29 学園ダンジョン目標達成
訓練場でひたすら魔法を撃ち続けたことで、ある程度様になりつつある。
だけど、あのまま打ち続けていても意味がないので、俺達はダンジョンに来ていた。
二人が使っている魔法は爆裂魔法のバースト。
その魔法を敵内部で、発動させることで弱い威力ながらも効果的な戦法。
とはいえ、音も大きいので当然別の魔物を呼び寄せることになる。
「お前達も、休憩するか?」
「アレスさん。こんなところで何やっているんですか? 私達の状況見ながら。一人でお茶しているぐらいなら助けてくださいよ」
「それは、貴方様がやたらと魔法を撃つからです。もう少し音を出さないように工夫をしてください」
弱い魔物とはいえ、二人にも疲れが出始めている。ここで怯えていたあの頃とはまるで別人のようだ。
ミーアは武器に魔法の付与をしていないから、魔力が残っているようだな。とは言え余裕があるほど、温存しているようにも見えない。それに引き換えパメラのやつはまだ続けるつもりなのか?
魔力量で言うと、ミーアよりもかなり多いみたいだな。
「とりあえず魔法を使うな。そうすれば少しぐらい休憩できるだろ」
「でも、実践特訓だし」
「それで大怪我をしていたら意味がないだろ。ミーアの事も少しは考えろ」
「私はまだ、平気です」
そう言うとレイピアが火を纏っていた。
無茶してなければ良いのだが……二人共連戦による疲労も溜まっている。
戦いに集中しているので、俺のことを見ている余裕もなさそうだな。風魔法を使い、今いる魔物と周辺にいる魔物を蹴散らした。二人からは抗議のような視線を受けるが、そんな事は気にしていられない。
「二人共お疲れさん。これでも飲んで少し休め」
「ありがとうございます」
「わざわざすみません」
ミーアの場合、前衛の戦い方にはゲームと同じように不向きだな。
それに引き換えパメラの能力の高さに驚くばかりだった。王子と一緒だと、ゲームの難易度も少しだけマシだったかもしれないな。
アレを良しと思うのならな。そもそもパメラには圧倒的に戦闘力が劣っているから、あの中に入るというだけで無理かもしれない。
「アレスさん? 私がどうかしましたか?」
「何でも無い、気にするな」
魔力の高さだけが取り柄のようだし、魔法をバンバン撃っていく戦闘だったのかもしれないな。音を気にしないのなら、パメラのほうがミーアよりも戦闘には向いている。
「パメラは状況に応じて魔法を使え、連戦を続けてどうする? ミーアも居たのだからもう少し考えろ」
「はい……」
「ミーアは随分と無理をしていたな。あんなに成るまで戦うな。パメラに辛いからと言えば、あそこまで撃つこともなかっただろ?」
「申し訳ございません」
「今は少し休め、魔物は俺が相手をするから」
しばらく休憩をして、再戦をするのだが……二人共相変わらずの爆音で、何のための実践かわからないままだった。
途中からは、俺も参戦してパメラには魔法の指示をしていた。
ダンジョンから戻る頃には二人はヘトヘトになるまで疲れ果てていた。
何かと張り合う二人。いつの間にかライバルとしての関係になりつつあるのだが、俺に対してのアプローチだけは勘弁して欲しい。
レフリアには誂われ、ミーアの行動には思わず我を忘れそうになるが、パメラの横槍でなんとかなってはいるにすぎない。
「皆、さっきの音で魔物が三匹きたよ。アレスはまだ使えそうかい?」
「大丈夫と言いたいが、五分で終わらせろ。連戦続きにならないように、二人は爆裂を使うなよ」
「次は私の番だと思ったのですが……仕方がありません」
訓練を終えてから、あれから一週間がたった。
ハルトの剣に氷の大剣を付与して、俺は魔物の注意を引くために、弱い魔法を打ち込んでいく。
「もう少し音をなんとかできればいいのに」
「使うのなら、ライトアローだな。レフリア、そっちに二体頼めるか?」
「だそうよ、ハルト」
「アレスはホント無茶を言うよね」
先手はミーアの浅い攻撃と、ハルトとレフリアの同時攻撃で魔物を切り離す。
