22 パーティーの役割
俺の抵抗も虚しく二人に連れられダンジョンへと強制連行された。
ダンジョンに入り、索敵を展開すると二階層辺りに学生が固まっている。
複数のパーティーが集まっていると言うよりも、一つのパーティーになったと考えるべきだろう。
だとしたらこのメンバーはどうなんだろうな……ここに居る生徒の実力は、子供の頃にミーアを助けた時の俺よりも低いと思う。
だったら何で魔物を倒していない俺が強くなれたのか……セドラって意外と教師に向いているということか?
俺自身、冒険者として考えるのなら英才教育を受けてきたようなものだ。魔法はゲームの知識で、だからこれが普通だということを理解する事ができなかった。
そして、ゲームの知識があったから、少人数に対して違和感もなかった。
「二人共随分強くなったなー。だとしたら俺は足手まといだろ? 帰ってもいいか?」
一匹だけいた魔物をパメラとミーアの連携で倒していた。
以前とは違い、二人共魔物に怯えることもなく武器を上手く扱えている。
ミーアの方は、速度重視の軽い攻撃だが翻弄するのに長けている。パメラの槍はそれなりに重量もあるのか、重い攻撃にも見える。
最初から最後まで、回復要員でしかなかったのだけど、現実だとこうなるのか。ターン制だったからこそ、あのゲームがクリアできたようなものだな。
俺は踵を返すと、レフリアによって退路を断たれる。
「ダメです。アレス様は私と……私だけを守ってください」
後ろから抱きつかれると何という破壊力。思わず抱きつきそうになってしまったので、床に倒れ込み自分を制することが出来た。
脳内でリピートされる言葉を打ち消すため、何度も地面に頭を打ち付ける。
レフリアか? アイツだな、ミーアにこんな事を教えたのは!
俺の中にあるミーアのイメージを汚さないでくれよ。ゲームのままのミーアでいいんだよ!
「なにをしているのさ、アレス。大丈夫?」
「はあはあ、大丈夫だ。ミーア、頼むから過度な接触はやめてくれ」
「はい。申し訳ありません」
「ついでにパメラもだ。お前ら少しは自重しろ、いいな!」
しょぼくれている二人は、目が合うと互いを睨みいつ喧嘩になるか分からない状態だ。
それと、俺の理性も何処まで耐えられるか……こういうのに免疫、いや耐性が必要になりそうだな。
「いるぞ。さて、どうするんだリーダーさん」
「ハルトとアンタは前衛で、抑え込んだところを私達が側面から攻撃するわ」
「あいよ」「頼んだよ、リア」
俺達は魔物に向かって走り、魔物の数は三体。
ギリギリまで弱めたアイスニードルを浴びせると二体を引きつけた。
「先にハルトの方をやれ。こっちは任せろ!」
「分かったわ。二人共行くよ」
流石に四対一なら問題なく倒せるだろう。
さっきの戦いからしても、一体を彼女達に任せていても問題はない。
ハルトには、こういう場面において、俺と同じことをして貰う可能性だってある。
二階層に行くのならこういうことも必要だと分かってくれると良いんだけどな。
「アンタの強さがほんと分からないわ」
戦闘が終わると、レフリアにジトリと睨まれる。
そんなにおかしなことはしていなかったとは思うが?
