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36 改変

「アレス、この武器をどうやって集めたの?」


 重い空気の中、ハルトは床に置かれたクレイモアを手に取るが、思っていた以上の重量だからとか小さな声が漏れていた。

 両手でしっかりと持ち、刃先が少しだけ床から上がる。


「スォークランのダンジョン。ここから五日はかかるだろうな。知っているかわからないがタシムドリアンという街の辺りにあるぞ。そこでオーガやミノタウロスをひたすら倒しまくったんだよ。何千倒したかわからん。それだけ、お前達との実力の差があるんだ」


「君一人で……」

 

 圧倒的な戦力差はパーティーを離れる理由としても十分だろうし、これだけ関係に亀裂を入れたら俺の居場所も当然無くなる。

 ダンジョンで助けたこと。そして、ミーアに近づいたことで、俺は目的を見失いつつあった。

 あえて嫌われるように言葉を選んでいるつもりなのに……それでも、心の何処かで、まだこのまま一緒に居たいと思っている。

 本当に情けない。


「それに俺はすでにダンジョン攻略者だ。さっきも話したように、三年間過ごしていたダンジョンのコアも破壊している。その当たりもミーアは知っていたんだろ?」


 ダンジョン攻略者。

 ダンジョンは全ての人間にとって驚異そのものでしかない。そのダンジョンのコアを破壊した者たちのことを指している。

 ゲームでは、ダンジョンを攻略すると称号が得られ、様々なアイテムを入手することができる。

 しかし、俺はこの称号を放棄している。


「嘘でしょ? たった一人でそんな事……」


「どうとでも言え、この装備は俺の我儘だ、受け取って貰えると助かる。短い間だったが世話になったな」


「アンタは……まだそんな事を」


 俺は俺の目的のために、これから活動する。

 それでも、たまに見守るぐらいは許してくれるだろうか?

 ミーアやパメラを、ハルトが守ってくれるのならそれに越したことはない。アイツになら……ミーアのことを俺の代わりに。

 そんな事をするハルトをレフリアは許してくれるのだろうか?

 

「これは……まさかミスリル!? アンタ、なんでミーアのレイピアはミスリルなの?」


「ああ。店主が言うにはミスリル製のエストックだそうだ。少し長いだろうが軽くていいと思う。レフリアの剣はガーラン鋼を使っている。あとは、ハルバードとクレイモアだな」


「呆れた……アンタはやっぱり馬鹿よ。分かったわ、アンタの言う通りこの武器は貰ってあげる。ただし、ミーアとちゃんと話し合って、それが条件」


 思いがけない言葉に、俺は座り込んでいるミーアを見ていた。


「今更何を……」


「ミーア、このままでいいなんて言わないよね?」


 何を話し合えと言うんだ。

 俺がミーアに何を言える。こんな状況になってまでもシナリオはまだ崩れていないのか?

 レフリアは何を考えている? それとも、シナリオによる強制力でもあるのか?


 どうすればあの結末を変えられる。ミーアを殺したくも死んで欲しくもないのに……俺には覆すことも出来ないのか?

 俺にこれ以上何をさせるつもりなんだ?


「僕たちのは意外と普通なんだね」


「私は受け取れませんよ……こんなの、私に使えるわけないじゃないですか」


「パメラ、良いから今は持ってなさい。ミーア、アイツのことは頼んだからね」


 そう言い残して、俺達は部屋に残された。

 ミーアは何度もあふれる涙を拭い、俺を見ては視線をそらしていた。

 レフリアの様子からして、未だに俺を手放すつもりはないのだろう。攻略者の話をしたことで、俺の強さに期待をしているのかもしれない。

 残されたエストックを手に取り、ミーアの前に置いた。


「いつかはこうなっていたんだ。俺のことは気にする必要は元々なかったんだ。俺は一人でも、いや一人で十分だから」


「あっ……ううっ」


 こんな事をしてどうする……ミーアが泣いているから?

 だけど、泣かせた相手に頭を撫でた所で、何の慰めにもならないのに、自分の行動に嫌悪すら感じてしまう。

 自分の気持ちがこんなにもあやふやで、矛盾だらけの行動ばかりだ。


 この場でミーアが残されたのは俺の説得のためか?

