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32 一人のダンジョン探索

 冒険者ギルドは朝早くから開いている。

 昨日のように、ある程度魔物が少なくなっているのなら、別の場所に移る冒険者も居るからだ。ギルドでは、貴族からの依頼などもあるので、場合によっては報酬に色を付けてくれる所も存在しているらしい。


「すみません。鑑定をお願いします」


「へ? 確か昨日の夜に登録しましたよね……鑑定って」


 この人は昨日いた受付の人?

 ここの二階で寝泊まりでもして居るのかもしれないな。なんとも、長時間労働ご苦労なことだ。


「あれからミーカトのダンジョンに行ってきました」


「は? でも、夜ですよ? そんな数匹倒した程度で……」


「正直何匹倒したのか分からないけど、とにかく鑑定して欲しい」


 渋々といった様子だったが、鑑定用の部屋に案内され言われた通りに水晶に手を触れた。

 ブレスレットが光ると、水晶の下に置かれた紙に文字が浮かび上がる。こうやって討伐の記録が映し出されるのか……


「なな、なんですかこれ……」


「数は大体百八十程度だったか」


 あの記録からして、魔物が見えないまま遠距離で倒したとしても大丈夫のようだな。

 これだと、大した成果にもなりそうにないな。


「あ、あの……これ本当なのですか?」


「本当も何も、どうやったら虚偽の報告ができるんだ? その話は登録の時に聞いた。不正は出来ないって」


「それはそうなのですが……」


「だとしたら何の問題があるんだ?」


 一人でブツブツいいながら何度も見返している。

 納得ができなかったのか再検査をするように勧められたが、一度鑑定したので当然何も記入はされない。

 まだ納得はできていないのか、俺は一旦ホールに戻され、査定が終わるまで待っていた。


「おまたせしました」


「それで? 全部でいくらになったんだ?」


「合計で八千ルーリになります」


 その金額の少なさに愕然とした。

 あれでたったの一万すら行かないとは……めちゃくちゃしょぼいじゃないか。

 いくら索敵魔法が使えるとは言え、こんな所にいたら武器を調達するだけで何ヵ月かかることか……この場所はダメだな。


「一日でこの程度とは……」


「いえいえ、凄い額ですよ? 昨日登録したばかりでこの数は有り得ません。それに何階層まで行ったのですか?」


 ありえませんと言われても、その金額がありえないんだよ。

 時間がかかるのは分かるが、装備品を買うだけでこんな馬鹿らしいことをしていられるか!

 最強装備ならまだしも、半端な装備を集めるだけでそんなに時間を使えというのか?


 置かれていたお金を受け取り、ダンジョンに籠もるための食料を買えるだけ買っていく。

 俺のレベルで倒せそうな所で、それなりに大きな金額を稼げる所。

 ミーカトの次となれば、ベーオヘウスか?


