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27 禁断の魔法は人を選ぶ

 この世界では、魔物を倒したとしても、ゲームのようにその場でお金は手に入らない。

 初級ダンジョンを合格した者は、各地にあるダンジョンにも行けるようになる。

 何処かの冒険者ギルドに登録をすることで、魔物を倒せばギルドから報酬によって資金を得られるようになる。

 ここもゲームとは違う点の一つでもある。


 冒険者の多くはそうやって日銭を稼ぐことで生活をしている。

 お金は王国から出ているので、支払いが滞る事はないというよりもそんな事はあってはならない。

 その理由は、冒険者たちの努力によって魔物の暴走を食い止めている。その冒険者達が活動できないとなると、各地に何が起こるのか誰もが容易に想像できる。

 学生たちは、家にもよるが実家からの支援を受けている奴らも居るだろう。

 ダンジョンで出会ったあの令嬢がいい例だと言える。


 俺達学園の生徒が、冒険者まがいな事をしているのはこの仕組を理解するということに一役買っているのだと思う。

 だからこそ、ハルトがそんなに深刻に言っている意味が俺からすれば理解できない。 


「それがどうしたんだ? お前たちも知っているだろ? 普通のダンジョンだとギルドから報酬が出るだろ?」


「それはもちろん、僕も知っているよ。けど、武器にどれぐらいのお金が必要になるのか、アレスは分かっているのかい?」


 そう言われれば、武器屋なんて行ったこと無い。

 家の近くにあったダンジョンでも渡された武器は使わなかった。俺にとって武器は魔法だからな、気にしたこともなかった。

 ゲームのことを思い返しても、初級の装備なんて大した金額でもないだろう。


「安くてどれぐらいなんだ?」


「数十万、最低でも五十万はすると思うよ」


「冗談だよな?」


 ハルトもレフリアも至って真剣だった。

 いくらなんでもおかしすぎないか?

 そんなアイテム価格なら、序盤だと言うのに時間がかかりすぎる。


 仮にハルトが言っていることが本当だとしたら、実家の支援が受けられないから、武器を買うことは容易な話でなくなってくる。


「そのような大金……私達に手が届くでしょうか?」


「私の実家も同じようなものでして……」


「パメラも?」


 ハルトやパメラの言い分は、本当にシナリオ通りなのか?

 俺は転生したことで外れてはいるのだが、俺個人の話だけで周りにも変化が生まれるなんてありえるのか?

 それは少し違うか……ゲームでの仕様がギルドに変わっただけて解釈している俺が間違っているのだろう。

 だとするのなら、ハルトの装備を買うにしても、ミーアたちの装備に一体いくらの金が必要になると言うんだ?


「家のことを抜きにしても、何も問題はないでしょ?」


「レフリア。お前話聞いてなかっただろ?」


「大丈夫よハルト。貴方の合う剣が見つかったのは嬉しいけど。今は無理だけど、あの馬鹿が居るじゃない」


 そう言って俺を指差し、なんだか嬉しそうな顔をしている。


「馬鹿とは何だ。一々失礼な女だよお前は」


「駄目だよ。それだとアレスの負担になってしまう」


 何を二人で完結した話をしているんだ?

 再来月にもなれば別にダンジョンへと向かうのだろ?


「私は、大丈夫だと思うわ」


 ちょっとまてよ? 物価が高い……その理由は?

 ゲームであれば売っている物は無尽蔵だけど、現実なら有限だよな?

 例えば、ロングソードを百本を買うにしても、一つの武器屋にそんなに置いているはずもない。他の武器や防具も同様に、多ければ多いほど保管する場所が必要になってくる。


 ない話だと思うが、あのアイテムのことを考えればある程度の数は保管できるか……それでも、売っている物が無尽蔵というわけでもないな。それにどんな装備でも、一つ作るのにかなりの時間もかかるよな?


 そうなれば、二人の言っている価格にも真実味が帯びてくる。

 金を稼ぐのは、思っている以上に困難なのかもしれない。

 だとしたら、俺が皆の武器を買っておくのがいいのかもしれない。


 そんな事をすれば、レフリアが文句を言いそうだ。しかし、主要メンバーであるコイツラをこのままにも出来ない。

 となると……結局四人分を集めるしか無いか?

 大剣が五十すると仮定して、ミーアがまず百だろ、ハルトが五十。パメラとレフリアは合せて五十でいいか。

 ざっとで二百万かよ。たった一ヶ月でそんな事可能なのか?