 どれだけシナリオと違うことをしていても、やはり修正するようにと何かの力が働くのかもしれない。

 その結果がよく分かるのがパメラの行動だ。


 俺が助けたことでああなってしまったのだろうが、元々は王子が助けることで始まる展開だったのかもしれない。

 今までやって来たことは、全て無駄だったのかもしれない。


 かもじゃないか、確実に無駄なんだろう。

 これだけ強制力が働いているのだから、それなら俺がここに留まっているのがそもそもの間違いだったのだろうな。


「アレス様。これから先お一人で……何を成されるのでしょうか?」


「答えるつもりはない。お前達には関係のない話だ」


 このゲームに於いて最終目的は、攻略対象に恋をして結ばれる。

 学園生活最後の年。魔物の暴走によりラスボスが出現する。

 そして、それを倒して幕を閉じる。よくある展開だが……俺に残る記憶は最悪なものでしか無い。


 ラスボスを倒すというのは、各キャラに置いて共通する唯一のイベントであってアレスだからというわけではない。

 しかし、最後の最後でミーアを殺すことになるのは俺が耐えられそうにない。

 好きになるはずがないと思っていたのに、この世界のシナリオは残酷だ。


「私は嫌です。離れたくはありません」


「だから、こういう事は止めてくれ」


 ミーアは俺に抱きついて離れようとはしない。

 俺なんかと比べてその小さい体からはしっかりと力が込められている。


「アレス様、あの時にお会いしてからずっとお慕いしておりました。それなのに、こんなことって……どうかお側に居させてください」


「ミーア、ちょっと、おい」


 体勢が不安定だった俺は押し倒されたかと思えば、ミーアは俺に何の躊躇もなく唇を寄せていた。

 慌てて両肩を掴んだものの、押し退ける前に唇は一瞬だけ触れしまった。

 俺がシナリオを拒むことで、こんなにも早く展開を進めるつもりなのか?

 だけど……俺は……嬉しいと思ってしまった。


「ここまでするとは思わなかった」


「はしたなく思われようとも、私の気持ちは変わりません。アレス様が私から離れるというのでしたら、私はその後を追います。命を落とすことになっても……」


 それだけは勘弁してもらいたい。

 このまま一人になれば、後を追わせて殺すつもりだというのか?

 なんでこんなことに、俺は一体どうすれば……どう考えても完全に八方塞がりにされた訳なんだな。

 残された選択は、ミーアとともにいることだけなのか?


「それは止めて欲しい。婚約者だからと言って、そこまですることなのか? それに、破棄すれば……」


「私はアレス様が婚約者だから側に居たいなど、一度も考えたこともありません。本当に好きだから、お側に居たいのです」


 何でこんな事になってしまったんだ。俺はただ彼女を守りたいだけなのに……ゲーム終盤で言うセリフを今ここで使ってくるのかよ。

 この言葉は……果たして正解なのだろうか?

 それとも……俺には、あの結末を変えられることは出来ないということなのか?


「私の思いがアレス様に届かなくとも、例えパメラさんを選ぶことになったとしても、私の思いは変わりません」


「パメラ? ちょっと待て、何でアイツの話が出てくるんだ?」


「アレス様が居ない間に、パメラさんとは色々ありました」


「だけど、ミーアはパメラといがみ合っていただろ?」


 二人は互いに俺に対してアプローチを仕掛け、何かに付けて対抗をしていた。

 そして、俺が居なくなったことで何があったというのだろうか?


「はい、以前はそうでしたが……私が正妻で、パメラさんが妾ということで話はついております」


 ミーアは顔を真赤にしている。

 ついておりますって、ミーアだけでも厄介だと言うのに、パメラまで本格的にルートに入っている。


 何から何までおかしい。

 今までの流れで、そんな風になる要素があったんだ?

 この二ヶ月の間、シナリオは俺を閉じ込めるように動いていたのか。

 ミーアだけでは役不足と判断され、パメラまで投入して来たというのか?


「俺は元々婚約は破棄するつもりで、パメラが妾とかも意味がわからないんだけど。それに、俺は誰とも結婚するつもりもないし」


「私は婚約破棄なんて認めません。だから、どうかお側にいることをお許しください」


 再度、真正面から抱きつかれ、離してくれそうにもない。

 それでも抱きしめることは出来なかった。俺にはそんな資格はないと思ったから。

 最悪の展開は、継続されこれからはこの二人が俺の隣りにいるつもりなのか?


 そんな状況だと言うのに、俺自身も今の抱きつかれていることで、落ち着いていられるのは、やはり彼女に対して特別な感情を持っているから何だと思う。

 離れて欲しいのに離したくない矛盾は、ミーアを思うこの気持ちが原因なのだ。


「負けたよ。今はまだお前たちと一緒にいることにするよ」


「アレス様……ありがとうございます。ですが、私も諦めるつもりはございません。私を選んで頂けるようがんばりますので」


 一体何を頑張るつもりなんだ?

 この状況にまた頭を悩ませる日々が続くのだけど、やっぱりミーアはこの笑顔が一番似合っている。


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