 行くだけで三日ぐらいはかかる。飛べばそんなことはないが……あそこにいる魔物を相手にすることを考えただけで、行く気が失せてくる。


 もし仮に金額が良くても、正直あまり行きたいという場所でないからだ。

 骨だけならまだしも、ソンビは見た目からして気持ち悪いのと、腐臭が漂うのなら最悪でしか無い。


 少し飛び越えて、最初にして最大の難関。多くのプレイヤーが挫折を味わい、俺と同じくセーブデータをリセットするきっかけともなったところ。


 スォークランダンジョン。

 オーガやミノタウロスといった大型の魔物が、出現するところだ。


 この辺りから難易度も大きく変わってくる。耐性は全くもっていないが、HPが多いので中々倒れないし、一撃のダメージもかなり大きい。


 だけど、お金や経験値も当然増えるので、今の段階で通用するのなら挑戦する価値はあるのかもしれない。

 ゲームでは苦汁を舐めさせられたが、今の俺は三年という時間を費やしているんだ。


 魔法もかなり精度も高く魔力量にも問題はないはずだ。

 スォークランダンジョンの近くに、タシムドリアンという街がある。


 大まかな地図であればまだある程度は記憶に残っている。

 支度を済ませて、街を走り抜ける。人気のない森へと入り、上空へと飛び立つ。


「方角は大体あっちだったか? 迷ったら街に行けばなんとかなるだろう」


 スォークランで、何故挫折をするか。一学年の最後に試験としてオーガを十体倒すということになる。

 そうなれば、行き先をスォークランに固定され他の場所に移動ができなくなる。

 攻撃力の高さに加え、魔物のHPも高い。ここで問題になるのが、ミーアのHPの少なさだ。


 最大にまで回復をしていたとしても、一撃で簡単に沈む。

 この頃はまだレフリアを外せないし、かなり強い装備があるというわけでもない。だから攻撃力も弱いのでどうしても苦戦を強いられる。


 それなのに……魔物の数は最低三体のグループとして必ず出現するのだから手に負えない。

 多少危険かもしれないが、あのままあんな所で頑張っても意味を感じられない。


「あの形は……きっとタシムドリアンだな。だとするのならあの辺り」


 タシムドリアンという街があるのだが、そんなに賑わっていた街でもないので、ちらっと上空から見たがあまり人がいない。

 そういう土地柄なのかもしれないな。


 ダンジョンに到着して、中の様子を確認していく……オーガが出現するのは三階層。

 一階層には、トロールやギガース。ここの魔物なら、これまでの魔物とは違い、エアスラッシュを改良した風球から発生する三連撃だけでは倒せなかった。


「流石に強いな……魔物からして、ここがスォークランであっているよな。入ってすぐにこの数のお出迎えは、ちょっと感激させすぎていやしないか?」


 一撃で倒せなくても、連射をすれば倒せないことはない。

 風球も最大六連撃まで使えなくもないが、そこまで行くと魔力の消費もそれなり高く、一日中狩り尽くすことは出来ない。

 トロールなら四発ほど当てると倒せるので、今の俺でも十分通用する。


「それだけでかいと当てやすくて助かるよ」


 入り口にこれだけ集まっているということは、ここの場所はかなり長い間放置されていたということか?

 索敵を展開すると、おびただしい数の魔力反応に脳がそれを処理しきれないからか、立ちくらみのような感覚に襲われる。


「おいおい、流石にこれは冗談だろ?」


 一瞬だけとは言え見えた魔物の数に対して、一体を一撃で倒すことはほぼ不可能だ。

 そして、この魔物の数……かなり危険な状態だ。

 魔物の暴走を防ぐために冒険者や貴族が居るのだが、ここは放置されているのか他の所に戦力を回しているのか?


 それにここなら、一年生の試験となる場所だけど二年生がここに来ていたとしてもおかしくはないはず。いや、ゲームのようにこんなのを相手にする学生が本当にいるのか?

 ミーカトになぜ学生が居た?

 俺とラティファ以外にあそこにいる一年生は居ない。


「正直に言って、こんな事はあってはならない問題だ」


 どんな理由があるのかは知らないが、今の俺にとっては好都合とも言える。

 倒せない相手でもないし、下へ行けばここと同じような事になっているだろう。

 金を稼ぐには丁度いい狩場かもしれない。


 大型ということもあってか、攻撃を回避するのも、シールドを使って弾くのも特に問題にならない。

 複数居たとしても、俺の魔法は回避できない。一体に対してたかが四発の使い慣れた初級魔法だ。


「とりあえず、今日だけで一階層を掃除するか」


 索敵を使う事はできそうにもないが、魔物を誘き出すのは簡単な話だ。

 無数に広がる、風の球体からは斬撃が繰り出され、次々に魔物たちが塵となって消えていく。


 中級爆裂魔法、バーストロンド。


 距離ができたことで、魔力を溜め込む時間もそんなに掛かることもない。

 放たれた小さな光の粒が、トロールたちの隙間を掻い潜り、散開していく。

 一つの光から爆発が始まると、次々と爆発の連鎖が始まっていく。


 俺が住んでいたダンジョンで使っていたが、こんなにも効率よく役に立つとは思っても見なかった。

 そのダンジョン内に響き渡る音に釣られて、トロール共が集結してくる。

 その数の多さに、ここがどれだけ放置されていたのかを物語っていた


「それにしても……この辺りのダンジョンは大丈夫なのか?」


 続々と集まる魔物を相手に、そんな心配もすぐに消え失せてしまう。

 次のダンジョンが始まるまで一ヶ月と少し。その間に目標金額を集める必要があるのだからな。

 それに、俺がここで魔物を倒すことでここの暴走を食い止めることは可能だ。

 

 一日、二日と時間が経つにつれ、時間の感覚は次第になくなっていく。倒しても倒しても途切れない魔物を討伐することだけに専念していた。

 二階三階へと降りていき、トロールよりも強いオーガが出現するようになる。

 これがまた、本当に硬い。


 しかし、この下にはミノタウルスという体力バカがいるおかげで、レベルアップのテストもできそうだった。

 他のダンジョンではエアスラッシュの一撃だけで倒せるのに、こいつはその程度ではびくともしない。

 必要魔法攻撃回数を目安に、自分の強さが変化するのかという実験もすることができそうだ。

 風魔法の強化としても十分役に立ちそうだった。


「そう慌てるなよ。先はまだ長いんだ、色々試させてもらうぞ」


 トロールたちを殲滅してきたことで、俺は確実にレベルが上っているのを実感していた。

 使えそうな魔法を改良し、それが当たり前に使えるようにと訓練を実戦の中で経験していく。

 久しぶりに湧き上がる衝動に、突き動かされていた。

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