頭部をアイスニードルで怯ませると、ミーアが続いて攻撃に移る。爆裂を使わないともなると、どうしても大したダメージにならない。
パメラの光魔法は弱く、こちらに至っては槍で攻撃していたほうがマシなレベルだ。
「私の攻撃では、止めに成りそうにないですね」
「そう気にするなよ。槍を使って、足元を狙え」
「足を? わ、分かりました」
アイスニードルの針で片目を失った魔物は、持っている武器を振り回しパメラに対抗している。
槍とはいえ、相手も同じぐらいに長い棍棒を持っているので迂闊に近寄れないのだろう。
「ミーア、火の付与しろ。頭部からならある程度効果が期待できる。魔物は今はパメラのことを見ているから、背後からならいけるだろう」
「分かりました。やってみます」
ミーアは攻撃しようにも、パメラは魔物の攻撃に押されていた。
三階層だと同じオークとはいえ、能力に差があるようだ。手負いでなければやられていたかもしれない。
あっちは相変わらず力技で応戦しているようだし、早めに加勢しないとまずいかもな。
「パメラ、ミーア。そっちは任せたぞ」
「「はい」」
「レフリア、離れろ! アイスニードル」
ハルトの方へと、移動した所で貫通性の高い針をお見舞いして、剣で切り落とすつもりが、威力の加減を間違えたのか塵化が始まっていた。
乱戦ともなると、加減をし続けるほうが難しい。それでも、皆はあまり気にしていないようで助かる。
「こっちに来て大丈夫なの?」
「すぐにでも終わるだろ。レフリアは、風魔法を使えるよな」
「一応程度にはね。アンタも知っているでしょ?」
「ハルトが攻撃を受け止めた時に、腕を狙え。あとはアイツがなんとかするだろう」
棍棒を受け止めた所で、レフリアの風魔法による斬撃が決まるのだが……俺としては、武器を持っている方にと思っていたのだけどな。
それを好機と受け取った、ハルトは追加で左腕を切り落とした。
何故そうなった?
「アイスウォール」
ハルトの前に立って氷の壁で棍棒を受け止めると、二人の追撃により倒すことが出来た。
ハイタッチしている所悪いのだが……今は言及しないでおくか。
その後も不安定な戦いだったが、戦力としてはある程度向上できたため、初級ダンジョンの目的である三階層の木簡も入手できた。
「一桁ですよ?」
「というよりも、二番目だな。最初にきたのはたった一人のようだな」
どういう仕組なのかわからないが、木簡を手にしてから番号が浮き上がる。
最初にレフリアの取った番号は二となっていた。
誰が最初に来ていたのか、たった一人でこんな所へと来れるのは、アイツぐらいだろうな。
俺達が加勢してこれだと言うのに……一体どういう人物なんだ?
「そんな事ありえるの?」
「どうだろうな、とりあえず落第は免れたのだから今日はそろそろ戻るか?」
「二階層と比べてここの魔物は強いですから、私も少し疲れました」
「そうだな。ミーアはよく頑張ったよ……パメラもな」
ミーアの肩に手を置くと、何時ものように膨れっ面をしているパメラにも頭をぽんぽんしてやった。
なんなんだろうなこれは……片方を褒めるともう片方が、機嫌が悪くなったり拗ねたりしている。
婚約者としてなら分かりはするが、パメラは俺に対してそれでいいのだろうか?
他の女子生徒は視界に入るだけで嫌がられる。ならミーアとは違い本当に俺に好意を持っているか?
俺は何を馬鹿なことを考えているんだ。
「今日はもう帰りましょう。明日は休みにしてまずは溜まった疲れを取りたいわね」
「僕はそれでもいいけど、皆はどうかな?」
「リーダーがそういうのなら俺は別にいいぞ」
「なら、決まりね。こんな所さっさと帰るわよ」
目標を達成したからか、それとも疲れたのかレフリアはダンジョンから戻るとすぐに寮へと戻っていった。
ミーアとパメラも二人揃って何か言い合いながら、俺達に何も言わず何処かへと行ってしまった。
「アレスはこれからどうするの?」
「少し街に行ってから戻る……かな? ところで、レフリアは体調でも悪いのか?」
「心配してくれてありがとう。でも、リアは大丈夫だからね。それじゃまた」
ようやく一人になれた……か。