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99 パメラの選択とメアリの決意

 俺は寝転んだままストラーデ子爵がパメラに対しての行いを、そして王子のやっていることを伝えた。

 二人はいつものように冷静な表情のまま静かに聞いてくれた。

 話を終えると同時に大きなため息を吐いた。


「殿下は後宮をどうするつもりなんだろうね。正直、頭の痛い話だよ……」


「際限なく側室を要求するなど、仮に攻略者といえどそう簡単な話ではないはず」


 確かに王子が仮に国王となったら、その代はそれでもいいが、問題となるのはその後の話だ。

 婚約者だったラティファとは既に婚約破棄されている。現在は后候補もないまま側室だけ用意する。

 これは、どう考えても危険でしかない。


「それは今考えても仕方がないことだから。まずは、パメラ嬢をどうするかだね」


「しかし父上。アレスは了承すらされていないのに、婚約なんて出来るのでしょうか?」


「難しい所だね。だけど、可能性ならあるとは思うよ」


 現状において、側室を集めている状態でパメラが選ばれる可能性は高い。

 なにより、光魔法が使えるというのも選ばれる可能性を高くしている。


「こんな事になるぐらいならもっと早くに行動していれば……」


「婚約破棄とか言っていた人間の言葉だとは思えないね」


「それは……」


 父上の言葉が突き刺さる。最初から受け入れてさえおけばよかった。

 だけど今更嘆いたところで状況は変わらない。


「だけどね、君は何かを守ろうとしていたのは知っているんだよ」


「!?」


 そんな事がバレているとは思っても見なかった。

 俺が飛び起きたことで、寝てろと言わんばかりに二人して肩を押してくる。


「それがミーアだったのか、私達家族なのかそこまでは分からないけどね。君は今までにいくつもの間違いや失敗をしてきた。それは決して褒められることじゃないよね」


「それに加え問題行動の数々。だけど、それすらどうでもいいと思わせるほどの功績」


 だからと言ってお腹の肉を摘むのは止めませんか?

 兄上の場合、加減を間違えれば激痛が確定している。


「私やアトラスもいつかは失敗してしまう。だからね、アレス。一人で抱え込み過ぎなんだよ。こうやって頼ってくれるのが何よりも嬉しい」


「父上、兄上……ありがとう」


 そんなふうに思っていてくれたなんて思っても見なかった。

 俺はただ表面上怒っていないだけで、本心では諦められていたと思っていたから……その言葉が今になって本当に嬉しく思えた。


「まだ時間はあるから、休憩はそろそろいいよね?」


「アレス。次も手加減してもらえるなんて思わないことだ」


「あの……え?」


 相談にのってくれていたよな?

 俺を励ましてくれていたし、俺のことを心配してくれていたよね?

 それなのに、何で二人して剣を俺に向けているんだ?


「いつまでそうしているつもりなのかな? アレス」


「どうやら、錆はまだ落としきれていませんね。父上?」


 じょ、冗談だろ?



