ……な。


「もっと大きなベッドがあれば、アレスさんを真ん中にして添い寝が出来るよ?」


「添い寝……」


「うん、添い寝……」


 頬を染めて何言っているんだ!

 馬鹿なのか? 前々から思っていたがパメラは若干馬鹿な子なのか?

 というか、二人にいて欲しいって、二人が此処で暮らすということなのか?


「待て待て待て、少し落ち着け。二人の言いたいことは分かったが、それはまだ早い。というか、それだけは勘弁してくれ」


 独り占めされるのは嫌なくせに、共有するのは良いのか?

 そんな事されたら連日寝れる気すらしてこないぞ……悟りをどうやって開くつもりなんだよ!


「同じベッドでなら、追加は認めるが三人が一緒というのは却下だ」


「つまり交代でアレスさんの隣でということですね?」


「お前はどんだけポジティブ思考なんだ! そっちのベッドの隣に追加するんだよ。俺は離れてていいから、むしろそうじゃないと寝られるわけ無いだろ」


 それから二対一の不利な戦いだったが、少しだけ大きめのベッドを買い、ミーアとパメラが使用することで文句を言われつつもまとまった。

 この二人は最初から俺に言わせるために、こんな事を仕掛けてきたんじゃないだろうな?


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