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33 そろそろ帰るか

 あの日以来、調子に乗っていた俺は、オーガやミノタウロスでの実験ばかりしていた。

 レベルアップのおかげか、熟練度によるものなのか、風球から発生する、エアスラッシュのよる斬撃も五連が当たり前のように使えるようになった。

 連撃が増えただけではなく、あのトロールすらたった一つの斬撃で両断できるほどまで強化されていた。


 誰も入って来ないダンジョン。

 何より、確実にレベルアップの実感が見えてくると、魔物をひたすら倒し続け遂にはコアの在り処まで後少しの所まで来ていた。


 まだ続けたい気持ちもあったため、少なくなった食料の買い足しへと、ダンジョンの外に出たことで何のためにここに来ていたのかを思い出していた。

 ロロソカの町へ向かう途中に立ち寄った町で、日時を確認すると授業パートどころか、学園ではダンジョンパートに入っており日付も七月十二日になっていた。


「怒られるのは別にいいのだが、完全に目標を見失っていたな」


 腹拵えを済ませてから、ロロソカの街へ向かった。

 風魔法を使った浮遊魔法のスピードを上げると、戻るのに時間はかからない。

 レベルも上がっているおかげか、来たときよりも速度もかなり上げやすい気がした。


「鑑定を頼みたい」


「ああ、あの時の……かなり期間が空いているようでしたが、何かあったのですか?」


「ダンジョンに篭っていただけです。それよりもこれをお願いします」


 俺は腕輪を取り外し、カウンターに置く。

 討伐の確認は水晶に触れてもいいし、受付に腕輪を渡しても受付の人が代わりにやってくれる。


「はい、わかりました」


 ギルド会館には、俺と同じように学生も数人居たが、俺が来たことで逃げるように去っていく。

 奥からは、悲鳴のような雄叫びが聞こえている。そういや、最初にありえないとか言っていたっけか……面倒にならないといいんだけどな。


「これはどういうことなんだ?」


 受付の人に呼ばれ案内された部屋に入ると、俺を待ち構えていたのがここのギルド長だった。

 倒した魔物の数、それによる換金の金額。

 目標の金額を超えていたため嬉しい限りだった。


「どうも何も、倒した結果がここに出ますよね? それを俺にどうしろと?」


「どう考えてもおかしいだろ? お前さんがここで登録してまだ三ヵ月も経っていないというのに、こんな事がありえると思うか?」


 あり得ているからこその結果なんだが……やりすぎたとは言え、俺のおかげであの場所は暴走から守られたとどうして考えないものかね。


「前にも受付の人に言ったけど、どうやったら不正をできるんだ? 俺は、間違いなくオーガ共を倒してきたんだよ。それだと言うのに、ギルドはその報酬を払うつもりがないというのか?」


「いや、しかしだな……」


「こんな事は言いたくはないが、俺の名前はアレス・ローバン。ローバン公爵家の次男だ。このことは父上に報告させてもらう」


 テーブルに置かれていた、ブレスレットと報告書を持ち部屋から出ていこうとすると、慌てたギルド長が俺にすがりついてきた。

 討伐した魔物の数でギルドと色々揉めたが、なんとか換金してもらえ、五百万を超える金額になっていた。


 そんな金額はすぐに出せないと言うので、俺は二十万だけを受け取り、ギルド長と一緒にあの武具屋に立ち寄った。

 前回見せてくれた武器はまだ残っていたので、ギルド長に支払いを頼み、武器屋には分割となる代わりに金額を上乗せし、それでも余ったお金はギルド会館に寄付という形で纏まった。


