26 武器すら買えない?
棍棒が邪魔だなっと。俺自身、父上たちからすれば剣術の腕は大した事はない。だけど、この程度の相手なら問題なく通用する。
ブンブンと振り回す棍棒も鬱陶しいので、右腕を切り落とし持っていた棍棒が地面に転がる。
駆け付けたハルト達は側面から切り込んでいく。足に切りつけられたことにより、体を支えることができなくなったオークは倒れる。
倒れた所にハルトの剣が突き刺さり、魔物は塵となって消えていく。
オークも四人がかりというのならなんとかなるのだろう。
しかし、今の様子からして、やはりハルトの攻撃スタイルに武器が合っていない。
終盤の武器が大剣になっていたのは、そういうこともあるのだろうな。
「レフリア、頼みがある。もう一戦だけいいか?」
「どうしたの?」
「試したいことがあるんだ。最悪の場合は俺を残していってくれ」
「そんなっ……アレス様を残してだなんて」
「バカね。そんなことさせないわよ。それで? 何がしたい訳?」
俺が提案したのはハルトの武器を氷の大剣に変化させること。
もちろん魔力が少ないということにしているので、一回しか出来ないと条件をつけてだ。
できるだけ短い時間に抑えて、魔力制御をする必要がある。それに関しては、深く疑ってはいないようだ。
「僕が大剣を?」
「ああ、さっきのお前を見てそれが合っているように思ったんだ。武器を買うわけじゃない、やるにしても損はないのだから試す価値は十分あるだろう?」
ハルトと大体の大きさを話し合い、魔力を調整していく。
俺から離れた所で使うのだから、やりすぎないように心がける必要がある。
「わかった、アレスの言うとおりにしてみるよ」
「効果は最大で五分ぐらいだと思ってくれ。俺が持っているわけでもないから、早く効果が切れることも想定してくれ」
「さっきみたいに少ないといいのだけどね……」
レフリアの予感が的中したのか、さっきとは違い四匹のオーク。
氷の大剣へと変化させてから、ハルト、レフリアと二手に分かれて戦いが始まる。
だが、俺のアイスニードルで三匹を誘導する。
「三匹は俺に任せろ。同じ豚同士だ、こっちは気にするな」
ミーアとパメラは、後ろで待機をさせている。俺に加勢させるのも検討しているようだが、今はハルトに大剣を使って貰う必要がある。
とはいえ、三体も相手にすれば余計な疑いを掛けられるので、オーク二体の片足にアイスウォールで重りを付ける。
主に一体だけの攻撃を回避しつつ、持っている剣でトドメにならないように浅い傷をつけていく。
ハルトは慣れていない大剣を振り回しつつ、その後方でレフリアはスキを狙っている。
索敵を確認するが、周辺には他の魔物の反応も生徒の反応もかなり遠い。邪魔もなさそうなので、二人には口を出さないことにした。
「ハルト。私が攻撃するから、止めをお願いね」
「わかった。無理はしないでね」
「無茶をしているあいつよりかは安全よ」
レフリアは背後に回り込み、背中を目掛けて剣で切り込む。
「ウガッァ」
予想以上のダメージに振り向いたオークは、ハルトには絶好のスキを与えることになる
オーク相手であれば、中々いいコンビかもしれないな。
「ハルト、今よ!」
「はぁぁっ!」
ハルトはオークを目掛けて飛び込む。そこから振り下ろす氷の大剣は、オークの肩から腹にかけ斬撃が決まる。
氷の大剣を使ったとは言え、両断したことは凄いと言えるだろう。
レフリアは、ハルトに駆け寄り、背中をバンバンと嬉しそうに叩いていた。
「ハルト。すごいわ」
「アレス、今加勢するよ。リアも来るんだ」
「ええ」
俺が動きを止めていたオークもハルトの渾身の一撃で沈んだ。氷の大剣があれば、この辺りでなくても通用しそうだな。
剣の損傷も気にする必要もないから、俺ももう少しは剣を使ってみるのもいいかもしれないな。
剣を使用することを検討するものの……俺としては効率がとにかく悪いとしか思えない。一人であれば、いちいち近付くという必要もないし、剣を買うぐらいなら氷の大剣だけで十分だ。結局は武器を使うという想定にならない。
魔法が解除され、ハルトが普段使っていた剣に戻る。ハルトはそのまま剣を振り、空を切る。
「どうだ? 大剣を使ってみた感想は?」
「うん。僕に合っている気はする。だけど……」
「なにか問題でもあるのか?」
再び剣を見つめ、ハルトの表情に陰りが見える。大剣を使ったことで、ハルトは何を考えているんだ?
