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魔女と生活4

「今日はどうする?薪を切ろうか?それとも鍛冶仕事の続きをする?」


次の日、元気よくレオと薬草摘みに行ったグレータを見送った後、ヘルフリートはルルーに聞いた。

今日は昨日に続き良い天気で、仕事も進みそうだ。ルルーは思案したあと言った。


「そうね、薪もいいんだけど今日は狩に行こうかと思う。ヘルフリートも手伝って」

「狩?いちご狩りとか梨狩りみたいな?」


可愛い女の子から狩という言葉を聞いて思わずヘルフリートはそう連想する。


「何言ってるの、いちごは季節から外れてるわよ。狩るのはもちろん鹿とか猪よ」


ルルーはそう言って猟銃を物置きから取り出す。

金属製のゴツゴツしたその猟銃は、全くもって可愛くなかった。


「これも、森で死体と一緒に落ちてたの」


しかし、よく見るとその猟銃は普通の猟銃とは少し違うように見えた。

ルルーは銃をかまえ、照準をヘルフリートに合わせて言う。


「色々改造して、私の炎魔法で撃てるようにしてあるの」


ルルーはそう言って、少し得意げに笑う。

拾った時は銃は壊れていた、鍛治技術のないルルーは直せなかったが、それでもはなんとか自力

で改造して、魔法で弾を打てるようにしたのだ。

ちなみに起動は魔法で行うので、ルルーしか使えない。だから誰かに取られても危険はない。


「ルルー、怖いから銃口をこっちに向けないで!っていうかなんで俺の周りの女性は、皆なこんなに強い子ばっかりなんだ」


ヘルフリートは、両手を上げてそう言った。


「ああ、ごめんごめん。大丈夫よ、玉はまだ入って……」


パァン!!!


「わああ!!」


衝撃音とともに、ヘルフリートのすぐ横の壁に穴が開いた。


「キャー!!ごめんなさい!」


固まったヘルフリートは、壊れた人形のように穴の空いた壁を見る。

何度も言うがルルーはドジっ子なのだ。ルルーは慌ててヘルフリートに駆け寄る、どうやら怪我はないようだ。


「ごめん、大丈夫?」

「う、うん。でもちょっと、ちびりそうになったから、次からは絶対にやめてね」


ヘルフリートは朝から半泣きです。


「えーっと……じゃあルルーが獲物を仕留めるとして、俺はなにをするんだ?」


なんとか落ち着きを取り戻したヘルフリートはそう言った。

街育ちで狩なんてしたこともないのだ。きっと、ついていくのがやっとになるだろう。


「大丈夫よ、ヘルフリートには獲物を運んでもらいたいの。今までは私たちだけだとソリを使ったとしても大きい獲物を仕留めても持って帰れないから。小さい動物を狩るしかなかったの。でもヘルフリートが手伝ってくれたら、それなりに大きな獲物でも持って帰れるわ」


