31 破壊令嬢ラティファ?
現段階でダンジョンへと向かっても、報酬が貰えないので話にならない。
店主にギルド会館の場所を聞き、まずは登録を済ませる必要がある。
魔物は倒せば塵となって消えるが……一体どうやって記録するんだろうな。
酒場のようなものをイメージしていたが、なんというか、役所みたいなところだな。
夜ということもあって、冒険者たちの姿はなかった。
この体型でバカどもによる煽りを覚悟をしていたが、何事もなくて助かる。
「あら? 初めての方ですね」
「そうだよ。ラカトリア学園一年のアレスだ。冒険者登録をお願いしたい」
「え? 一年生? おかしいですね、今は学園ダンジョン期間なはずではないのかしら?」
冒険者ギルドへ登録に来たのだけど、さすが毎年学生が登録しているだけあって、学園の内情もよく知っているようだ。
まだ一週間を残して、この時期に登録を済ませようとする学生は今までに俺ぐらいなものだろう。
「今年は本当珍しいですね。この時期に二人も登録に来るなんて」
「二人? 俺を含めて二人ということか?」
「そうですよ。でも登録だけであれば、これまでにも居ない訳ではないですが。先日登録した方は、ミーカトにもう行ってますので異例ではありますね」
俺よりも早くここに来た生徒?
他の所へ移動するには、あの木管を手に入れる必要がある。
レフリアの番号は二番。一人だけで行動をしている人物。そんなものは、ラティファしか考えられない。
初日に札を取ってからすぐにここに来ていたのなら、時間的にも十分考えられる。能力からしてとんでもない奴だな。
戦力で言えば、俺を除いたメンバー全員ですら足元にも及ばないだろう。悪役令嬢のほうがパメラよりも十分役に立つのかよ。
悪役って言われるぐらいだから、性格の難さえ無ければの話だろうけど……もし、仲間にできるのなら心強いだろうな。ミーアのためにも仲間になって欲しいものだな。
「それは良いとして、登録を済ませてダンジョンに行きたいんだ。登録しないと報酬が貰えないのだろ?」
「そうですね。では、こちらに記入と、こちらの水晶に血を数滴お願いします」
血を使っての登録?
なるほどな、あのブレスレットは他者に利用されないために、何かの情報を書き込んでいるということか。
この水晶は恐らく魔導装置だな。
血か……遺伝子? それとも、魔力の質とかで判断できるのだろう。
オーパーツのような謎すぎるアイテムのようだけど……これで本当に大丈夫か?
「これで登録が終わりました」
「ありがとう。これを腕に着けているだけでいいのか?」
「はい。魔物を討伐したら、塵化がどうとか……ごめんなさい私も詳しくまではわからないの。ですが、腕輪の持ち主かどうかは、こちらですぐに分かりますので不正も出来ないですよ」
ギルド職員としてそれでいいのだろうか……幾つか疑問の残る説明だが、何を聞いたとしても、この人からはこれ以上話をしても無駄のようだ。
渡された腕輪だったが、どう見てもサイズが合うとは思えない。
「あの、もう少し大きめのサイズはないのだろうか?」
「へ? そのまま腕に当てるだけで自動的に収まるはずなのですが」
言われたとおりに、手首に押し当てると締め付けられることもなく綺麗に収まった。
こういう仕組みだとしても事前に説明して欲しいんだけどさ。この職員から何かを聞いた所で、まともな話はできそうにもないな。
振ってもずれることもなく、まるで体の一部になっているかのように付けているという感覚すらない。
「例えばだが、遠くからでも討伐の記録は残るのか?」
「その言っている意味がよくわからないですが、魔法で離れた所からでも問題はないです。気にしないほうが良いですよ」
ここが、十分に気になる話なのだが……俺の戦い方で、もし討伐の記録が残らないとなると、お金が手に入らないだろう。毎度毎度近づく必要があるとか効率が悪くなる。
それにしても、これでよくギルド職員なんてやっていられるなこの人は。それとも、こんな事を気にする俺がおかしいのか?
