37 新しい生活?
学園に戻ってきた俺には、勝手な行動をしたという名目で学園長直々に五日間謹慎処分が言い渡された。
授業を受けていないこともあり、俺の前には相変わらず本が積み重なっている
王都の街ですら出ることを許されず、学園内にあるダンジョンにも入れない。
内容が頭に入ることもなく、ただ文字を書き写していく。
この世界にパソコンが有ればと、こんな事をしなくても細工の一つで終わらせられるというのに……だいたいこんな事をして何の意味があると言うんだ?
七月もそろそろ終わる頃なのに、面倒なことこの上ない。
この窓をぶち破って、開放感に浸りたいのだが……俺の隣では、四六時中監視の目が光っている。
「アレス様。ぼーっとなさらないでください。今日は書き取りなのですから」
「はいはい。分かっているよ」
監視の二人はミーアとパメラだった。
この二人のおかげで一人になれる時間もなく、自由な時間さえも存在しない。
自室に置かれているあのベッド、夕食を過ぎようとも翌朝になるまで監視されている。
朝になれば、ミーアがパメラに、パメラがミーアへと変わる。
もちろん学園長に問題があったらどうすると抗議したが、取り付く島もなく黙認とされた。
そのため、毎晩違う意味で辛い現状となっていた。
風呂上がりと、無防備に男の寝室で寝られるという状況に、二人には警戒心というものが無いのだろうかと思ったのだが。
『覚悟はできております』
二人にそれとなく話し合いをしていたのだが、二人揃ってそんな事を言うものだから俺は頭を抱えていた。
そんな中、ミーアはクーバルさんからの預かっていた手紙を渡してきたのだが……今回の事や婚約の話と色々と文句を綴られていたのだが『いいぞいいぞ、孫はいつでも大歓迎だ』と最後に書かれていた。
パメラの実家では、特に何も言われてはいないらしい。というのも、パメラは元々学園卒業後は追放予定だったらしく、何かを言われることすらないようだ。
一体どんなシナリオだったのだろうか?
仮にも主人公のポジションである彼女の世界では、最後には王子と結ばれる。
その話の中でも、ストラーデ家はパメラに対しどんな対応をしていたのだろうかと、少しばかり疑問に思う。
「ミーア」
「何でしょうか?」
「暇じゃないか?」
「ダメです。すぐそうやって言うのですから。約束はちゃんと守ってくださいね」
課題を出されているので、こうして図書室でやっていると言うよりもやらされていた。
ミーアは隣の椅子に座り、わざわざ俺の真横で勉強をしている。
対面でもと促してはみたが、平然と無視をされていた。
あの日以来、少しでも遠ざけるようなことを言えば、二人は全く以て聞く耳を持たない。
現状はレフリアのパーティーに属しているので、連帯責任として他のメンバーも行動が制限されている。
レフリアは魔法を学び直し、ハルトは朝から夕方まであの大剣を振り回しているらしい。
この課題の山も謹慎中に終わらせる必要があり、期日までにちゃんと終わらせると約束させられた。
パメラの場合はそれなりに緩いのだが……ミーアは真面目でちょっとしたことでも許してはくれない。
「ようやく課題は終わりだな。学園長のジジイめ、全く余計なものを渡しやがって」
「余計なことをしたのはアレス様ですよ? それに昨日終わるはずではありませんでしたか?」
昨日はパメラが監視役だったので、うっかりと長い昼寝をしていたため未だに課題が残っていた。
俺が悪いのではなく、先に寝ていたアイツが悪い。
まあ、午前中にミーアの怒鳴り声が自室に響き渡ってもいた。
「思っていたよりも量が多かった……」
「そうですか……」
「ごめんなさい」
言い合いをした次の日に、レフリアとハルトは一応謝罪はしたが、俺に対して特に何も言わなかった。
厄介だったのはパメラだった。あの日以降からアプローチが凄まじく、日々ミーアとの口論が絶えない。
それにしても、二人が交代で俺の部屋に来ているのは、俺のことを信用していないからなのだろうか?
