02 物語りが始まる
結局その夜は少女を再び見付けることがで
きなかった。学校が始まる時間前に亮太たち
が戻ると遠藤修平は結城高弥を伴って私立青
陵高校に向かった。亮太たちにも一度戻って
学校に行くように言いつけた。できるだけ休
むな、と普段から言ってあるし、自らも2年
になってちゃんと通い出してからは休まない
ようにしている。人と人との出会いが一番大
切だと思っている修平にとっては学校は恰好
の出会いの場だと発見したからだった。
「うちの大将は何を考えているんだろうな。」
桜井亮太が不思議がるのももっともなこと
だった。亮太たちに一晩中見張りをさせたり
するようなことが今まで一度もなかったから
だ。つるんで騒いだりするが修平は亮太たち
をこき使うことなどなかった。それが言葉遣
いも荒々しく指示というより命令する口調で
亮太たちを怒鳴りつけたのだ。
「よっほどのことがあるんだろうよ、あの女
には。でも誰かに頼まれたって言ってたよな
ぁ。信一、何か聞いてるか?」
西口信一も亮太と同じ青陵高校の一年で同
じクラスだった。但し、考えることが苦手な
タイプで亮太にただつきあっているだけ、と
いう立ち位置だった。当然、修平から何かを
聞いている訳がない。
「渉も祐作も知らないだろうしな。結城さん
は知ってるかも知んないけど。」
「俺、結城さんはちょっと苦手。」
「俺も得意じゃないさ。でも修平さんの懐刀
だし。修平さんが投資で儲けているのは、も
ちろん修平さんの元々の資産があったからだ
けど増やしたのは結城さんらしいぜ。だから
俺たちが修平さんの金で遊ばせてもらってる
のも実は結城さんのお陰、って訳だ。」
「そうなんだ、全然知らなかった。」
「俺も詳しくは知らない。まあ、誰のお陰で
も関係ないって。」
二人は暢気なものだった。いつもは、それ
で問題なかったのだ。ところが昨日はいつも
と違っていた。急に収集がかかったと思った
ら写真をスマホに送られて「その子を探せ」
と言われたのだ。こんなことは初めてだった。
「亮太たちには悪いことをしたな。」
「まあ、たまにはいいでしょう。あいつらは
修平さんの金で遊ぶためだけに集まって来る
んですから。」
「そうは言うが、あいつらを手下みたいに使
うために集めているつもりがあった訳じゃな
いからな。」
「これからはそうも言っていられない事態に
なるのでは?」
「確かにな。お前にも存分に働いてもらうこ
とになる。頼むな。」
「判ってます。でも、修平さん、あの男は本
当に信用できるんでしょうか。」
「お前は見てなかったから、そう思っても仕
方ない。俺は色々と見せてもらったからな。
いずれ詳しく話してやるよ。」
「わかりました。私は修平さんについて行く
と決めていますので、修平さんが信用してい
るのなら私も信用することにします。」
「いや、信用している訳ではないんだが、奴
の力は本物だろう、それは間違いない。」
「そうですか。いつか私もそれを、この目で
見る機会があると、よりいいのですが。」
「そう遠くないうちに、奴がまたやって来る
だろうから。あの子を探しだしたのはお前の
手柄なんだから、そう言って奴の力を見せて
もらうといい。」
チャイムが鳴り午後の授業の始まりを告げ
たので二人は急いで教室に戻るのだった。