大きい獲物を下手に狩ってしまっても持ち帰るのに時間がかかるし、下手すると血の匂いで凶暴な獣を呼ぶことになりかねない。


「なるほど」

「毛皮も欲しいし。保存食として燻製や干し肉にしたら、冬の間の食料もだいぶ充実するわ」

「そうか、なら頑張るよ」

「よろしくね」


2人は早速準備をする。

ルルーは銃を整備すると赤いローブを羽織って動きやすいズボンに履き替える。


「ルルーのローブも赤いんだね」

「そう、魔除けのために一応ね。今度ヘルフリートの分も作るわ」

「本当?ありがとう」


ルルーは森に慣れているが、森は危険が多い、用心するに越したことはない。

そんな会話の後、二人は森に向かった。


「そうだ、時間が空いたらでいいんだけど、この銃もっと改造したいのよね。今は一発ずつしか撃てないんだけど、なんとか連射させられないかなって思って」


狩場に向かう途中、ルルーは銃を持ち上げそう言った。


「ああ、たしかにそれができれば便利だな」

「あなたの鍛冶の技術があれば、改造できると思うんだけど。協力してもらえる?」

「うん。何度か試作が必要かもだけど、冬になったら嫌でも時間はあるだろうし。もちろんやるよ」

「ありがと」

「まあ、これぐらいしかお礼ができないしね」


ヘルフリートはそう言って苦笑する。

ルルーはそれを見て、ヘルフリートはいつもこんな感じだったらいいのにと思う。

襲っちゃうぞとか冗談でも言うから、おかしな感じになるんだよなと呟く。

しばらく歩くと森の奥深くにたどり着いた。


「そうだ、この薬を自分にふりかけておいて」


だいたいこの辺りで獲物を探すことを決めると、ルルーはそう言ってヘルフリートに緑の瓶を渡した。


「なに?これ」

「これは気配を薄くできる魔法薬なの、獲物に気配を察知されにくくなるし、逃げられたりしないの」

「へー、そんな薬があるんだ。便利だね。その赤いローブは目立ちそうだったから、どうするんだろうって思ってたんだ」

「このローブの染料には、魔除けの作用のある染料が使われているんだけど。どう加工しても赤くなってしまうのよ」

「へえ、でもルルーには髪の色も相まってよく似合うよ。可愛い、食べちゃいたくなるね」

「うぅ……また。軽々しくそういうことを……」


ニッコリ笑い、さらりと言うストレートにルルーは少し赤くなる。


「そういえば、グレータが喋っただけで妊娠するって言ってた。ほんと気をつけなくちゃ……ハッ!そういえばおばあちゃんが男は狼だからって言ってた。……怖い!」


自分で連れてきたくせに、ルルーはそう言って後ずさりする。

今までのことが相当トラウマになっていたのだ。


「いや、さすがに妊娠はしないって、っていうかそもそも猟銃を持った娘を襲ったりしないよ。お願いだから銃口をこっちに向けないで」


銃をかまえたルルーに、慌ててヘルフリートは両手を上げてそう答える。

それでもルルーは、警戒した顔で言う。


「あんまり信用できないのよね……っていうか持ってなくても襲っちゃだめだし」


ルルーは半眼になりながら、距離を取る。

それでも今日は、いつまでもこんなことをしているわけにはいかない。

ルルーは気を取り直し、持ってきた気配を薄くする薬を自分にもふりかける。

そしてローブのフードを深くかぶると、早速獲物を探しに向かった。


「あなたはゆっくりついてきて、あまり音を立てないように気をつけて。音は流石に消せないから」

「了解」


こうしてルルーは狩りを開始した。

ルルーは慣れたように森を歩き回り、動物の痕跡を探し回る。

今はどの動物も冬を越すために、木の実が豊富に生っているところに集まっている。ルルーはそこを中心に調べる。

銃声が森に響く。ルルーは順調に獲物を見つけ、確実に仕留めていった。


「鹿一匹と兎が二羽、雉も1羽獲れたわ。今日はこれくらいにしておこうか」

「ご苦労さま」


日も高く上がったところで、2人は一息ついて今日の成果を眺めながら言った。

幸いにも、今日はなかなかの成果だった。いつもと違って、取り過ぎても持って帰れるのでルルーは嬉しかった。


「持って帰ることを考えたらこんなものね。でも、人数も増えたからもうちょっと暖かい毛皮が欲しかったわね」


ルルーはそう言って、思案気な顔をする。


「じゃあ後は俺が持って帰るだけだね。それにしても意外だ」

「何が?」

「いや、だってルルーって何にもないところでいきなりこけたりするし、間違って俺を撃ったりしたのに。こんなに簡単に動物を狩ったりできるなんて意外だった」

「い、いや。あれはびっくりしただけだし、間違って撃ったのは悪かったわよ」


ルルーは赤くなって慌てて弁解する。いつもああではないと、自分では思っているのだ。


「多分、慌ててなかったりしたら大丈夫なのよ。あと、慣れてるからってのもあるわね」


ルルーはそう言って自己分析をして誤魔化す。その後「じゃあ、これよろしくね」とヘルフリートに獲物を渡す。


「なんだか、買い物に来た女の子の荷物持ちをしているみたいだ」


ヘルフリートはそう言って苦笑し、大きな獲物を背負った。


「街だと男の人は、そういうことをするの?」


ルルーは不思議そうに言った。街で暮らしたことのないルルーは、そういった常識をあまり知らなかった。


「デートみたいなものだよ、女の子は買い物が好きだから、男はそれに付き従う」

「楽しい?」

「楽しいよ、俺は女の子が楽しんでる姿を見るだけで幸せだし」


またもや、さらりとそんなことを言うヘルフリートにルルーは思わず赤くなる。


「……まあ、楽しいならいいけど、あなたはそれにプラス下心がある気がするわ」

「うん、それもある!」

「そこまではっきり言われると、逆に清々しいわね」


ルルーは呆れ顔で言い返す。ここまで一貫されると尊敬すらする。


「そういえば、毛皮はこれで足らないの?」

「うんまあ。でも足りなかったらまた狩にきたらいいんだけど、結界の見回りもあるからそんなに時間が取れないんだよね」

「あ、俺たちの分もあるんだもんね。ありがとう、俺はそこそこ丈夫だしグレータの分さえあれば十分だよ。あ、ルルーが直接暖めてくれるならいつでも歓迎するよ」

「……またそういうことを……っていうか直接は暖めません!それに森での冬を舐めない方がいいわよ、吹雪くと一歩も外に出られなくなるくらい積るから防寒はちゃんとしとかないと。それに下手にあなたに死なれたら、グレータがそれにつけ込んで居座りそうだし」

