後編
私が担任を受け持っている2-Aには2人の変人がいる。
1人は我が道を行き、己以外の全ては路傍の石、己の思うところが世界の全てな、マイペースを突き詰めて煮詰めたらこんなことになってしまった系女子だ。
1年の頃からその勇名は轟き、佐藤と聞けば数いる佐藤さんの中でも、まず彼女の顔が想起される生徒が大半であろう。
もう1人は色々と鈍い子だ。頭の回転も鈍ければ情緒にも鈍く、悪意にも善意にも素っ頓狂な返しをしてしまう系女子だ。
1年の頃は別段目立った生徒ではなかった。彼女の様々な鈍さが顕著に出る要因がなかったのだろう。
2年に上がって、佐藤に絡むようになり、彼女の色々な鈍さが見えるようになった。
佐藤が彼女をA子と呼んで以降、彼女は本名で呼ばれることよりもA子と呼ばれることの方が多くなった。
A子の呼称が広まった今では、アルファベットのAを見れば彼女を連想する生徒が大半だろう。
かく言う私も、彼女のことは本名で呼ぶよりA子と呼ぶ方がしっくりくるようになってしまった。
彼女らが絡んでぐちゃぐちゃするようになったのは、5月の中旬頃からだったろうか。
ある日、朝のHRのために教室に入ると、なにやら佐藤とA子がもめている。
A子の机はあるべき場所になく、佐藤の席の隣にまで運ばれていた。
何事かと思い制止すると、A子は佐藤がゴミを自分の机に入れようとするのだと言う。
事実、佐藤はレジ袋に包まれた何かをA子の机に入れようとしていた。
佐藤を止めようとするも作業を中断する気配を見せないので、元凶を断つべくA子の机を元に戻した。
なにやら納得したような表情をしているA子を尻目に、佐藤へ放課後に私のところへ来るよう伝えた。
放課後になって、佐藤に話を聞けば、A子とその取り巻きが佐藤の机にゴミを入れたゆえ、そのゴミをあるべきところへ返しただけだと言う。
A子に取り巻きなどいただろうか。
彼女にはたしかに友人がいるが、四六時中彼女らが一緒にいるわけではないし、そもそもA子は他者を引き連れる趣味があるような生徒ではなかったはずだ。
そう考えていると、佐藤はなにやら呆れた顔をしてその場を去ってしまった。
まったく、自由な生徒だ。
一応引き止めはしたが、まるで気にする風もなかったので諦めた。
A子にも話を聞かなくてはな、と思い教室に戻ろうとすると、ちょうど下校しようとするA子とすれ違ったので、翌日話を聞くと伝えた。
その翌日、A子から話を聞いてみれば、なにやらまず先に佐藤がA子の机にゴミを入れたのだという。
佐藤には悪いが、納得してしまった。なにしろ佐藤はこの手のエピソードに事欠かない。佐藤が教室を歩けば8割の生徒は目をそらし、残りの2割は何をするかと面白がっているほどだ。
私は個人と個人の諍いであればそこに介入する気は毛頭ない性質なので、もう好きにさせておくことにした。
それに、佐藤とA子の相性はさして悪くないだろうとも感じていた。当人がどう思うかは知らないが、少なくとも側から見ている分にはまあ笑える感じでよいのでは、と。
こうして2-Aでは佐藤が強引に平穏な暮らしを送り、A子がそこにつっかかっていく、妙な日常が形成されたのだった。




