132 衝撃の事実
エクスカリバーはゲームのようなデメリット仕様はなく、レフリアを見ていても使い勝手は良いようだ。
やんちゃ坊主ことベールもまた、ダインスレイブが気に入っているらしく魔物に先攻してしまい、レフリアから怒られている。
ここで、ベールのような事をするほど俺は子供でもない。
「おっさんから見て、皆はどうなんだ?」
「言葉に気をつけろよクソガキが!」
「わ、わるかったよ」
どう見ても気色の悪いおっさんにしか見えないのだが……そこまで言えばさっきよりもブチギレそうだ。
これでもかなりの上級冒険者らしいから、俺は少しは安心できるとも言える。が、おっさん呼びはどうやら禁句らしいな。
「アンタ、あの時よりマシかと思ったけど。さっきの事、どういうつもりなのよ?」
それについて言及するのはもう勘弁してくれ。お前だって見ていただろうに……俺の横に立っているミーアは服を掴まれたままになっている。
こうなってしまえば、俺が余計なことをすればあの説教が再び開始されるんだろうな。
「その事についてはもう……悪かったとしか」
「英雄も、婚約者様の前では形無しね。皆はうまくやっているわよ。ワタシの知る限りでは、このまま行けばトップに躍り出るのは時間の問題ね」
いや別に、ウインクは求めていないから、投げキッスも絶対にするなよ。
鳥肌が立った腕をさすり、中央に置かれているテントの横にコテージを取り出した。
テントの様子からしてもあまり使っていないようだ。
「久しぶりに、ミーアとメアリの料理が食いたいのだけど……ダメか?」
「アレス様はまたそうやって、皆のご機嫌を取ろうとするんですよね」
そうは言いつつも、ミーアの表情は嬉しそうに見える。メアリさんからは相変わらず冷たい視線ですが……俺が両手を合わせて頼み込むと、目をそらして小さく息を漏らす。
「分かりました。では、ミーア様……」
そう言って中へ入っていくのだが、メアリはキッチンではなく真っ先に寝室の方へと向かう。それを見ていたミーアが、もう一つの寝室へと向かい同じようにベッドを隈無く調べていた。
何をしているのかは容易に想像できる。
俺ってば、どれだけ信用というものがないんだ?
実家に帰れば兄上達にいじめられ、久しぶりにあったというのに婚約者からは浮気を疑われる。
誰も助けてもいないのに、そもそもバレやすいコテージを使うわけ無いだろ?
メアリのことでそれはもう経験済みだ。
「ミーア様。いかがでしたか?」
「何も見つかりません」
「あの傷からして、以前から使っていたものと同じですわね」
そんな所に傷があったなんて、持ち主ですら知らないよ?
今度は俺が料理なんてしないものだから、キッチンを見ているな……使っていないからさ、何度見ても変化はないから。
そこまで疑うものなのか?
「アレスさん。今日は何を持ってきたのですか?」
「大したものはない。魔人を倒してすぐにここに来ているからな」
「そうなんですね。ところでアレスさん」
「なんだよ」
「もう一つコテージを持っていたりしてませんか?」
パメラの爆弾発言により、目つきが変わった二人が俺の所へやって来る。
こいつも俺を試しているというのか?
毎度毎度余計な一言を言ってくるな。パメラの髪をグシャグシャに掻き回す。
「あるわけ無いだろう。俺一人だったら寝袋だけで十分だからな」
「そうですか、納得しました」
「余計なことで疑うなよ。助けたのは子供たちだけで何もやましい事はしてないから」
二人がテーブルの前に立ち、残っている物を幾つか取り出していくが……料理になりそうな食べ物が少ない。
携帯食に、果物に、焼いて食べるだけの肉の塊。
「流石にこれだけだと、話にならないよな」
そう思っているのは俺だけらしく、一同全員が首を横に振る。
収納から取り出したものを、見せつけて再び収納へと戻す。
「アレス様? いい加減にしないと本気で怒りますわよ?」
俺は反論もなく、再び収納から甘味の数々を並べていく。
最近のメアリって怖いんだけど?
