◇◆エピローグ 後宮の雑用姫・下◆◇
「皇帝陛下」
――一方、宮廷内。
側近を引き連れ廊下を歩き進んでいた皇帝に、後ろからある人物が声を掛ける。
初老の男性だ。
灰色の髪を撫で付け、その下には皺の刻まれた厳格な顔付きが見える。
纏っているのは、この宮廷に仕える臣下の服。
「幻竜州とのつながりは強化されましたが、《清浄ノ時》に対する警戒は依然強めないとなりません。結果は置いておいても、皇帝陛下には、今回の竜王妃帰省同行のような勝手な行動は慎んでいただきたい」
「黄宰相、わかっている」
彼は、この国の宰相――黄。
宮廷においては、皇帝に次ぐナンバー2の立場の人物である。
皇帝と宰相との間に流れる空気は淀んでおり、仲が良いとは言えない雰囲気だ。
それを、その場に居合わせた他の臣下達も感じ取っており、緊張感から息を呑んで、二人を見守っている。
「……此度、《清浄ノ時》は竜王妃の中に眠る《竜の血族》――《天竜》の力を狙っていたと聞きました」
黄は、表情を全く崩すこと無く、冷酷な声で言う。
「なれば、貴方も同様。現皇帝血族の血を継ぐ者……《霊亀の血族》たる貴方も、その眠った力を狙われるやもしれませんからな」
そう言い残し、去っていく宰相。
周囲の臣下達も、胸を撫で下ろす。
「……重々、肝に銘じておこう」
その背中に、皇帝は静かに呟いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……幻竜州に潜ませていた呂壬が失敗した……か」
――暗闇の中、一人、声が響く。
彼は手にした紙……そこに書かれた報告の内容を見ながら、嘆息する。
そして次の瞬間、その紙は炎に包まれ、彼の手中から消えて無くなった。
「……まぁ、いい。徐々に、徐々に。この宮廷の中にも、夏国中の主要な機関の中にも、我等の根は、着々と伸ばされ張り巡らされつつある」
そう言って、彼――宰相、黄は、ほくそ笑む。
「我が野望は、着々と進行している」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「………」
自身の暮らす皇宮へと戻った皇帝は、側仕え達を下がらせる。
一人になった彼は、自室の奥の扉を開ける。
廊下が続く。
ここには、皇帝一族しか立ち入ることを許されていない。
廊下を進み、そして辿り着いた先にあるのは、花畑。
そして、その花畑の中に聳えるのは、巨大な石柱。
石柱には、多くの名が刻まれている。
そう、ここは墓。
宮廷――皇宮の奥で密かに眠る、皇帝血族のための墓である。
「………」
石柱へと近付いた皇帝は、そこに刻まれたある名前に触れる。
「……秀愛」
そして、その名を口にする。
「……“君の妹”は、元気に育っているよ」
慈しみの籠もった声で、そう言って。
皇帝は、石柱に頭を近づけ、額を触れさせた。
「叶うことなら……このまま、何も知らずに生きてもらいたいのに、な」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
大陸の片田舎で育った野良娘から、後宮の下女となった少女。
後宮の雑用姫――小恋。
彼女はやがて、自身の出生の秘密を知り、この国を巻き込む巨大なうねりの中に飲み込まれていくことになる。
それは、そう遠くない未来の話――。
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