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第2話

 そんなわたしも16歳になった。王女として結婚の話がどうしても出はじめる頃だ。社交界に出れば、一気にやることが増える。中庭で気ままに絵を描くこともできなくなるだろう。今のようなひとりでのお茶会も無くなるのだろうか。


「つまらない」


 この何でもない時間が、案外、気に入っていたというのに。


 「つまらない」といえば、わたしの傍らにいるボリスラフもその中に入る。今朝もまったくの無表情と無口だった。その何者にも動じない姿が、侍女の間ではそこそこ評判がいいらしい。あんな恐い顔のどこがいいのか、全然わからない。


 でも、無駄口を叩かないという点においては、魔術師様と同じでそんなに嫌ではなかった。ただ、わたしの違反や所作には厳しいけれど。


「どうされましたか?」


 長く見つめすぎたらしい。ボリスラフが問いかけてくる。


「何でもないわ」


 カップを傾けて、紅茶を一口すする。


 そういえば、侍女から面白い話を聞いた。ボリスラフがお見合いをするらしい。お相手はどこぞのご令嬢だとか。無口で無表情な騎士がお見合いなんて、うまくいかない気がする。この話題なら、つまらない状況を変えてくれるかもしれない。


「あなたお見合いをするんですってね?」


「エミーリヤ様には関係のないことです」


 相変わらず、平淡な言い方でわたしの神経を逆撫でする。6年もわたしのもとについているくせに、個人的な話はしてくれない。まあ、ボリスラフにとって、わたしとの関係なんて仕事でしかないし、深くつき合う必要もないだろう。


「そうね。わたしには関係ないわ。でも、その無口と無表情はやめたほうがいいわよ」


 ボリスラフにしてみれば、大した攻撃にはならないだろうけれど、言ってしまいたかった。険悪な雰囲気のなかでもうひとりの騎士が「エミーリヤ様」と声をかけてきた。こちらは相変わらず、ボリスラフとは逆だ。礼儀やそんなものに構わず、わたしに平気で個人的な話をしてくる。


「ボリスラフは案外、女相手にうまくやっているんですよ。昔つき合っていた侍女から女の扱いを色々教えてもらったみたいで」


「おい」ボリスラフが凄みをきかせた声で話に割りこんでくる。


「何だよ、いいだろ。本当のことだし。こいつが無口、無表情なのは仕事の時だけですよ」


 なるほど。彼の話が本当なら、仕事――もちろんわたしの護衛の時だけ、無口、無表情になるというわけだ。他の場面なら平気でしゃべるし、笑ったりもすると。そう考えたら、もっと腹が立ってきた。何か言ってやらないと気が済まない。


「へえ、そうなの、ボリスラフ。余程、この仕事が嫌なのかしら? でも、もうそろそろ終わりよ。わたしにも縁談が来るだろうから」


 縁談がまとまれば、ボリスラフの護衛も必要なくなる。無口無表情でいることもない。こんな生意気な王女からも解放されて。


「良かったじゃない」


 わたしが祝福しているのに、ボリスラフの表情はひとつも変わらなかった。

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