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白馬の王子様1

グレータは徐々に意識を取り戻す。

窓から入る朝日が眩しくて少し顔をしかめる。まだ眠くて、もうちょっと寝ていたいと思った。

今日はいい天気のようだきっと外は寒いだろう、でもここはとても暖かい。

もう一生ここから出たくないと思って、横を向いてシーツの中に顔を埋める。

そこでグレータは誰かに抱きしめられていると気がついた。

でもなんだかいつもと違う。ルルーだったらもっと柔らかいしお兄ちゃんならもっとごついはず。それなのにグレータを抱きしめている腕はなんだか少し細い。

しかしその腕は力強く、しっかりグレータを抱き込んでいて、グレータは少し苦しいなと思った。あの2人は、こんな風にグレータを抱きしめたりしない。

ぼんやりとそんなことを考えながら、グレータはゆっくりと目を開いた。


「……うぁ?」


グレータは目を開いて固まる。

目の前にいたのは美しい銀髪が光る、見たことのないぐらい綺麗な顔をした男の子だったのだ。


「おはよう、グレータ」


その男の子は、見たこともないぐらい爽やかな笑顔でそう言った。

まるでいつもそう言っているように自然な感じで言ったが、グレータにとっては見たことのない男の子だ、しかもベッドで抱きしめられている。


「……ぎゃーーーー!!!」


グレータは叫び、慌てて飛び起きてベッドから飛び起き、相手から距離をとる。

そして周りを見渡した。

もしかしてどこかに連れ去られでもしたのかと思った。しかしここはいつも自分が眠っている見慣れた部屋だ、違うのは目の前の男の子だけ。


「グレータ!起きたの?」

「グレータ!大丈夫か!」


そんな声が聞こえたかと思うと、バタバタと足音がしてルルーとヘルフリートが慌てて部屋に駆け込んできた。

見慣れたルルーの顔とヘルフリートの顔に、グレータはホッとしてルルーに助けを求めるように抱きついた。


「ル、ルルー!な、なんか知らない子がベッドに……」


グレータはそう言って、男の子を指差す。


「おい!お前誰だ!グレータになにした!」


ヘルフリートはそれを見て驚き、可愛い妹の一大事と思い。グレータをかばうように男の子と対峙する。

しかし男の子は何も無かったかのように起き上がると、一瞬のうちに一匹の白い猫の姿に変身した。


「……へ?レオ?」


猫はグレータとヘルフリートにとっては、もう見慣れたと言ってもいい猫のレオだったのだ。

レオはあっけにとられた2人を横目に、何事もなかったようにベッドから降りると、何もなかっように、スタスタと部屋から出て行ってしまった。


「あー……レオ!勝手に女の子のベッドに入っちゃダメでしょう!」


正体を知っているルルーはそう言って怒るが、そんな声にもレオは知らん顔だ。


「へ?あれ?え?……えーーー!レ、レオ!!!」


やっとレオが男の子に変身していたことが頭に浸透した、グレータは叫ぶ。ヘルフリートも唖然とした表情だ。


「ル、ルルー、ど、どう言うこと?何が起こってるの?」


グレータは起き抜けで色んなことが起こりすぎて、もうほとんどパニックになっている。


「グレータ、それより体の方は大丈夫?足をくじいたって聞いたけど他に痛いところとかない?」

ルルーは跪いてグレータの体を触り、心配そうにグレータにそう聞いた。

昨日聞いた限りでは、かなり高い崖から落ちたはずだ。大丈夫そうだと聞いたが後で後遺症が出ないとも限らない。

あれだけ大きな声を出せたのだから、大丈夫だと思うがルルーは心配だった。


「え?あ、ええっと。うん、大丈夫だと思う……」


グレータはそう聞かれて、自分の体の具合を確かめる。

驚くことが続いたせいでそこまで気が回ってなかったが、そういえば昨日崖から落ちたことを思い出した。

手足を動かしてみたが、今のところものすごく痛むところはなさそうだ。


「ああ、良かった。心配したのよ」


ルルーはそう言って、グレータをぎゅっと抱きしめた。


「ルルー……」

「本当に大丈夫か?グレータ、休みたかったらもっと寝ててもいいんだぞ」


ショックから立ち直ったヘルフリートも、心配そうにグレータの様子を伺い言った。

グレータはその二人の様子に、本当に心配をかけてしまったんだなと、申し訳なく思う。

それでも、2人とも自分のことを心配してくれていたことが嬉しかった。


「お兄ちゃん、ありがとう。大丈夫だよ……あ。」


それとともにグレータは昨日、森に迷い冬狼に襲われたことを思い出した。


「……あれ?そういえばいつのまに私家に戻ってきたの?私、迷子になって……それから冬狼が出てきて……それで……」


