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【書籍化】ループ中の虐げられ令嬢だった私、今世は最強聖女なうえに溺愛モードみたいです(WEB版)  作者: 一分咲
本編

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43.『戦いの聖女』と彗星④

 サシェの町に到着したのは翌日の昼過ぎだった。駅のホームに降り立った私はふうと息を吐く。


 彗星が到来するのは今から二日後の明け方。今回は、王国騎士団の精鋭部隊が攻撃魔法で町を守るらしい。


 これまでの4回のループでは人の命は守れても町自体までは守れなかった。それなのに、私が見たのは彗星を粉々に砕く未来で。


 状況に合わせて新しい未来ができることには慣れているはずなのに、違和感があってもやもやとする。


「汽車の椅子ではあまり眠れなかったでしょ? 大丈夫?」

「はい。でも緊張してそれどころではなくて」


 トラヴィスは、私が逡巡する様子を疲れているのだと思ったらしい。心配してくれるのはありがたいと思いつつ、何とか適当にかわす。


「俺と一緒にいれば大丈夫だよ。予定通りに行けば、聖女の力を使う機会はないはずだから」

「ありがとうございます」

「……ねえ。セレスティア、さっき言ったよね?」


 トラヴィスが私の唇に指をすっと近づける。触れるか触れないか、ギリギリの距離で。


「な、何でしょうか」

「敬語。次使ったら、本当に触れるからね」

「そ、それは」

「冗談じゃないからね? さあ、行こうか」


 汽車を下りた神官たちが、並んで歩いている私たちを追い越して足早に集合地点へと向かっていく。普段ならトラヴィスは私に一言告げてからそこに合流するのだろう。


 でも、今日の彼は私の隣を離れない。歩幅を合わせて一緒に歩いてくれる。


 聖女として5回目の人生。慣れた光景のはずだけれど、整った横顔と私を守ろうとする歩調にどうしても落ち着かなくてドキドキする。


 ――とにかく、この任務では『敬語』は禁止らしい。





 彗星の到来まで、私とトラヴィスは住民の避難を手伝うことになった。本当は不測の事態が起きるまでは待機しているようにと言われていた。


 けれど皆がめちゃくちゃに忙しくしているというのに、私たちだけのんびりしているわけには行かないと思う。


 ということで、何かあったときにすぐに動ける範囲でのサポートを指揮官に申し入れ、受け入れてもらえたのだった。


『セレスティア。ぼく、いまからちょっとおおめにセレスティアのまりょくをたべるから』

「身体の中にため込むってこと?」

『そう。ねんのためにね。ほんとうはいつものからだにもどってたべたほうがらくなんだけど、だめ?』

「うーん。それは難しいかな。ごめんね」


 荷物を置きに訪れた宿屋で、私は一枚のワンピースを手に取り、リルにぺこりと頭を下げる。


 このワンピースはバージルに『聖女だとバレないほうがいいなら、こっちに着替えるのよ!』と言って持たされたものだった。


 この部屋の入口の扉向こうではトラヴィスが待っている。聖女用に仕立てたドレスを着てサシェの町に到着したはいいけれど、あの服は少し目立ちすぎる。いろいろなトラブルに巻き込まれないために、質素なデザインの服を持ち歩くこともあるのだ。


 バージルは「アンタが選びそうで似合いそうなダサい服をオーダーしといたわ!」と言ってくれたけど、わりとひどいと思う。しかも、結構似合っているのが悔しい。


 そして、リルは彗星の到来に備えて私の魔力をたくさん食べるのだという。宣言した直後から、口がずっともぐもぐむぐむぐしている。かわいい。


「私の魔力をどれぐらい食べるの?」

『うーん。ためこめるだけ、かなぁ。だいじょうぶ。セレスティアのまりょくはものすごいりょうだから、ぼくがおおめにたべたところでこまらないよ』

「そういうものなのね」


 赤茶色の生地に飾りのない、シンプルなワンピース。もちろん、素材だけは聖女用である。けれど、鏡に映る私は完全にただの町娘だった。


 着替えて「お待たせ」と部屋から出ると、トラヴィスは柔らかく微笑む。


「新鮮だね。かわいい」


 この、どんよりした赤茶色のワンピース姿の私が? ……さすがにそれはないと思う。


 彼は、本当に気軽にかわいいと言う。気合を入れたおしゃれをしたときに褒め殺してくれるのは、貴族的なマナーだとわかるからいい。


 でも、普段の本当に何気ないタイミングで褒めるのはやめてほしい。特に、こんな風に優しいまなざしと一緒なのは勘弁してもらいたい。だって、私はときめいたぶんだけ死に近づく。たぶん。


 彼のペースに巻き込まれたくなくて、私は話題を変えた。


「と、トラヴィスの部屋は隣なのよね」

「ああ。何かあったらすぐに呼んで」

「この宿は神殿で貸し切っているでしょう? 何もないわ」

「それもそうか」


 普通、こういった遠征任務のときは相部屋になる。もし聖女と神官のペアが男女だったとしても例外はない。けれど今回はトラヴィスの身分に配慮があったらしく、私たちの部屋は同じではなく隣同士だった。実は少しドキドキしていたので、ほっとする。


 宿の廊下にある窓越しに避難していく住人たちの姿が見えて、私は速足になった。


「見て、トラヴィス。早く手伝わなきゃ」


 そこまで口にしたところで、ふふっと彼が笑う。


「この任務が終わるのが嫌だな」

「?」

「その話し方。心を許してくれてる感じがしてやっぱりいいなって思って」


 どうしてすかさずこういうことを言うのかな?


「……もう一階に下りるわ」

『セレスティア、かおがあかいよ』

「リ、リル、何も言わないで!」


 私はトラヴィスとリルを置き去りにして、足早に宿の外へと向かったのだった。


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