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【書籍化】ループ中の虐げられ令嬢だった私、今世は最強聖女なうえに溺愛モードみたいです(WEB版)  作者: 一分咲
本編

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55.アオイのお料理教室

 アオイに対する能力鑑定は、三日後に行われることになった。


 トラヴィスの神力が完全に回復したうえで行うのだという。そうでなければ、正確な結果が得られないのだとか。


 黒竜が目覚めたという知らせもなくて、異世界から来た二人はとにかく暇な様子だった。


 ということで、私はアオイが神殿の人々に対して開いている『お料理教室』に参加していた。参加、というよりは、大神官様のお願いで付き合わされている、に近いけれど。


「私、異世界に行ったら現代知識で無双してみたかったんです~!」

「この前の『免疫力を高めるお茶』おいしかったですわ」

『レモンがはいってなくてのみやすかった』


 アオイの言葉に、私はこの前エイドリアンに淹れてもらった『免疫力を高めるお茶の味』を思い出していた。うん、あれはおいしかった。クセの少ないハーブに、甘めのフルーツとはちみつ。


 このお料理教室に参加しているのは、数人の巫女とリルを肩に乗せた私、そして神官のエイドリアン。こんな風に平和な暮らしができるのも黒竜が目覚めたという知らせがあるまでのこと。


 サシェの町での活躍の結果、私にはしばらく聖女としての任務を外れるようにと言い渡されていた。身体を休めるようにとの大神官様からの心遣いだったけれど、暇なのでこのお料理教室は少しありがたい存在でもある。


「セレスティア様のお口にあってよかったです。でも、この世界にも私が作ったお茶と似たようなものがあると聞きました」

「はい、フルーツティーは普通にありますね」

「あああ! 石鹸やシャンプー、紙もあるんですよねえ。この国の文化は普通に進みすぎです。 異世界で知識チートでちやほやされたい、なんて甘かったかなぁ」


 アオイはたまにこうやって訳のわからないことを言う。2回目のループでもそうだった。


「でも、食べ物で身体の力を高めるという概念は初めて知りました。アオイ様の世界ではそのようなことが普通なのですね」

「はい、そうなんです。医療知識チートの線も考えたんですけど、そもそも私に知識がありませんでした」


 やっぱり意味がわからないですね? 


 私が顔を引き攣らせたところで、お料理教室に参加している巫女たちから声がかかる。


「異世界からいらっしゃった聖女・アオイ様。焼き菓子が焼き上がりましたわ。とてもいい色でおいしそうに焼けています」

「教えてくれてありがとう~! わぁ、ほんと。これは大成功ですね!」


 今日のお料理教室のメニューは『ケークサレ』だった。この国にも普通にある料理で、珍しくもなんともない。メニューチョイスの理由を聞いたら「食べたかったから」と仰っていた。なるほど。でも欲望に忠実なタイプってきらいじゃない。


「毎回、できあがった料理を持ち帰れるなんて……母が喜びますわ。アオイ様、いつもお料理教室を開いてくださってありがとうございます」

「いいえ~。私も大神官様のお部屋に差し入れをしたいので、そのついでにこのお料理教室はちょうどいいのです! この前はトラヴィス様もいらっしゃっていましたし」

「まぁ、アオイ様は大神官様だけではなくトラヴィス様とも仲がよろしいのですね!」


 トラヴィスの名前が聞こえたので私は肩をびくりと震わせる。


 昨日、急に彼の腕をがっしり掴んでしまった後。トラヴィスは楽しげに私を部屋まで送ってくれた。好きだとかかわいいとか言ってくるのかと思ったら、昨日はそんなことはなくて。


 部屋にたどり着くまでに交わされていた会話は「腕を離してもいいですか」「敬語」「腕を離していい」「だめ」の繰り返し。


 ていうか敬語ルールっていつまで続くの!


 頭がいっぱいになってしまった私は、アオイを囲んで色めき立つ巫女たちから離れ、自分のケークサレを入れてあったオーブンを開ける。いい匂い。こんがりとおいしそうに焼けていた。


 そして箱に詰めていく。影ができて顔を上げると、もぐもぐと試食をするエイドリアンがいた。指先からは血が滲んでいて痛そう。また切ったのかな?


「玉ねぎと一緒に切れました」


 そっか。そのときか。


「エイドリアンは私とトラヴィスが王都に戻るまで毎日このお料理教室に参加していたの?」


「はい。そのついでに、アオイ様はこの世界でのルールの基礎の基礎も備わっていない様子でしたので、いろいろ教えておきました。少なくとも、聖女・セレスティア様は味方につけるべきだと」


 ちょっとそういう身も蓋もないことを言うのはやめてほしい。けれど、アオイがこの世界の人々に敬意をもって接しているのはエイドリアンのおかげのようだ。それが何だかおかしな方向に行きそうな気もするけれど、今のところは問題ない。


 エイドリアンと並んでケークサレを口に入れると、肩のリルが不思議そうに呟く。


『そういえば。セレスティアはこくりゅうこくりゅういってるけど、あいつわるいやつじゃないんだよね』

「へ」

『ひとをころしてたのしむタイプじゃない』

「リル、黒竜のことを知っているの?」

『うん。はじまりのせいじょといっしょにあそんだことがあるよ』

「遊んだ」


 神獣ってすごい。


『からだがおおきくてちからもまりょくもつよすぎるけど、ぼくはすきだよ。だいたいねむっている、おだやかなりゅうだよ。たいじするのはいやだなぁ』


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