20 落ちこぼれ?
ミーアに声を掛けられ、俺は大きく息を吐いてしまう。
どうせ面倒なことになりそうだから、さっさとパメラを押し付けてしまおう。
それがここから退散するのに一番いいと思えてくる。
「お前らか……いや、その助かったよ」
「アレス様。何故その方と……」
やっぱり怒っている。
ミーアは俺に対して何故しつこいほど拘っているのだろうか? 婚約者だとしても、俺の行動からは破棄をしても文句が言える筋合いじゃない。
「さっき出会ったんだよ。お互い一人だったから、それだけだよ」
「本当ですか?」
その問いにパメラは何度も頷いた。
俺は慌てて塞いでいた手をどけ、念の為にズボンで掌を拭いていた。
余計なところを見られたせいか、ミーアからの視線が少し痛い。
パメラも呼吸を整えてから、ミーアをじっと見ている。
「お前ら、コイツは一人なのに何でパーティーに入れてやらないんだ?」
「僕とリアは別にいいと言ったのだけどね」
へ?
レフリアは許可出しているのに? リーダーなんだろ?
昨日の事を思い出し、こいつが原因だろうな。
あれだけな目にあったにもかかわらず何を考えているんだか……
「パメラ。お前が断ったのかよ。何をやっているんだ? 何を言ったのか知らないけど、謝って入れてもらえよ。な?」
「アレス君がそんなだから、ミーアさんに受け入れて貰えなかったんだよ? もしかして、分かっていないの?」
「アンタって……本物の馬鹿なの?」
二人は呆れた顔をしているのだが、ミーアが何で?
とりあえず婚約者である俺が、他の子と話をしていたのが気に入らないのは分かる。しかし、ミーアに限ってそんな事あるのだろうか?
それに三人だって、昨日危機的な状態になっていたはずだ。一人でも戦力が欲しいとは思わないのか?
パメラに至っては、一人でダンジョンにのこのことやってくるし、皆は何を考えているんだ?
「何で男共はこういう所がわからないのよ」
「どういうことだよ。何を思ったのかは知らないが、お前らだって昨日危険な目にあったんじゃないのか? 一人でも戦力はいた方がいいだろう?」
ゲームとは違い、今となっては三人という少数でダンジョンへ向かう連中は少ない。
それにメンバーの制限がないのだから、クラス全員をパーティーにするのも可能なはず。
王子の所が良い例だ、後になれば統率も取れないから、散り散りになるだろうけど。
数が大いに越したことはない。
「分かりました。受け入れます」
「いいの?」
「お前もちゃんと挨拶しろ。やれやれ」
とりあえずこれでようやく一人になれるな。さてと、他は大丈夫か?
パメラはミーアに何度も頭を下げているが、ミーアの表情は少し暗い。
あれから何があったのかは知らないけど。
まあ、これで問題はないだろう。
「そろそろ行こうか。皆準備はいいかな?」
「バッチリよ」
「だ、大丈夫です」
「私もいけます」
こうしてみると、ハルトがリーダーの方があっていると思うのだけどな。
前衛だから指示を出させるのならミーアのポジションか?
今の状態で、指示を出すというのも難しい気もする。
消去法で考えてレフリアがリーダーというのも妥当なのか?
おっと、近づいている反応があるな。五体……減らしておくか。
「何処行くのよ? こっちに行くんだから」
「アレス君。一応リアがリーダーだからね。勝手な行動はしないでよ?」
ん? 何で俺も一緒に行くことになっているの?
一言も一緒に行くとは言ってない……よな?
「確認だが、俺も一緒に行くことになっていないか?」
「いないかって、いくらアンタでもこんなところを一人にできるわけ無いでしょ? 馬鹿なの? それとも死にたいの?」
「そんなつもりはないが、何でそんな事になった?」
随分と嫌われているのは良いが、それだったら尚の事放置するべきじゃないのか?