   * * *



 アレスが屋敷で二人にこってりと絞られている頃。

 レフリア率いるパーティーはシルラーン領にあるドルメラダンジョンに来ていた。

 このダンジョンにはミーカトよりも上位のリザード系の魔物が出現している。


「一階層だとしても、結構強いわね」


「私が一体をひきつけます。皆は、先に倒してください」


「パメラ。その提案には乗れません」


 ミーアはパメラの前に立ち、エストックを構えて刀身に炎が付与されていた。

 攻撃は受け止められ、殴打によって地面へ叩きつけられる。

 メアリの放つ風刃によって、追い打ちから逃れるが、魔物の額には血が流れていた。

 戦況は劣悪。それなりに強くはなっていたが、連戦ともなると疲労は重なり少しずつ追い詰められていた。


「くっ。はぁぁー!」


 パメラの槍が魔物の腹部に突き刺さり、同時に爆裂を発動させた。

 内部からの攻撃で、魔物は塵となるがその大きな音によりさらに魔物を呼び寄せるきっかけにもなる。


「こいつを倒して、一度脱出するわよ」


「一気に倒すよ」


 ハルトはブレイブオーラを発動させ、大剣は防がれることもなく両断していく。

 レフリアもハルトに合わせて残っていた魔物を倒していく。ミーアは、地図を確認しながら入り口へと向かっていく。


「こちらです」


「はぁぁっ! バースト!」


 パメラの爆裂はリザードマンにとってかなり有効だったが、パメラ自身の疲労はかなり深刻だった。

 一体だけだったからいいものの、パメラは膝を付き槍を持つ腕は震え、立つことさえつらい状態になっていた。


「パメラ? メアリ様、手を貸してください」


「分かりました。さ、行きますわよ」


「置いて行ってもいいんだよ。私なんて別に……」


 メアリはパメラの頬を叩き、きっと睨みつけただけでそれ以上何も言わなかった。

 駆けつけたハルトの手を借り、何とか脱出に成功したものの、被害は大きかった。

 ミーカトと比べてここの魔物は確かに強い。


 だがしかし、一階層に居た魔物はミーカトの五階層に居たものと同等であり、レフリアたちはすでに何度も戦っていた相手でもある。

 危険な状況にもなったり、疲れた者が出れば、今までのダンジョンがどれほど楽だったのか、アレスという支援の大きさを思い知らされていた。


 レフリアたちは以前よりも強くなっている。


 それは最初に比べてであり、アレスとは比べるまでもなく弱い。

 そして、アレスが居てくれたことによって危機的な状況が回避されていたということでもある。


「これじゃ、先が思いやられるわね」


 レフリアはバックからポーションを取り出し一気に飲み干した。

 ある程度の傷が癒えるが、完全な回復までには至らない。

 ミーアはパメラに回復魔法を掛け、怪我の治療をしていた。


 レフリアはこんな状態になるのを見るのは、あの日以来だった。

 それは、初めてダンジョンに入った日。たかがゴブリン。それでも、逃げることを選択した。

 あの時助けてくれなかったら、今頃になってその恐怖が蘇る。


「パメラ様の機転で何とかなりましたね」


「ううん。そんなことはない。本来はあんな物、使うべきじゃなかったと思う」


 爆裂は内部からのダメージは高いが、その音の大きさで他の魔物を呼ぶ可能性が高い。

 今までに何度も使ってきていた魔法。効果も高く何よりミーアとパメラにとっては、主力とも呼べる戦いだった。

 けどそれは、アレスが居たらそんな事を気にする必要が無い。

 さっきのように、誰かが危険になる前にはいつも対処されていた。


「アレスが居ることに慣れすぎていたようだね。リア、ランクを下げよう」


「そうね、それがいいのかもしれないわね……今の私達ではここは危険だわ」


 たったの数ヵ月、その程度ではアレスに追いつくどころか、足元にすら届きはしない。

 そんな二人の言葉にミーアは、不安を覚え無力な自分が悲しかった。

 アレスが過去に何をしていたのかを考えると、その壮絶さに絶望すら覚える。


 ギュッと目を閉じ、何食わぬ顔をして何度も助けてくれていたアレスの顔が脳裏に浮ぶ。

 この程度すら出来ないのに、魔人と戦うなどと自分の愚かしさを痛感していた。

 守ってくれるのならと、アレスの隣に立っていていいのかと疑問。


「アレスの言うように、一点突破で行きましょう」


「うん、それがいいかもしれないね」


 複数居た場合、一体を残して他を全部ハルトが引き受け一体ずつ仕留めていく。

 以前アレスが考案したもので、危険度の高い相手から潰していく。


「今日はミーアの屋敷に戻りましょ」


 パメラはまた傷ついた槍を眺めていた。

 後、何回耐えられるのかと思いながら……。


「パメラ様。ダンジョンで叩いたことは、謝罪を致しませんので……」


「うん。分かってる、ごめん」


「分かっている? ごめんですって?」


 再びパメラの頬を叩くメアリは涙を浮かべていた。

 あの時はっきりと、メアリには何もかも諦め全てを放棄しているように彼女が見えていた。

 だけど、誰一人としてそんな事を望んでは居なかったし、これ以上間違いを冒して欲しくはないと思った。

 それなのに、パメラは相変わらず気力のない言葉を呟いている。


「メアリ様。どうか、これ以上は……」


「申し訳ございません、ミーア様。ですが、アレス様は今、一体誰のために動かれているのかお分かりですよね?」


 アレスは一人でローバン公爵家へ行き、あれだけ婚約破棄を目論んでいたにも関わらず、パメラの婚約者となるために行動している。

 あのまま、一人置いていけばどうなっていたか、考えるまでもなかった。

 しかし、パメラは自分の死を選び、なにもかもから逃げることを選択していたのだ。


 自分の事で、必死になっているアレスを煩わせないために……そんな浅はかなことしか考えられなかったパメラに対して、メアリが怒りを覚えるのも至極当然だった。

 ミーアも彼女を庇うものの、アレスのことを思えばパメラの行動は納得できるものではない。


「それは……」


「パメラ様。今度、貴方がもし死を選ぶというのでしたら……その時は私もお付き合いしますわよ」


「え……なんで……」


「私の命を貴方に預けます。それでも死にたいというのなら、どうぞご自由に……」


 メアリはパメラを守るため言った言葉であり、じっと見つめるその眼から逃げるようにパメラは目を瞑るしか出来なかった。


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