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133 アレス・ローバンとして

 俺は報告のために一度ローバン家に戻る必要があったが、レフリア達はそのまま継続してダンジョンに残る。

 ロイにポーションや食料を少し渡し、一人でローバン家に向かう。

 一人になった俺は昨日のことが気になっていた。


 収納魔法が使えるものは、魔法が使えないということだ。


 それが本当だとするのなら、俺はそのどちらでもない。

 収納魔法には広さがあって、ベールよりもセドラのほうが多く入れることが出来る。しかし、レベルが高いからというわけでもなく、俺の使う収納は最初からあのままだ。

 魔法を知る切っ掛けになったのは、セドラが使ったことで始めて魔法というものの存在を知った。最初に使えたのが風魔法だった。


 ロイに別の魔法を教えてみるが、何度試してもその魔法は発動することはなかった。

 皆とは明らかに違っている。

 だけど、皆にとってはそれが当たり前だった。


「父上達はどうして教えてくれなかったんだ?」


 俺がしていることは、どう考えても間違っている。

 それだというのに、皆は異質であるにも関わらず俺を受け入れてくれた。

 その事実を伏せて……。


『アレス様の魔法は、完全に別の魔法としか、言いようがないように思いますわ』


 以前、言っていたメアリの言葉。

 この世界の人間はあまり魔法を使うことがない。俺のように一人で戦うことを想定していないためで、仲間を危険な目に合わせないためだ。

 あのエクスプロードがいい例になる。

 だからといって、魔法を改良するような人が現れなかったのか?


『アンタの頭がおかしいのは分かったわ』


『あまりにも有望すぎて、これからの将来が大変そうね。お二人さん?』


 レフリアもそんな事を言っていた。

 俺を馬鹿にする発言ではなく、そうとしか言いようがなかったのだろう。

 前々から俺に対して含みのある言い方が、今になってようやく気がつくことになるとは。


『アレス様、あの時にお会いしてからずっとお慕いしておりました。それなのに、こんなことって……どうかお側に居させてください』


 ゲーム終盤でのあの言葉。

 ミーアを助けることで、俺の婚約者となったが……ゲーム開始から、婚約者となっていたアレスとミーア。元々の始まりはどうだったのだろうか?

 あのまま俺が何もしなくても、誰かがミーアを助けていたのかも知れない。


 ミーアとの出会いからそもそも間違っていたかも知れない。

 昔の俺を知っても、学園ではさも当たり前にように接してくれて、本当はすごく嬉しかった。

 あれだけのことをして、婚約破棄をほのめかし、それでも……俺に笑顔を向けてくれたこと。


 パメラと出会い、いがみ合う二人を見て心の奥では……ミーアに対しての気持ちは大きくなっていた。

 だから、そんな素振りを見せないようにと、ぶっきらぼうで馬鹿をやってきた。

 結局俺の気持ちはあの日から何も変わることもなく、そうならないようにと抗う気持ちは次第に薄れさせていくほどに……。


 そして、あの時の皆の様子からして今までとは比べ物にならないほど、異質に感じていたんだろうな。

 でも、そんな皆が怯え、恐れ、俺から離れた時が一度だけあった。


 ドゥームブレイドを見せた時。


 二人のメイドと今では婚約者である三人も、あの姉上でさえ、俺を見る目は恐怖に怯えた目をしていた。

 それほどまでに、俺はこの世界にとって異質なものだったのだろう。


 その理由は考えるまでもない。

 俺は転生者であり、この世界がゲームだったと知っている。

 俺なりに皆のために頑張ってきたが……それはただの独り善がりなのだろうか?


