28 ライバル?
武器の魔法付与はあるのに、武器に魔力を通して魔法を発動させるやり方はないらしい。
ラティファが使っていたあの魔法。
あの悪役令嬢は他の生徒と比べてあまりにも異質すぎる。俺も試してみたが、使いようによってはかなり有効的な手段だった。
そんなわけで、俺の余計な一言で二人に魔法を教えることになる。
まずは、バーストの魔法。この爆裂魔法をより使いやすくするためにとにかく慣れが必要だ。
どうせなら風の魔法と言えばよかったな。それなら、この二人は風の魔法が苦手なため諦めたのかもしれないのに……今更そんな事を言ってもこの二人が素直に聞いてくれるはずもないな。
比較的簡単な魔法だけあって威力はそれほど大きなものではない。だけど、使い方次第で……今教えている方法がこの魔法にとって一番効率のいい方法だ。
どれだけ強力な魔法が使えたとしても、上級になればなるほど使用するだけで時間がかかるのは論外だ。
初級魔法でも、俺のように高めていけば威力が低くても十分に役立つ魔法へと変わる。
「レフリア、悪いが二人に付き添って魔法の訓練をする予定になった。もしかしたらダンジョンは後で行くとは思うがどうする?」
「ハルトと二人だけでダンジョンに行くのもね……その魔法は私達には教えるつもりはないわけ?」
「爆裂魔法は使えるのか?」
「私は風、雷だけよ。火を起こす程度でなら使えるけど」
「出来なくはないだろうが……」
ハルトがアレを見て怒る可能性もあるし、そもそもレフリアは補助魔法も使えたはず。
まだ覚えていないだけかもしれないな。さてどうしたものか……はっきり言えばレフリアに、魔法を教えるというのは避けておきたい所だ。
「僕は一階層で訓練でもしているよ」
「ハルトがそういうのなら、私も付き合うわ」
ハルトの提案に助けられたが、レフリアは何処と無く嬉しそうだな。久しぶりに二人というのがポイントか?
あまり見ているとまた殴られそうだったから、俺達は二人を見送り訓練場へと向かった。
おさらいとして二人に威力を抑えた爆裂魔法を何度も使用させた。
「パメラは威力が大きすぎる。もう少し下げろ、音が出るのは仕方がないが大きすぎると後から来る魔物も増えるぞ」
「分かってはいるのですが。加減というのは今までしたこともないので」
「理想で言うのならこの程度だ」
野球ボール程度の火球を作り出し、空中で爆発させる。
ボンと音は鳴るが、ボールが跳ねる程度に収まっている。
一方二人は何度やっても、車が衝突ぐらいに大きい。一部を除いて、この訓練場に居る生徒の大半は魔法を使う生徒が少ない。
多くの冒険者はダンジョンで魔法を使わない。そのためか、俺達の訓練は周囲からは注目されている。
その大きな理由は、あの音のせいだ。
大きな音を立てれば当然魔物たちは群がってくる。こんな訓練をしている俺達は自殺行為にすら見えるのだろう。
こんな物は、魔物を呼ぶための魔法であって、魔物を倒す魔法とは認識されていない。
「魔力をギリギリまで抑えて、バーストの魔法を発動させるだけなんだよ。抑え過ぎればいいってもんじゃない、不発に終わるからな」
「はい……頭ではわかっているのですが」
ミーアの方を見ると恥ずかしそうに俯いていた。ミーアはパメラと違って魔力制御は上だが、抑えすぎてコントロールが効かなくなり不発を何度もしている。
俺も同じような経験をしていたから、パメラよりも先にミーアの方が使いこなせるだろう。
戦力が上がるのはいいことなんだろうけど、正直な所を言えばまともに使えないことを願いたいものだ。魔物を倒せば塵になるとは言え、音の軽減が可能になれば二人が喜々として魔物を肉片に変えるだろうな。そんな所を俺は見たくもないのだけどな。
次は武器に火属性の付与を教え、その状態から武器の先端で魔法を発動させる。慣れれば付与は要らないのだろうけど、武器に魔力を通している状態の方が分かりやすいと思ったからだ。