ミーアがこっちにやってくると服の裾を掴まれた。
「俺の話をしてなかったよな? パメラを仲間に入れるって話だよな?」
「アレス様は、奥まで行っていないのかもしれませんが、この辺りは大変危険です。お一人には出来ません」
今度はパメラも、同じ様に服を引っ張る。
目の前で喧嘩をするなよ。そして、睨み合うな。
二人を引き離すが、上下に腕を振っても離そうともしない。
「さっき……私と一緒に居てくれるって言ってましたので、私とパーティーになってくれているものだと」
「なってないよな……いや、もういい、分かったわかったから。助かるよ。一時的に、いや、ダンジョンを出るまで仲間に入れてくれ」
一緒にいれば、俺の実力ではない証明が出来るかもしれない。
ここで無様に攻撃を受けていたら、俺への疑いは消えるはず。
それなら、訓練場に引きこもるという言い訳も成り立つ。トラブルさえなければ後はなんとかなるだろう。
「前方に三体はいるな……」
こっちは四人はいるから、見ていてもなんとかなるか?
左の通路に二体はいるな。戦闘に入れば、こっちに撃っておくか。
「アレス様?」
「何だ? どうした?」
「魔物がいたよ、皆気をつけて。数は三匹」
「ハルト、一体を、ミーアと私でもう一体。パメラとアンタでもう一体任せたよ」
いやいや、ハルトに二体回して三人で一斉に倒せよ。
何で乱戦にする必要がある。気がついていないだろうけど、周りには他にもいるんだぞ?
なんて言った所で分かる訳がないよな。
それだと効率が悪いだろうし……今はそんな事を考えてもしょうが無いか。
久しぶりに剣を取って構える。こんなんだっけ?
いくら何でも一撃で瀕死にはならないだろうから、とりあえず攻撃を食らって……
「くかかか」
イラ。
「けけけ」
上等だ! ゴラァァ!
「何見てんだー!!」
持っていた剣に、氷を纏わせ二匹のゴブリンの首を刎ねた。
ミーアをなんて目で見てやがる。あの体を見てヨダレを垂らすなんぞ万死に値する!
「今の……何?」
「ちょっと、終わったのならこっちを手伝ってくれ」
「は、はい」
やれやれ、あとは後ろにいる奴らに向けて魔法を放つ……あれ?
俺って馬鹿なの? レフリアの言う通り馬鹿なの?
とりあえず奥にいた魔物を倒した所で、ハルトも無事に片付いたようだ。
「あんたねぇ。今の何?」
「たまたま、運良くいい所に当たっただけです」
「いや、そうじゃなくてね。それに何で後ろに向かって魔法を撃っていたの? さっき言ってた三匹って、分かってたの?」
「してません。言ってません。確認しただけです。はい」
見られていたのか?
風魔法だから、認識も難しいはず。バレてはいない。
俺は馬鹿じゃないから、きっと大丈夫。
「良いか? 敵がいたなんて俺は分からなかったが、居るかも知れないという前提でいたから対処できたのだろ? さっき後ろを見ていたのは、そっちは大丈夫そうだったからな。同じように、もしもの場合を想定しつつ、後ろから来ていないかを確認していたんだよ。手をかざしていたのは、魔物がいたら氷魔法を使うつもりだったんだ、言っておくが風魔法なんかじゃないぞ。戦闘に参加しなかったのは俺が悪かったが、魔力は少ないからあまり撃てないんだよ。だから警戒も重要だとは思わないか? そう思わないか、いや思うだろ?」
誰かが話をする間を与えることもなく、懇々と話をしていく。
「まぁ。そうだけどさ。やたら饒舌じゃない? 何か言い訳をしているみたいに感じるのだけど」
「リア、アレス君のおかげで対処できたのだから。そんな風に言うもんじゃないよ」
「アレス様は氷魔法をお使いだったのですね。私、火魔法が得意だったので、申し訳ございませんでした」
「気にするな。火魔法は、夜営があるのかもと思ってだな、覚えていて損はないと思っただけだ。十分役に立ったぞ。感謝している」
なんとか乗り切ったようだな。とはいえ、一人を除いてみたいだな。
レフリアはどうかわからないが、三人がかりであれなのか……現実は厳しいな。
「あんた剣が使えるのなら、ハルトと同じ前衛でいいよね?」
防具を装備していない俺の装備を見えてる?
ハルトはプレートアーマーだぞ? こっちは学生服。ねえ、前衛の意味知っている?
前に出て戦うんだぞ? 自慢のワンパックは体であって防具じゃないんだぞ?
「よろしく頼むよアレス君」
「もう、アレスでいい。ハルト」
「うん。ありがとう」
それからというもの、レフリアとパメラは俺をずっと観察していたようだ。
その目もあってその日は目立った行動を控え、氷魔法も使わなかった。
剣を使った戦いはいつ以来だろうか?