 だけど……今の皆は俺を受け入れてくれている。

 こんな俺でもあの三人だけは守りたい。

 強者を倒すのも、ラスボスを倒すもの、脅威から守るために……それだけは変わらない。


 何より、あの武器は結果としてミーアを救える武器になり得る。


 ベールに渡ったダインスレイブ。危なっかしい時もあるが、剣術を学べばもっと強く成れる。

 ロンギヌス、パメラが使っていたけどまだ慣れていないせいか動きはぎこちない。斧がついたあれが手に入れば変わるだろうな。


 エクスカリバー。こんな事を言ったら怒られるかも知れないが、中々というか……かなり似合っている。レアリアに見惚れるハルトも分からなくはない。


 少数でもなく、チームワークもレフリアを中心に回っている。

 残る武器はあと三つ。

 全て集めることができれば、俺が居なくても皆ならきっと何も問題はないだろう。


 ローバンの屋敷が見え、ゆっくりと高度を下げていく。


「父上、只今戻りました」


 窓を少し開け、中にいる父上に声をかける。

 ため息を漏らし、いつもの笑顔で俺を迎えてくれる。


「うん、おかえり。だけどね、アレス……今度からは玄関から入ってくるようにね」


 父上はそう言って窓を全開にし中に入るように促す。

 ソファに座り、父上はベルを鳴らす。

 やって来たメイドに俺のために簡単な物を用意させていた。


 俺が食べ終わるまで、父上は何も聞こうとはしない。

 黙ったまま、俺を見ているだけだった。正直あまりいいものではなかったのだけど、怒られないだけまだいいか。


「アレス、何かあったのかい?」


 魔人との戦いを指しているのだろう。

 危険な賭けだったが、問題なく言われたことは解決している。


「魔人は無事討伐しました。ダンジョンも攻略しその後、ミーアたちの所に行って頑張っている姿を見てきたのですが……その、俺のせいで無理をさせているのかと思いました」


「そういう事を聞いたわけじゃないのだけどね」


 今の俺にとって、父上と母上が本当の両親だと感じられる。

 兄上も姉上も、皆が家族だと思える。怒られてばかりだけど、それでも絶対に守ってくれるような、そんな気持ちを感じさせてくれる。

 そんな家族の愛情を、注がれていたというのに……俺は何歩も離れた所に居る。


 俺の家族は、ありのままの俺さえも受け入れてくれるだろうか?


 そんな事を考えたのは一度や二度じゃない。

 この二人ならきっと、ここに居る人たちなら多分。


「確かにそうかも知れないけど。必ずしも、そうとは限らないよ。むしろ、アレスが頑張っているからこそ、負けられないと闘争心を燃やしているのかもね」


 それだとどれだけ良いか……俺がやってきた真似事をさせ、苦労ばかりさせている気がしている。

 強者に対抗するために巻き込んでおきながらも、ただやっていることはダンジョンばかりの生活。それを望んでいたわけでもない。


 ハルトやレフリアは、ガドール公爵の命令に逆らえない。

 俺の婚約者だからと言って、強要されているだけに過ぎないか?


「皆、強く有りたいと思っているのだろうね。アレスみたいにね」


 そうだとしても、今はロイたちの面倒さえも押し付け、できるかもわからない冒険者のための学校を作るなんて想像すらしていなかっただろう。


「そうだと良いのですが……父上、兄上や姉上は?」


「二人共、少しやってもらうことが出来てね。他方の貴族に挨拶に行ってもらっているだけだよ」


 こんな時期に?

 父上の机の上にある書類の量からしても……兄上が居ないだけでこんなにも溜まるのか。

 俺が手伝えることでもないだろうから、余計な事は考えないほうが良いな。


「アレス、明日にでもヘーバインに行ってくれないかな?」


「ヘーバイン公爵の所ですか?」


 引き出しから書状を取り出している。

 俺が戻ってくる時に渡すつもりだったのだろう。それを受け取り懐にしまう。

 今度はヘーバインか……。父上と一緒で、あの公爵は苦手なんだよな。


「明日と、言ったよね? それに、出ていくのなら玄関を使いなさい」


 俺はそのまま執務室を出て、自室へと戻る。


「今度は、何があったのかな? そんなに思い悩むぐらいなら、吐き出してくれても私は構わないんだよ」




 翌朝に、疲れ切ったニックはホールにぐったりと座っている。

 また俺のために用意してくれたのだろうけど……そろそろ年齢的にきついんじゃないか?

 徹夜で料理を作らせるとか、父上達は本当に鬼だな。


「それじゃ、アレス。頼んだよ」


「はい。行ってきます」


 ゆっくりと上昇して、ある程度離れると一気に空を駆け抜ける。


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