思っていた通り、出来損ないだったが発動が出来たのはミーアだった。
「アレス様は、付与なしでも出来るのですよね?」
「そりゃな。慣れるのに苦労はしたけど、こんな感じだ。氷だと、音もなく内部から串刺しに出来るし、風のなら斬撃も可能だ」
「盾や防御の意味がないですね。アレス様の場合……」
まあ、そういう相手がいるのだとしたら、やりようはいくらでもあると思うが……この剣だってただのお下がりだし、この前みたいなことがない限り使うこともない。
折れたりでもすれば、兄上に何を言われるかわからないしな。
「そうか? 俺はそもそも剣はあまり使わないからそういう状況になるか? 無駄口叩いてないで、パメラは何時になったら出来るんだ?」
「後一時間、一時間だけ待ってください」
見るに見かねてか、ミーアが自分なりのアドバイスをしていくうちに、魔法の発動はできたのだが……
発動することだけに集中していたのか、かなり大きな音が鳴り響いた。発動だけが条件だったから一応は達成と言えるのかもしれない。
魔力量だけで言えば、パメラは本当に高いな……ミーアの二倍近くはありそうだ。
これを覚えてしまえば、パメラのほうがずっと強い。その後の事まではわからないが……
次の日になって、二人はようやく発動できた程度なので、まだまだ仕上がってはいないが、実践を交えたほうが良いという二人の意見に俺は反対していた。
それなのになんで今一階層に居るのかと言うと、二人に抱きつかれ上目遣いの攻撃は卑怯すぎる。
何としても早急な対策が必要だ……魅了に対してのレジストを強化する必要がある。
俺は俺でこの状況に慣れろってことか? 非モテだった俺が?
パメラはともかく、あのミーアに対して、あの感触にすら慣れろと?
絶対に無理だと断言できそうなのだが……
「本当にやるのか?」
「「はい」」
「いきなり実践じゃなくてだな、もっと訓練してからでも良いとは思わないか?」
二人は睨み合ったまま俺の問い掛けが聞こえていないようだ。何をそんなに張り切る必要がある。
考えられるとしたら、レフリアとの差を埋めるためだろうな。
二階層での戦いが二人をやる気にさせているのかもしれない。
これ以上俺がとやかく言っても聞きそうにないし、ここでなら俺がいれば何も問題はないか。
「パメラ様。今日も負けません」
「私は別に勝ち負けにはこだわりません。褒めてさえくれればそれだけで十分です」
「私はアレス様の婚約者なのですよ? それをお忘れなきよう、お願いします」
「そんな事は分かっていますが、重婚でも私は良いですよ」
何を二人で啀み合っているんだ?
婚約者とか重婚とか、まるで意味が分からん。
俺はそんなつもりがないのを何で理解してくれないんだ?
「二人共、前から三体。俺も加勢するか?」
「いえ、アレス様は見ていてください」
「私だけでも十分です」
相手はコボルトだな。確かに以前に比べたら、パメラ一人でも大丈夫だとは思う。ミーアも居るし俺の出番もないな。
昨日も思ったが、訓練をしている生徒が殆どだな。初戦闘から十日は経っている。それだけ慎重なのか、俺達のクラスが他の生徒よりも強いのかだな。
「はっ、バースト!」
「おいおい……いきなり撃つのか」
塵になるとはいえ、肉片を飛び散らせるのだから見ていて良いものだとは思えない。
やっぱりな、五体はいるな……実践が欲しいと言ったのは二人だし俺は見ていていいだけのようだから。助けを求めない限り見ていることにしよう。
続いてミーアが爆裂魔法を使うことで、こちらへと向かっていた魔物は速度を上げてやってきている。
「後一体」
流石に、二人がかりで攻撃すれば魔法を使うまでもないか。
しかし、次の事を想定しているのかどうか……。
こちらへと向かってきているが、俺が指し示している意味を理解した二人は、座ることを止めて次の戦いに備えた。
実践でこれは使えるのか?
パメラは相変わらず音はでかいし、ミーアは音を気にして何度も不発を出していた。