ミーアの何倍も……まるで姉上様と同レベルの威圧をしてくる。
俺たちは食事を終え、今は、甘味に夢中になっている。
シュークリーム、プリン、ケーキとその他にも色々買ってきているので、喧嘩にならず済んでいる。
「アレス様」
「どうした? まだ足りないのか?」
珍しいことに、ロイから話しかけてきた。
俺は椅子を動かして、向き直る。一体どうしたというのか?
「いえ、そうではなくて……アレス様はどれぐらい収納の空間がありますか? このコテージだってかなり大きいですよね?」
なるほどそういうことか。
ロイは収納が使えるんだったな。どれぐらい……か。あまり考えたこともない話だけど、そもそも空間の広さってなんなんだ?
「特に気にしたことはないな。お前だって使えるんだろ?」
「はい、そうなのですが……僕の場合、小屋というか、この部屋の半分にも満たないのです」
この部屋の半分。
コテージはそもそもそんなに広いものではないのに、その半分以下の空間?
正直にベールの言っている意味がわからないな。こんなに狭いと入るものは当然少ないよな?
「セドラはどうだと言っていた?」
「セドラさんは、屋敷の部屋一つ分だと言ってました」
それだけあればなんとかなりそうだな。
でも、収納が使えると使えないとでは、ダンジョンにおいて大きく変わってくる。
何度も繰り返し入り直しても、最奥までの最短を目指そうにも、日数や帰るという時間のムダが生まれてくる。
冒険者たちは、安全のために外で野宿をしてから再び中にはいるが、行ける所は当然限られてくる。
それほどまでにこのダンジョンは広すぎる。
索敵もないから、奥に行けば行くほど危険になり、帰れなければそれまでだ。
「収納の広さを気にしているのなら、魔物を倒してレベルを上げると変わってくるのかもな。ベールが持っていたガーランソード。あれが使えるのならお前が使えばいい」
「そうね。ロイは私達にとって重要な役目を持っているから後ろにさせすぎていたのかもね。そんな事を気にしていたのを知らずにごめんなさい」
あのレフリアが謝っただと?
ベールがロイの方を叩く。
「お前が弱いだなんて俺は絶対に思わない。お前が居てくれたから、俺たちはがんばれたんだ」
「ベール……ランもスミア。ありがとう、僕も頑張るよ」
レフリアからすれば、その判断は間違ってはいないだろう。
俺が来たときにもテントが設置され、休憩ができるようになっていた。
アレのおかげで、ここに居る皆が戦えていたのは間違いない。
でも、当の本人からすれば、何も出来ていないことに腹立たしいものを感じていたのだろう。
こんな子供ですら、この世界では戦わないといけない。
その戦いはこれからも、たとえラスボスを倒したとしても続く可能性がある。
それなのに今までどうやって歴史が存在していたんだ?
ゲームだからと言っても、俺がこの世界に来たのは、アレスが五歳の頃だ。
そんな物は当然ゲーム上に出てこない。これまでの歴史も語られていることから、突如出来た世界というのも考えにくい。
当然俺のように考えた人間がいてもおかしくはないだろ?
「ロイに何でもかんでも背負わせすぎるだろ? メアリだって後方なんだから、収納ぐらい覚えたらどうなんだ?」
「アレス様。空間魔法は誰でも使えるものではありませんし……そもそも、空間魔法が使える人は他の魔法を扱うことが出来ないのです」
「は?」
何を言っているのかまるで分からなかった。
収納ができると、他の魔法が使えない?
そんなことが常識であるはずがない。
「普通に使えるのだが?」
「そもそもが間違っているのよ。空間魔法をまともに扱える人なんて、パメラの光属性と同等に少ないものなのよ?」
「アレス様はあまりにも平然と、お使いに成られているので、私達もどのように説明して良いのか分からないのです」
ロイには魔法が使えない?
つまり、セドラも使えないということなのか?
そんなことって本当にありえるのか?