「防ぐぐらいなら、あの程度出来る。それよりも、さっきみたいに一斉攻撃も一つの手だ」
「でも、アンタが倒れでもしたらどうするのさ?」
「ミーアは回復魔法が使えるだろ? ハルトが代わりに引きつけて、レフリ、ルーヴィア嬢とパメラで魔物を倒す」
「戦いながら回復をするということね。分からなくもないけど……それとレフリアでいいわよ」
「そうか。助かる」
ターン制だったらなんとかなる話でも、現状においては数が少ない。あと一人二人いたほうが、もっと楽に戦えるだろう。
回復魔法はとにかく時間もかかる。そのためにも人員は多いほうがいい。
あの様子からしても、この一週間で学生達は纏まっているみたいだから望みは薄い。残っている生徒を探すことは出来ないだろう。
俺が抜けることを考えれば、現段階に置いて俺の代わりになる生徒を集める必要があるな。
「危険を回避するのなら、もう少し人は居たほうがいいだろう」
「それもそうね。こんな事になるなんて思っても見なかったわ。ところで、アンタは私のパーティーに入るってことでいいのよね?」
「冗談言うなよ。代わりの奴を探せよな。元々俺は一人のほうが性に合っている」
こんな所でグダグダしていたいわけじゃないんだが。
来月まではそんな事も言ってられないか。個々の試験が終われば、各地にあるダンジョンへ行く必要が出てくる。
学園からは、各自の能力に合わせた魔物を一定数倒す課題もあるのだから。
不意にミーアと目が合うと、笑いかけてくれている。
「私はそれでいいんだけどね……でもさ、守ってあげなよ」
「俺より強い相手を、どうやって守るんだ?」
「アレス、さっきみたいに防ぎきるってだけでも十分すごいよ。自信を持って」
乗りかかった船とはいえ……俺がこのままいて良いことは何ひとつもない。
問題となるのは最後の戦いなわけで、レフリアの提案に少し揺らいでしまう。
あんな事を起こさせないためにと、これまでの三年間ずっとレベルを上げてきた。
それなのに……このまま一緒にいると、三年間は無駄になってしまうんじゃないのか?
「アンタがどう考えているのか知らないけど。せめて今月だけでも一緒に行動できないの?」
一ヵ月……つまり、初級ダンジョンだけは一緒に行動するということか?
それからは、別行動を取れるというのなら大して問題にもならないか。
「分かったよ。そんなに熱烈に申し込まれたら断れないな」
「アレス様?」
「アレスさん……熱烈ってどういう」
二人は肩を並べて俺に詰め寄ってくる。
一歩下がれば一歩踏み込んでくる。壁にまで追い詰められ、一体どうなっているんだ?
逃げられないようにか、両手を広げ取り囲んでいる。打ち合わせでもしたのかよ。
「あ、あれだ。二人だって俺を誘ってきただろ。それにレフリアも加わればそりゃもう、熱烈って感じだろ?」
「そうでしたか。私! のお誘いがあってのことだったのですね」
その言い方。あの時のクーバルさんを思い出す……けど、違うからな。
一人で居たいというのに、連れ出したのはミーアだろう?
そもそも、今日だってお前らのせいでこうなっているんだぞ?
「いえいえ、アレスさんの言うように私達の誘いもあったからですよ。シルラーン様だけの問題ではありません」
パメラは何でそこに張り合うんだ? 何で俺に付きまとう必要がある?
今からでも遅くないから、王子様との接点を見つけてこい。
あまりお勧めはしないがそういうシナリオなんだろ?
現状においてパメラの行動が不可解でもある。
ミーアはゲーム同様に、婚約者の俺に対して、貴族としての責務を全うしている。
王子があんな事になったとしても、パメラが俺と居る事自体がおかしい。ゲーム的に考えれば、他の攻略者と接点があっても、決められた相手は一人だけだ。
「はいはい、そうだな。ミーアが三、パメラが三、レフリアが三、ついでにハルトが一ポイントで十点溜まったからということだ。そういうことにしておけ」
「僕はついでなんだね」
「むぅ、引き分けということですか」
「そのようですわね。またそのようにむくれて、アレス様の気を引くおつもりなのですか?」
「そんな事をしたつもりはありません。止めてください」
ミーアは、頬を膨らませているのが気に入らないのか、両頬を人差し指で左右から押し込めていた。
じゃれ合っている二人を引き剥がし、今の騒ぎで、数体の魔物がこちらを見ている。
前方二、右に三、後方四。
まずいなこれは……うかつに魔法を撃てない状況でどうする?
「二人共騒ぐな、いるぞ。レフリア、前方に全員で突破しろ。後ろや右にも居る可能性がある。前方を突破しそのまま突き進むぞ」
「分かったわ。皆行くわよ」
俺は皆の後ろへと回り後方を確認しておく。手をかざすことも、魔法を使うこともない。
反応の動きからしても、魔物たちは俺達を把握していたわけじゃないのか。
それにしても、ラティファはあの日以降見ていないが何をしているんだ?
仲間に加わってくれるというのなら心強いのだが……設定が悪役令嬢だからな。
接近すれば、余計な揉め事にもなりそうだ。
「こっちは片付いたわ」
「後方は大丈夫だが、もう少し先まで行ったほうがいいな」
「そうだね。行こうリア」
もう少しで二階層の入り口だ。