「おお、それはいかにも妹がしそうなことだ」


ヘルフリートが感心してそう言うと、ルルーはガックリとうなだれる。ヘルフリートとグレータは仲がいいのか悪いのかよくわからない。


「はぁ、疲れる……まあいっか。ちょっと古いものでよかったらお古の毛皮もあるし、薪を多めに切っておいてもらえたらどうにかなるでしょ……ん?」

「どうしたの?」

「シッ、静かに」


ルルーはそう言った後、静かに銃を構え狩の体勢にはいる。

目線の方向に銃口を向け、一呼吸置いて撃ち込むと、パーンという銃声が響いた。

すぐにドサリという音がして、何かが地面に落ちた。


「やった、仕留めた!」


ルルーはそう言って駆け寄り、仕留めた獲物を持ち上げる。

手にはだらりとぶら下がる小動物。


「きゃー、今の時期に珍しい白いオコジョよ。しかも毛並みも良いし。これでグレータにマフラーを作ってあげられるわ」


ルルーはそう言ってはしゃいでいる。


「言動は買い物に来た女の子って感じなのに、手に持ってるのが仕留めた獲物っていうのは、なんていうかギャップが凄いね……」


街育ちのヘルフリートはルルーのそのワイルドな姿に少しドン引きする。

ルルーは嬉しそうにはしゃいでいますが、手に持った獲物の血で服が赤く染まってとてもホラーな絵面になっている。


「どうしたの?」

「……いや、グレータも喜ぶと思うよ」


今日何度も見た光景だが、ヘルフリートは改めてそう言った。実は街育ちのヘルフリートに狩は慣れなくて、戸惑っていたのだ、しかし妹のためと言われるとなにも言えない。

そんな会話をしたあと、2人は家に帰ることに。


家に戻ると、グレータも帰って来たところだった。

ルルーは嬉しそうに今回の成果を見せる。


「グレータ、おかえり。見て、今日は一杯仕留められたわよ」

「え?うわわ!」


グレータは見せられた獲物を見て思わず声を上げる。

ルルーの手には仕留められた兎とオコジョが、だらんとなった状態でぶら下がっている。

グレータも街育ちで、しかも可愛い小動物が好きなので、ヘルフリートと同様この状況に兄同様ドン引きする。


「これでグレータのマフラーが作れるわ。……どうしたの?」

「い、いや」

「この季節のは脂ものってるから美味しいのよ」

「え!?た、食べるの?」


しかも美味しいというルルーに、グレータは思わずそう言ってしまった。


「なに言ってるの?初日に食べたシチューにも入ってたよ?」

「……」


流石にいつも勝気なグレータも、顔色が悪くなって来る。


「グレータ、大丈夫か……」

「どうしたの?ヘルフリートもだけど、反応が変だよ?」


ルルーは本気で不思議そうに言った。ルルーにとってはいつもの光景だからだ。


「い、いや、ごめん。実はそういうのに慣れてなくて……」

「慣れてないって……これが?」


ルルーはそう言って、ぐいっと手に持ったまだ死にたてほやほやの獲物をグレータとヘルフリートに近づける。


「うわ!」


グレータとヘルフリートは慌てて、後ずさりする。


「……なんだか面白いわね」


いつもヘルフリートに追いつめられていたので、ルルーは2人の反応がなんだか面白くてそう言った。これまでと立場が逆転している。


「ル、ルルー?わかったからもうそれやめて?」

「えー?でもシチュー美味しいって言ってたじゃない」

「い、言ったけど……」


二人の態度を見てルルーはニヤリと笑い、ここぞとばかりに仕返しをします。


「ほーら。どうしたの?」

「ご、ごめん、謝るからもうやめてー」


まさかこんなことで2人に勝てるとは思っていなかったルルーは、その姿に思わず笑う。

クスクス笑いながら「これに懲りたら、もう私を怒らせない方がいいわね」とからかう。

その日は、そんな風に過ぎていった。ルルーは何だかんだありながらも、仲良くなっていくこの関係に心地よさを感じていた。

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