「ちょっと、アンタ聞いてるの?」


「なんだ?」


「氷の剣なんだけどさ、あれって持続時間どれぐらいなのよ」


「そんなもん考えたこともないけど、一時間ぐらいは余裕なん……」


「は?」


 レフリアの表情が一気に険しいものへと変わっていた。

 このメンバーで唯一俺のことを信用していない。

 剣ばかりを使うことなんてやったこともないから、本気で掛ければどれぐらい持つのかもわからない。


「ふっ、引っ掛かったな。本気でやったとして十五分が限界だ。それで俺の魔力は空っぽだ」


「ふーん。じゃあさ、何で目をそらすかな? ほーらこっちを見なさいよ」


「こら、二人共。手を離すんだ」


 レフリアは目を細め確実に疑いの眼差しを向けている。何たる誘導尋問。

 余計なことを考えててついボロが……というか、ボロが出すぎてないか? 考え事は一人の時だけにしておいたほうがいいな。


 俺の後ろで喧嘩するなよ。原因はコイツだよな。コイツを助けてからというもの余計なことばかりついてまわる。疫病神パメラか?

 あれ以来付きまとわれるし、ミーアとも何故か仲が良くない。原因が分からない訳でもないが、理解は出来ない。


「レフリアの言いたいことは分かった。明日からは余裕があれば氷の大剣を使用する。今はそれでいいだろう」


「何回?」


「み、南の海がどうした……」


「ちゃんと答えて。皆の……ミーアの命も掛かっているのよ」


「随分と嫌な言い方をしてくるな。皆の命がかかっているだけにしてくれよ。最大でなら十五分。それか、五分程度だと、四・五回がいいところだろう」


「ふーん。まあいいわ。今はそれで納得してあげる」


 絶対に納得していませんって顔だな。

 俺一人でなら、そんな無駄魔法を使うぐらいなら、風魔法を使ったほうがよっぽど効果的なんだよな。


 そういや、最初に行く街は……ミーカトだったな。

 ギルドから手に入る金額も調べておく必要がでてきた。初級ダンジョンが終われば、来月からは授業パートへと変わる。

 その期間を使えばなんとかなるのかもしれない。


「いいか、目安として覚えておけよ。リーダーさん」


「アレス様。その、私にも付与をできたりするのでしょうか?」


「レイピアに氷魔法をか?」


 出来ない事はないだろうが、今のミーアは氷魔法を使うことができるのか?

 俺がアレスが使う魔法以外にも使えるのだから、使えないというわけでもないか。


「いえ、氷ではなく火を付与できれば、弱い私の攻撃でも少しは良くなるのではないかと」


「あまり実用的ではないかもな」


「そうですか……」


「発想は悪くないが。氷の大剣は、切れ味や強度を魔力である程度調整できるからな。だけどミーアが使えるのは、剣に火を纏わせるぐらいだろ? 火は個体の状態を保てないから、切り口から火傷を負わせるものだろう」


「アレス様からして、私にはどうようなものが良いのでしょうか?」


「レイピアに……火魔法か、爆裂なら……い、いや。ミーアにはあまりおすすめできない」


 レイピアの基本攻撃は刺突だ。

 その状態で何が一番効果的か……俺はラティファが使っていた魔法を思い出していた。

 試したことのないものだったが……女の子いや、超絶美少女があんな物を使う所を見たくはない。


「だめだ。ミーアには教えられない。ミーアがやるようなものじゃないんだ」


「一体何なのよ? ミーアなら出来ないの?」


「なら私は? 私ならそれ出来ますか? 火魔法は少しなら使えます」


 今度はパメラがこの話に食いついてきた。

 槍だとその長さを生かして、内部からの爆裂は十分に効果があると思う。


「パメラは……べつにいいか。可愛いけど美女じゃないからな」


「美女じゃないから、別にいいとは?」


「可愛いとはどういうことなのですか?」


 二人はずいっと俺の目の前に顔を近づけてくるがどう見ても怒っているご様子。

 レフリアは「馬鹿ね」といい、ハルトは「そうだね」と、俺を助けるつもりがない。

 何故二人が怒っているのかを考え、自分の失言に気がついた俺は、二人に土下座をしていた。

 言葉の綾と言ったらまた怒られる。

 

 二人共俺に対しての怒りは少し理不尽すぎないか?


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