そろそろ一人で寝たいところなのだが……男の子の事情というものを察して欲しいものだ。
「謹慎も今日で最後だろ?」
「そうですね。この課題が終わればそうなりますね」
「なら二人は、今日から自分の部屋に戻るよな? あのベッドも撤去でいいよな?」
「そのつもりはありません。そもそも、本来であれば私だけがアレス様の自室に居るはずなのですが……」
「いや、それは違うよな」
俺がそういうと、ミーアは少しだけムッとした表情へと変わる。
以前よりも近い存在になったことで、ミーアにも少しだけ変化が見られるようになった。
ミーアだけに押し付けては居ないはず? というか、自室まで監視する必要はなかったと思うけど?
二人はあの時の学園長の顔ちゃんと見てなかったんだな。
「やっと終わった」
「お疲れさまでした」
「さっさと提出して、部屋に戻って休みたい」
部屋に戻り俺はベッドに横になりたかったのだが、俺のベッドには不自然な膨らみがあった。
俺はため息をつき、それを放置して床に寝そべった。
遅れて入ってきたミーアは布団を剥ぎ取り、パメラに対して文句を言っていた。
しかし、そこで黙って聞いていないのがパメラであり、最終的に俺に意見を求めてくる。
「パメラが悪い」
「間違えただけなんです。本当なんですよ。というかそのまま入ってくればいいじゃないですか!」
「お前の匂いがついた布団で寝るとか、どんな拷問だよ」
これはミーアの場合でも同じことだが、女の子の匂いがする布団で寝るなんて、男子には色々と問題があるのをこの二人は全く理解をしていない。
まだ昼間だと言うのに、こいつは寝間着姿で寝ていたのだ。
ただでさえ、毎晩同じ部屋で寝るというだけでしんどいのに……俺は聖人でも賢者でもないんだぞ?
「拷問っていくら何でも酷すぎます!」
「それでしたら私の匂いで……」
「馬鹿なこと言うな。どっちも同じことだ勘弁してくれ。二人共、もう少し危機感をだな……」
危機感も何も、二人はそのつもりでいる。先に続く言葉を言うのを止めた。
床に置かれた布団からは、不思議といい匂いがしている。
俺がスンスンと鼻を鳴らしていると、ミーアは慌てて布団を抱きかかえている。
パメラはそんな事を気にもとめず、俺の方に近寄ろうとしている。
こんなデブの何が良いんだかさっぱりわからん。
タプタプと腹をたたく。俺なら絶対にこんなのが相手とか嫌なんだけどな。
「そんな、私がせっかく匂いをつけたのに」
「それでは、シーツも新しい物に変えましょう」
パメラの余計な一言により、布団やシーツは窓から放り出されると、魔法によって燃え始めていた。
窓から身を乗り出し、無残にも捨てられた布団を見ている。
おいおい、そんな事をしたらまた寮長に怒られるんだけど……俺が!
「なるほど、最初からそのつもりでしたか……罰として一週間。いえ、一ヵ月程アレス様の自室に入らないでください」
「何言ってるのよ。それだと私のチャンスが減るのに、ミーアばっかりずるい!」
「貴方が最初に私との約束を破るのが問題なのですよ!」
「だったら言わせて貰うけど! アレスさんよりも早くに起きてミーアは一体何をしているのよ!」
パメラは何時も朝が弱いのか、俺やミーアに起こされることが多い。
俺よりも早くに起きているミーア。俺はあの時に触れた唇のことを思い出してしまった。
「あー、やっぱり何かあったんだ! アレスさんが顔を赤くしているなんて……ふ、二人は」
「なな、ななにもしていません。未遂です!」
失言をしてしまったミーアは耳まで真っ赤にして……部屋から飛び出し。
パメラは、「ハレンチ!」と言って部屋から飛び出していった。
俺の布団で寝ていた奴が言うことなのか?
今はこの程度で済んでいるのだが……いつ二人が俺の布団に入ってくるのか毎晩が修羅場だ。
やっぱり……もっとちゃんとした理由をつけて、一人になることを考えたほうがいいのかもしれないな。