順番にそのことを思い出したグレータは、さらに思い出す。

レオが襲われそうになって助けようとして、逆に自分が襲われそうになったことを。

まさに悪夢のような出来事だった。


「そうだ……で?あの後どうなったんだっけ?」


あの後、気を失ってしまったグレータは、狼がどうなったのか思い出せない。

レオが死んでしまうかもと必死だったので、細かいこともよく思い出せないのだ。

それに最後に見た大きな竜は一体なんだったのか。

記憶は曖昧でグレータは夢でも見ていたのかと疑いそうになる。

さっきのレオのことといい、わからないことだらけでとうとうグレータは頭を抱える。


「うう〜」


頭を抱えて悩み始めたグレータに、ルルーは元気そうなグレータの様子にとりあえずホッとして言った。


「朝食にしましょう。昨日から何も食べてないでしょ?詳しいことはその後に説明するわ」


起き抜けでは考えもまとまらないだろう。

それに説明しなければいけないことがルルーには山ほどあった。こんな場所ではとてもじゃないが全てを説明できない。


「朝食……」


そう言われてグレータは、自分がお腹が空いていることにやっと気がつく。昨日の夜から何も食べてない。ついでに喉もカラカラだった。

確かに、何か食べて落ち着いた方がいいかもしれない。

早く何があったか知りたいと思ったが、ルルーに促されグレータは渋々頷く。

ルルーもホッとしたような表情になる。

ヘルフリートも、もっとよくわかっていないみたいだがグレータが無事だったことで一応はホッとしたようすだ。

グレータは服を着替え、ルルー達は朝食の準備をはじめる。

とはいえ、朝食はもうすでにできていた。

グレータがいつ起きてもいいように、準備していたのだ。

今日の朝食は朝食にしては豪華な内容だった。いい匂いがして現金なことにさっきまで何もなかったのにお腹がグーと鳴る。


「じゃあ、たくさん食べてね」


クスクス笑いながらルルーがそう言って席につく、グレータは恥ずかしくて少し赤くなったが、ルルーに従うように席についた。

朝食はいつも通りだった、驚くほど普通だった。

食事は美味しくて、向かいにはルルーがいて隣にはヘルフリートもいる。

昨日のことはもしかしたら本当に夢だったんじゃないかとさえグレータは思った。

それでも狼の姿は鮮明に記憶に残っている。

初めて見た獰猛な魔物、あれを夢だとは思えない。

グレータは思い出して、混乱しつつも食事を進める。

朝食を食べ終わるとグレータの気持ちも少し落ち着きを取り戻しはじめホッとしていた。


「じゃあ、最初から説明するね」


しかしホッとしたと思ったら、そう言ってレオが改まった感じで椅子に座った。

そして、猫の姿からまたキラキラした綺麗な顔の男の子に変身する。


「うわ!」


落ち着いた気持ちはすぐに吹っ飛んだ、やっぱりベッドにいた男の子はレオだったのだ。

グレータは変身した男の子に怯え、隣にいたヘルフリートにしがみつく。


「え、えっと……レオ?……が説明するの?」


目の前の男の子が、本当にレオなのかまだ納得しきれないグレータは、ルルーに助けを求めるようにそう聞いた。

猫だったレオが人間になるだけでも違和感があるのに、それがまた見たこともないくらい綺麗な顔なものだから余計に構えてしまう。


「実は、私も詳しいことはよくわかってないの。だから説明はレオにお願いするわ」


ルルーはそう言って少し困ったような顔をして、食後のコーヒーをみんなに配りはじめる。

コーヒーはいい匂いだったが、グレータはとてもじゃないがコーヒーを飲む気分じゃなくなった。グレータは固唾をのんでレオだった男の子を注視する。

見慣れないその男の子の姿に、グレータは今まさに夢でも見ているんじゃないかと思いはじめた、それぐらいレオの容姿は現実離れしていた。

全員のコーヒが揃ったところでレオが口を開いた。


「僕なりに色々考えてみたんだ、うまく説明できるかわからないけど……」


レオの声はとても柔らくて口調も優しかった。年齢はグレータと同じくらいか少し上ぐらいだろうか。落ち着いていて、大人びた雰囲気がある。

その動作には猫のレオを彷彿とさせる優雅さがあり、グレータは少しだけだがレオと目の前の男の子が繋がった気がした。

グレータはレオの言葉を待った。

昨日何があったのか、そして目の前のレオだという男の子がなぜ猫の姿をしていたのか早く知りたかった。レオは「説明することが多いから、とりあえず簡潔に言うね」と前置きをして言葉を続けた。


「グレータは魔女だ」

「…………は?」

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