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裏切り


「ここの高校、偏差値低いし、制服もダサいから……」


 ……なんか、ムカつく。よな。

 ――でも騙されたら駄目だ。葵の本心じゃない。


 葵にとっては今現在、俺といるのが本来の主流じゃなかったんだ。

 ――今まで繰り返してきたやり直しスキルの……一つの分岐ってことか……。


「はあー」

 大きくため息をついてしまう。

 俺だってそうやってこの十数年を生きてきたんだ……。もし、他人が同じスキルを使えれば、俺と同じような人生観しか持てなくなるのも……頷ける。

 ……俺だけが頷けるのだろう……。


「それが葵の選んだ分岐。葵の人生なんだな。……分かった。でも、またいつでも会えるよな」

 いつだってこの世のどこかには葵がいるのは紛れもない事実だ。連絡もなんとか取れるはずだ。

 だが、答えは俺の思っていたのと正反対だった――。

「会わない」

 ――!

 耳を疑った。「会えない」の間違いじゃないのか……。

「あなたがわたしを見つけたなら、わたしは必ずあなたを巻き込んで苦労ばかり掛けてしまうから。見つかれば、見つかる前の分岐点に戻ってやり直すわ……。弘人は一生私を見つけることはできない。だから諦めて。わたしのこと……忘れて」

「――どうして」


「わたしの目の前であなたが長く目を閉じると……辛いから……。わたしのせいだから……」


 そっと閉じた瞳から、雫が伝った。

 やり直しスキルのせいで人生を何度も何度も修正し葵は、ぼろぼろに疲れているんだ……。必死に冗談を言っているように見えて、ずっと涙を我慢しているのが……辛い……。


「わたしがわたしの分岐点に遡れば、弘人の目の前から、わたしがいなくなるの……。机も、鞄も、わたしの記憶はみんなに残っていても、わたし自身が分岐点から違う分岐に進んでいくことになるの。わたしにとってはこの空間の方がパラレルワールドになってしまの。


 ――だからこの能力は使っちゃ駄目なの。あなたが使った数だけ、分岐したあとの世界ではあなたが消えて戸惑っている世界が続いているのだから――」


 ――やり直した俺が消え、戸惑っている世界が続いているだって――。


「それってどういうことだよ。もしかして、俺がやり直しスキルを使った分だけ……」

「あなたが分岐点に戻る度に、わたしの前から消えてしまうのが分かったの。ソフトボールの時、あなたがやり直す度に、あなたが突然バッターボックスから消えて慌てふためく世界が続いていたわ」

「俺が消える世界……」

 急に人がいなくなると……周りはどれほど驚くのだろうか。

 周りにはどれほどの迷惑を掛けることになるのだろうか――。


「三〇回もやり直すなんて……(おに)

 遠回しに下手くそとディスられているように聞こえるのは何故だろう。

「二十九回だと訂正してほしいぞ……」

 三〇回目にホームランを打ったんだからな。

「……面倒くさい性格ね。二十九回あなたが姿を消したのが分かるのはわたしだけ。あなたを 見つけるには、あなたが分岐した直前に私も戻る必要があったの」

 じゃあ、俺も葵を見つけるためには、その分岐点に遡る必要があるってことなのか――。

「やっと見つけたと思っても、また直ぐに消えてしまうし――」

 言葉に怒気が含まれているのは、気付かないフリをした。

「じゃあ、葵が分岐点に戻ったら、どうなるんだ……」

 俺と同じっていうのなら……まさか、

 ――目の前から消えて無くなるってことじゃないのか――。


「それは……弘人の目で確かめてくれたらいいよ。最後くらい、笑顔で別れたいから」

 急に立ち上がった――。

 分岐点からやり直せるスキルは、使うのになんの労力も要らない。魔法のように呪文の詠唱だとか、次元転移装置のようにエネルギーの充填だとか、そんな煩わしい時間を一切必要としない――。

 ――目を閉じればいつでも使えてしまう――。


「い、嫌だ。最後だなんて言うなよ。ずっとここから、分岐点に戻らずにいればいいじゃないか。俺はもう二度と分岐点に戻らない。約束するから! 葵には一緒にいて欲しいんだ!」

「できないの。わたしにとってこの分岐は……一番辛くて苦しい分岐になってしまったから。まさか弘人が、わたしのことをこんなに好きになってくれるなんて……思っていなかったの」


 ――ごめんなさい。あなたが優しくて……それが苦しい分岐だから――。


 そんな……。


「弘人の優しさに甘えて、最後のお願いがあるの……。もう一度だけでいいから……キスして」

 目からとめどなく涙が溢れ、止めように止められなかった。


 今の葵も……涙だ。必死で止めようと思うのに……止められない――。次に目を閉じたその時、葵は俺と出会うもっと前の分岐へと戻ってしまう――。消えてしまう!

 それは何時間、何日、何年前かすら分からない。見つけようにも見つけられない――。


 本当にお別れの……最後の口付け……。そっと目を閉じる葵の唇に、優しく唇を重ねた……。


 すっと……葵が消えていくのが分かり……残された俺は、両拳を強く握りしめ歯を食いしばった。

 ――こんな別れってあるか! 俺達二人にはやり直せる最強スキルがあった筈なのに――!


「葵――!」


読んでいただきありがとうございます!

ブクマ、感想、ポイント評価など、お待ちしております!


読んだくせに……!?

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