「わかりました……」
「くれぐれも気をつけてくださいね」
煮え切らないが、いつまでもここにいても仕方がないので、一先ず腹拵えをすませることにした。
屋台があるが……大人たちは酒を飲みながら楽しんでいる。
どうせなら俺も頂きたいところだが、この世界では学園の生徒は酒を禁止されている。
時刻は、そろそろ夜の八時になるのだが、俺はそんな事はお構いなしにダンジョン中に入る。
いつものように、索敵魔法を展開し反応を見つけ視認できるまで近づき、討伐した数を確認しながら手当たりに倒していく。
いままでなら、射程内の魔物に風魔法を飛ばすだけで倒していただけだから……はっきり言って面倒すぎる。
「これでやっと二十か。先は長そうだな。一匹で百ぐらいのお金がくれる設定なら?」
目標金額は四百万。魔物を倒して得られる金額が仮に百だとしても四万匹……考えたくもない数でしか無い。一体いつになるっていうんだ。
ミーカトであれば、多くの学生も来るからラティファのように全く敵が居ない階層になるのかもしれない。
ゲーム的に考えればここの魔物はよくて、二十程度のお金が貰えればいいようなもの。
どこのダンジョンも同じで、魔物を倒してから次の魔物が出現するまでそれなりに時間もかかる。俺が暮らしていたダンジョンもそうだったし、ゲームのように索敵すればいくらでも無限に戦えるということもない。
一階を狩り終えてから二階層に降りた。
「それにしてもだ! 敵が少ない! もしかして、ラティファでも居るのか? 反応はなさそうだけど」
一階に比べ、二階層のほうが魔物の数が減っている。
こっちから行くのも面倒だったので、魔法で音を立てて呼び寄せてはいるが、反応が少なすぎてどの道効率が悪い。
「ふざけるなよ……」
一体どんな方法を使って魔物を狩り尽くしていると言うんだ?
俺のように探索をしている? しかし、これは俺のオリジナルの魔法だ。
ラティファが優秀だとしても、索敵まで考えるか?
魔物を倒すだけなら、音を出せば寄ってくる。今俺がやっているようなものだろうな。
三階層まで来ると、そのまま次の階層を目指しつつ近場の魔物だけ倒して奥へと進む。五階層まで来てようやくそれなりの数がいるのを確認できた。
とはいえ、元々数が少ないからか、上の階と比べてという話でこの程度ならまだまだ少ないとさえ感じてしまう。
「魔物の数からして、ここには来ていないようだな。夜だからもう帰っている可能性もある……反応からして入れ違いかもしれないか、だとしても少しぐらい残してくれよな。ここ来てようやく本番開始かよ」
リザードマンの上位種だとしても、俺からすれば弱い魔物でしか無い。風魔法が弱点でもあるのだが、斬撃一回で両断できる。
十体が同時にいたとしても一瞬で終わる。だからただブラブラと歩いては、反応がある魔物に風魔法を飛ばして倒すだけの単純作業。
だけど、そんな作業をいつまでも続けることは俺には出来なかった。
魔物を倒した数を覚えるのを止め、手当り次第に変えて最下層まで行くことにしてみた。
ここは全部で七階層。
全ての階層はそれほど広くもなく、風球の数を増やし三十分もあれば次の階に降りられる。
最下層までたどり着き、奥まで行けばダンジョンコアがある。
街に居た冒険者たちからすれば、ここに居るリザードマンは大した相手ではない。それなのに、王都から近いこの場所が未だに残っているのは、学生たちが利用するために残されているんだろうな。
とりあえず最下層に居る全ての魔物を殲滅した後、換金の金額を確認するためにギルドへ戻ることにした。
倒した総数は二百程度だと予想しているが、遠距離の敵が加算されているかどうかが気になるところだ。
地上へ出るとまだ朝にはなっていなかったので、街へと戻る前に少しだけ仮眠を取ってからギルドに向かった。