 親父も驚いてはいたがそんな事はどうでも良かった。

 買った武器を収納してから、無駄な話し合いのせいで夜になってしまった。街から離れてところで王都に向かって飛んでいく。

 流石に飛んだまま学園に戻ると色々と面倒なので、近くにある森の中に降りて門に向かって走る。


「はぁはぁ……ようやく門か」


「おい、大丈夫か? その制服は……ラカトリアの高等部か。どうした何かあったのか?」


「い、いえ。帰るのが遅くなってしまっただけで……」


「そうだったのか。でもまあ、その体ならいい運動になっただろう」


 ダンジョンで暮らしていたとは言え、鍛え上げた自慢のワンパックは相変わらずで、兵士の人に軽くポヨンされた。

 ミーアとの婚約解消のために頑張ったこの体型だったのだが、仮に痩せるとゲームでのアレスは、それなりの美形だから周囲の目が変わるのも正直嫌な話だ。


 婚約が解消ができないにしても、こうやって相手を騙すのにもこの体は丁度いい。

 王都まで戻ってきたが、真夜中ということもありゆっくりと歩きながら学園の寮へと戻った。

 来月は夏季休暇期間で、大体の学生は実家に戻ることが多い。アレスもその一人で、ミーアとのイベントが当然存在している。


 俺としては、再びスォークランに戻りコアの破壊を考えている。

 あの様子からして、他のダンジョンに戦力を回していたとするのならそっちの方も攻略してもいいかもしれない。

 レベルアップがあるのだから、コア破壊によるステータスアップも当然見込める可能性がでてきた。


「来月まで後二週間ぐらいか……まあ、面倒なことがなければいいのだが」


 久しぶりに自室のドアを開けると、どうやら俺は部屋を間違えたらしい。廊下へと戻りもう一度部屋の番号を確認した。

 アレス・ローバンと札には書かれているので、ここが俺の寮室で間違いはないらしい。


 暗かったとはいえ、部屋には何も置いていないはず。しかし、部屋の中には家具らしき物の影が見えていた。

 恐る恐る扉をもう一度開けると、部屋には明かりがついていて、居るはずのない美女が部屋着のまま立っていた。


「アレス様。お待ちしておりました」


「ミーア、何でここに? それに家具とか……てか、何やっていたんだ?」


「お話は後にしてください。随分と汚れていらっしゃるので、先にお風呂にお入りください、既にご用意はできておりますので」


 そう言ってニッコリと笑うミーア。笑顔にも関わらずその裏に隠れた重圧を感じ、俺は逆らうことも出来ず言われたとおり風呂へと向かう。

 あれが静かに怒るというものなのだろうか?


 姉上からも昔似たような経験もあったのだが……ミーアの場合はそれ以上に感じるな。

 下手なことを言えば怒られるのは確実だろうな。別に怒られた所で……ミーアとは親が決めた婚約者なだけであって、俺自身本気で結婚とかは考えてもいない……じゃなくてだ、あの結末が起こらないようにするのが目的だ。


 何のために三年もの間、ダンジョンに篭っていたのか、レベルを上げるのは何のためか……今回のことでよく分かったはずだ。

 あのまま一緒にいるよりも、一人の方が効率がいい。


 近くにいれば気にかけるし、怒っているのなら丁度いいのかもしれないな。俺がやっていたことをありのままを伝えて、距離を取らせ離れるのが一番だろう。

 それでまた、彼女を泣かせたりするのか……俺はお湯を顔に何度もかける。

 そんなことを俺が気にしてどうする。 


「アレス様? 長湯はお体にあまり良くはありません。お待ちしておりますのでお早めにお願いいたしますね」


「あ、ああ。分かったよ」


 部屋をよく見てみると、両壁にベッドが置かれている。

 ここは個室のはずなのだが……それに、パメラが何でそこで寝ているんだ?

 ベッドの間に置かれたテーブルに、紅茶が入れられている。

 そんなことよりも、コイツはよく男の部屋で寝ていられるな。


「そのように女性の寝顔を、ジロジロと見るものではありません。どうぞお掛けになってください」


「ああ、悪い。なんでいるのかと思ってだな……」


 それを言ったらミーアもなのだけど……寮室の行き来は夕食までと定められていたはず。

 出されている紅茶をすすり、ミーアの様子を見ていると落ち着いているように見えるだけで、時折唇を噛んだり手が震えたりもしている。


「そう怒るなよ。悪かったよ、勝手に出て行ってて」


「そのようなこと、お気になさらないで……ください」


 どういうことなのだろうか?

 怒っていない訳ない。何も言わないまま出ていって、約二ヶ月も音沙汰もなしに怒らないはずがない。


 それなのに気にするなで済ませるというのは、何を考えているんだ?

 ついでにパメラも何でここにいる? 俺が帰ってきた時に文句でも言うつもりか? こいつなら『何処に行ってたのですか』とか、『何を考えているんですか』とか喚くはずだ。

 想像しただけでやかましいな。

 

「アレス様。よくぞご無事で……何よりです」


 ぼーっと壁を眺めていたのでミーアが後ろに来ていたのを気が付かなかった。

 ミーアの頭が首筋に当てられ溢れ出す涙が、背中へと伝わりそれだけで俺の心は締め付けられ、掛ける言葉が出てこなかった。

 離れなければいけないはずなのに……さっきまでそう思っていたはずなのに言葉にならない。


 俺は何のために……それが本当に正しいのだろうか?


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