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【書籍化】ループ中の虐げられ令嬢だった私、今世は最強聖女なうえに溺愛モードみたいです(WEB版)  作者: 一分咲
本編

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54.今度は三角関係にはなりません

「セレスティア・シンシア・スコールズと申します」


 私が型通りの挨拶をすると、リクは微妙に頬を染めアオイは戸惑ったような表情を見せた。


「大神官様……この人、だ、誰っすか?」

「このお部屋まで来るということは、巫女の方とは違うんですよね?」


 前に聞いたときは、二人とも『大学生』だと言っていた。


 二色の不思議な髪色をした青年がリクで、肩より少し長めの髪を内巻きにしてフリル多めのワンピースを着ているのがアオイ。異世界のファッションについては、バージルが見たら顔を引き攣らせて絶叫しそう。


 この二人、大神官様が特別な方だということと、その大神官様と会話ができる人物はそれなりの地位にあるということをすでに学んでいるらしい。


 2回目のループのときはなかなかそれがわからなかったらしく、特にアオイはあまり良く思われていなかった。巫女だけではなく聖女や神官たちにも敬意を払わずに接するので、黒竜討伐に同行したいという聖女がいなくなってしまったのだ。


 そのせいで『戦いの聖女』としてはまだ日が浅く、実戦経験に欠ける私が同行することになった。今回はこの世界のルールを誰かが教えてあげたのかな、とほっとする。


 とにかく、この二人と一緒にまた黒竜のところまで行くのは正直もう勘弁してもらいたい。


 だって私が最後の最後で最前線に放り出された理由には、心当たりがあるのだ。


 それはたぶん、私が勇者・リクと聖女・アオイに横恋慕しているような状態になってしまったからで。結果だけ見れば申し訳ないけれど、二人がそういう仲だなんて私は死ぬ直前まで知らなかった。


 黒竜が住む山までの長い道中。リクは私とアオイ双方に甘い言葉を吐き、二人とも恋に落ちた。


 私はリクに好意を持っていたものの、任務に集中していたため彼の気持ちに応えることはなかった。


 けれど、死ぬ直前にアオイから『泥棒猫!』という小説でしか聞いたことがないベタなセリフを叫ばれた。つまり、リクとアオイはいつのまにか恋人同士になっていたのだと思う。


 そして、アオイを選んだリクは保身に走る。その結果、私が黒竜が炎を噴いたタイミングで押し出され、死んだ。恐らく同時進行で私を口説いていたことを知られたくなかったのだろう。……ひどくない?


 その証拠に、2回目以外のループで同行した聖女は死んでいなかった。だから、今回は私以外の人に同行してもらいたい。同じルートを辿る可能性はゼロどころかマイナスだけれど、私のメンタル面が本当に無理です。


 そんな風に考えていたところで大神官様が口を開く。

 

「我がルーティニア王国で随一の力を誇る聖女・セレスティアじゃ。リクとアオイに任せる任務はまだわからないが、とにかく彼女に同行してもらうのがよかろう」


 ちょっとまってそんなすぐに決めないで! けれど、真っ青になった私に投げかけられたのは全然関係ない話題だった。


「よかったです! 私、大学でサークルクラッシャーって呼ばれていて。失礼しちゃいますよね!」

「さ、サークル……?」

「はい! そうじゃなきゃ『姫』とか」

「ひめ」


 王族の類か、と首を傾げる私の前で、アオイはこつん、と自分のおでこを小突いた。


「私がいるとなぜか周りの人間関係がおかしくなってしまって……でもこんなにかわいいセレスティアさんが一緒なんですもん。今回は大丈夫そうだなって安心しちゃった」


 そういうことですか。


 ふふふ、とアオイは微笑んでみせるけれど、話している内容と表情がいまいち合っていない。


 そう。アオイってこういう子だった。クリスティーナに少しだけ似ているけれど、異母妹よりはずっと要領がいい。


 2回目のループのときも、違和感を持ちつつ仲良くしていたら、最後の最後でやられたのだ。


 ちなみに、トラヴィスはと言えばアオイの意図をスルーして「たしかにセレスティアはかわいいよね」と頷いている。すぐに止めてくれると思っていたのに、いつもの振る舞いを貫いてほしい。


 やっぱり行くしかないのかな。でも、今回は勇者・リクのことを好きになるなんて絶対にありえない。だから死ぬ心配もない。何よりも、危険な任務は一番に魔力を蓄えている私が行くべきだ……とは思うけれど。


 私が悶々としている中で、大神官様は本題に入る。


「トラヴィス。今日ここに呼んだのは、トラヴィスにしかできない頼みがあるからじゃ」

「なんでしょうか、大神官様」


「アオイの能力鑑定をしてほしい」


「!」


 能力鑑定。


 それは規格外な神力を持つ神官にだけ許される、聖女の力の種類を探る方法だった。この神殿ではトラヴィスにしかできなくて、彼がいなければ能力鑑定は叶わない。


 まあ、啓示の儀で石版が教えてくれるものなので、石版が使えないなんて事態でなければ必要がないスキルだ。


「一年前の啓示の儀でセレスティアが石版を割ってしまったじゃろう。新しいものをつくったのじゃが、どうも精度が低くてのう。適性の有無はわかるのじゃが、それが聖女だった場合に、どの聖女の力を有するのかがわからないパターンがあってのう。今回はそれじゃ」


 私のせいですねごめんなさい。


 けれど、能力鑑定をするとなると、トラヴィスがアオイの手を握って神力を彼女の身体に流し、聖属性の魔力を分析することになる。


 トラヴィスが私を好きだと言ってくれるようになったのは、この『能力鑑定』がきっかけだった。なんだかもやもやする。ううん、必要なことだし全然いいはずなのだけれど。


「……セレスティア、どうしたの?」


 私を綺麗な瑠璃色の瞳が見下ろしている。困惑の色が見えるものの、少しうれしそうにも見える。なに。


「?」

「これ」

「……?」


 トラヴィスの視線を追う。しゅっとした輪郭、ごつごつとして男っぽい首、細身に見えるのに実はがっしりしている二の腕。……その先には彼の腕をがっしりとつかむ私の両手があった。


「きゃあ!?」


 慌てて飛び退こうとしたのに、掴んだ両手の上から手を重ねられて叶わなかった。その姿勢のまま、トラヴィスは大神官様に答える。


「能力鑑定は明日以降で大丈夫ですか」

「もちろんじゃ。……仲良しじゃのう」


 のんびりとした大神官様の言葉に私は赤くなる。


 しまった。どうしてこんなことを。とにかく、トラヴィスが私が腕を掴んでしまった理由に気がついていませんように。


 恐る恐るもう一度トラヴィスの腕から手を放そうと思ったけれど、またしても上からぎゅっと押さえられて叶わなかった。



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