さっきは自分に合っていると言っていたが……何を気にしているんだ?
「戻ったら少し話をしてもいいかな?」
「ハルト……」
その後一階層へと戻り、魔物を倒しつつ俺達はそのままダンジョンの入り口へと進む。
ハルトはさっき大剣を使ったせいなのか、ゴブリンを相手に空振りを何度かしている。
さっきの感覚が抜けないのだろうか?
しかし、たった一度の戦闘でこれほどに影響するものだろうか?
俺の方を何度も見てきている様子からして、もう一度使いたいのだろう。とはいえ、俺のことを隠すためにもそう何度も使うわけにもいかない。
ダンジョンを抜けて、昼食もまだだったため俺の足は学食へと向いていたのだが、ミーアとパメラに掴まれた。
俺の熱弁は彼女たちに伝わることもなく、そのまま抵抗も虚しく寮へと、またしても連行された。
「話しをしたいというのは分かった。それで、何で俺の部屋になるんだよ。この場合どう考えても、学食が良いだろう? 今からでも十分間に合うと思うのだが!?」
皆は当たり前のように床に座っているが、俺の話に耳を傾けようとする気持ちすら感じられない。
「アンタね、いくら空間魔法があると言っても物がなさすぎよ? せめてテーブルぐらい用意しなさいよ」
「特に必要がないから用意していないんだけだ。だから、話なら学食ででいいだろ?」
「というかこの人数なのよ?」
学食のテーブルだったら、この程度の人数は何の問題も無いよな!
ミーアだけでもいいから、俺の話を聞いてくれよ。
「ミーア。何でこの部屋なんだ?」
「アレス様はお一人部屋ですし、他の方を気にしなくてすみますから」
「分かった分かった、もう好きにしてくれ」
そういうことか……俺の腹のことよりも、これからする話を周りに聞かれないことのほうが大事ということなんだな。
ここは俺が折れるしか無いか。
元々家具なしの何もない部屋だからな。
他がどうか知らないけど。誰も居ないと言うだけで俺的には有り難い。
ミーアには、俺の部屋のことを知られているからこんな事になっているんだろうけど。
だけどさ……何もない事をいいことに、二人は当たり前のように隣へと座っている。ついでに、服の裾を掴むのは止めて欲しい。
振り払うために、軽く手を叩くが逆効果になってしまい。俺は両手をしっかりと掴まれてしまう。
レフリアは慣れ始めているのか、俺達を見ても怪訝な顔を浮かべなかった。こんな俺と手を繋いで何がそんなにも嬉しいと言うんだ?
「もういいや、それで話ってなんだよ」
二人のことをそのままにして話を進めることにした。
この話が終われば学食に行けることになるからな。
「僕はアレスと同じ公爵家だけど。実は長男の僕は跡取りから外されているんだ。弟のほうが優秀でね……」
跡取りというのなら、大体は長男が務めることが多いよな。
その跡取りに外されたとは言え、ハルトはバセルトン公爵の子息であるということに変わりがないはず。
「そうなのか、俺の場合。兄上が居るから跡取りなんて気にしたこともなかった。でも、それがどうしたんだ?」
「うん。だから、家からの援助はないから、大剣は買えないんだ」
それはどんな問題があるんだ?
稼げばいい話じゃないのか?