中編
クラスに佐藤という生徒がいる。
私は佐藤があまり好きではない。というか嫌いだ。嫌いになった。
佐藤と同じクラスになったのは今年からだ。
当初は別に、好きでも嫌いでもなかった。というよりお互いがお互いに無関心だった。佐藤は社交的なタイプではないように見えるし、私は私で他に友達ができたから、そちらと楽しく過ごしていた。
あれは5月の初め頃だっただろうか。
私は友達と食堂でお昼を食べることが多く、その日もそうして教室に戻ってきたのだった。
次の移動教室の授業の準備をしようと机の中身を見ると、そこにはゴミが入っていた。恐らく弁当のゴミだろう。
きっちり袋で包まれていたし、食べた後に少し残る汁やカスの類はきっちりと洗われていて、特に匂いなどもしなかったが、配慮すべきはそこではないだろうと思った。
「いや私もそうじゃないだろ」
つい独り言をこぼしてしまう程度には色々と動揺していると、佐藤が教室を出て行こうとするのが見えた。
「ねえ佐藤、私の机にゴミが入っていたんだけど、このゴミ誰が入れたか知らない?」
「それは私が入れました。ゴミ箱がいっぱいだったので」
「は?」
唖然としていると、佐藤はすたすたと教室を出て行ってしまっていた。
あまりの事態に呆然としていると、チャイムが鳴った。授業が始まるらしい。
踏んだり蹴ったりでもう泣きそうに、いや怒髪が天をつきそうになりながら猛然と移動教室に向かったのだった。
その日の終わり、帰宅しようとする佐藤を呼び止めて事情を聞こうとした。
「ちょっと待ちなさいよ、ゴミ箱がいっぱいだったから私の机にゴミを入れるってどういうことよ、意味わかんないわよ!謝って!」
「はあ。ゴミはゴミ箱に捨てるものなので。マナーは守ってます」
「………もしかして私の机をゴミ箱だと思ってる?」
「もういいですか?私忙しいので早く帰りたいんですけど」
「いいわけないでしょ!」
「わかりました、すいませんでした。A子さんが知性の足りない感じの人間に見えるからその机はゴミ箱みたいなものだと思ってゴミを捨てたこと、お詫びします。これからはもう多分しません」
そう早口で告げると佐藤は行ってしまった。
まず私はA子なんて名前じゃないし、そもそもAの要素も子の要素も名前のどこにもないし、知性の足りない感じの人間ってどういうことだし、その机がゴミ箱みたいなものってなんだし、多分ってなんだし、と猛烈に言いたいことがいっぱいになったが、言う先はもういなくなっていた。
それからというもの、来る日も来る日も佐藤のことを考えてしまった。
あのめちゃくちゃムカつく女にどうしたら己をわからせてやれるのか、日々日々考えて、ついに思いついたのが意趣返しであった。
5月中旬、それは決行された。
朝、佐藤が来る前に佐藤の机にゴミを入れてやった。
朝から弁当というわけにもいかないので、コンビニで買った朝食のサンドイッチのゴミを、パン屑一つ残さず徹底して洗い、コンビニ袋で梱包して佐藤の机に潜ませた。
これであの時の私の気持ちがわかるに違いあるまい、と私は佐藤が来るのを楽しみに待った。
ついに佐藤が教室に到着した。
佐藤が己の机を見て、ついで私の方を見ると、おもむろに私の方へ近づいてきた。
何を言うのかと楽しみにしていると、佐藤は私に目もくれずに私の机を持って行ってしまった。
「は?」
呆然としている私を置いて、佐藤は私の机を自分の机のもとへと運んで行く。
「ちょっとなにしてんのよ、返しなさいよ!」
私の抗議の声をまるで意に介さず、佐藤は自分の机から私の入れたゴミを取り出し、私の机にゴミを入れ始めた。
なるほど、こうすればよかったのか。
「ってそうじゃないわ!やめなさいよ!」
手首を掴んで止めようとする私、ゴミを入れようとし続ける佐藤とでぐちゃぐちゃになっていると、先生が教室に到着した。もうそんな時間だったのか。
「君たち、何をしている。早くやめなさい」
先生がそう言って、私たちに近寄ってくる。
「私の席にゴミを入れようとしてくるんです、先生、早く止めてください!」
佐藤は先生にも私にも目もくれずに黙々とゴミを入れようとしている。
「やめなさい、佐藤さん。どういう事情か、あとで詳しく聞かせてもらいますからね」
先生がそう言って佐藤の作業を止めようとするが、佐藤は止まらない。
先生は呆れたようにため息をついて、私の机を元のところへ戻した。
なるほど、そうすればよかったのか!
授業が終わると、佐藤は先生に呼び出されていった。
ざまあみろ、佐藤。
私がスキップでもしてしまいそうなくらい上機嫌になって帰宅しようとすると、先生とすれ違った。
「明日はお前にも話を聞くからな」
うげ。
まあ、これが私の日常だ。




