長靴ははいてない猫3
ジジッーーー
突然、ルルーの周りにあった明かりが、前触れもなく消えた。
「え?!あれ?どうして?」
森の中でグレータを探し回っていたルルーは、炎がいきなり消え慌てる。
周りを見渡すが変化は何もない。
「おかしいな……あれ?」
ルルーはもう一度炎を出そうとする。しかし、なぜか炎は出てこない。
「??えい!えい!」
何度か試すと、3度目でやっといつも通り炎が出現した。
「ちゃんとついた……なんで?」
ホッとしたが、ルルーには原因がわからなくて戸惑う。
明るくなったので、もう一度周りを見渡してみる。
しかし光が届く範囲には何もない、鬱蒼とした森が広がっているだけだ。
ルルーが首を傾げる、なぜいきなり魔法が使えなくなったのだろうか。
とはいえ今は、グレータを探すのが先決だ。
「とりあえずこのことは後で考えよう。……えっと薬草を摘むルートで、探してないルートは後こっちだけだよね……」
ルルーはそういいながら、そのルートに向けて明かりをかざす。
こちらのルートは一番森の奥まで続くルートだ、そして危険な場所も多い。
結界の淵にも近い。
森の中を片っ端から探したが、グレータは見つからなかった。残ったこのルートが一番怪しい。こちらに行ってしまって戻れないのなら、グレータは間違って結界から出てしまった可能性もある。
レオがいるからその可能性はあまり考えたくないが。
「さっき狼の唸り声が聞こえたし……まさか狼と遭遇してしまってないでしょうね」
ルルーはそう呟く。
あまり考えたくない状況だ。でもこんな時間まで帰ってこないということは、なにか不測の自体が発生した可能性が高い。
突発的に何かが起きて、動けなくなったとかならまだいいが、狼に出会ってしまったとしたら最悪だ。
それに今の時期は夜になるとどんどん寒くなっていく。しかも今は雨が降っているのだ、早く見つけないと最悪命取りになりかねない。
「とはいえ、しらみつぶしに探すしかないのよね……」
ルルーは焦る気持ちを押し殺し。もっと周りがよく見えるように、炎を大きくして辺りを照らす。
「グレータ……レオ……どこにいるの?」
ルルーはそう呟いてグレータとレオを探すために、森の奥に走りだした。
一方その頃、冬狼に襲われそうになったレオをかばうため覆いかぶさったグレータは、来るであろう衝撃に身を硬くした。
「!!!……?」
しかし、不思議なことに衝撃は、なかなかやってこなかった。
しかも気がついたら、庇っていたはずのレオがいなくなっている。
「え?あれ?」
その時、誰かがグレータの頭を撫でた。
「グレータありがとう、少し休んでて……」
「え?だ、誰?」
わけがわからずグレータが顔をあげると、目の前には見上げるほどに大きな竜がいた。
「!!!」
突然の状況にグレータは頭が混乱する。レオはいないし、喋った声が誰なのかもわからない。
グレータは、とりあえずここから逃げなくちゃと思ったのだが、突然体からすうっと血の気が引いたかと思うと身体が動かなくなり、グレータはそのまま地面に倒れた。
次に視界が曇り、意識が遠のく。
最後にグレータが見たものは、冬狼におそいかかる竜の姿だった。
レオはちゃんと逃げられただろうか、そう思いながらグレータは意識を手放した。
降りしきる雨の中、ルルーは必死にグレータとレオの名前を呼びながら走っていた。
少し前に狼と大きな動物の唸り声のようなものがしたので、急いで向かった。
しかし行こうとしたが高い崖がありむかえない。
しかし、竜の姿が遠くに見えたので、あそこだと確信したルルーはそこを降りようとした。でも高すぎる崖を降りれず、結局遠回りしてからそこに行く羽目になったのだ。
結果、時間がかかってしまいルルーがそこにたどり着いた時、冬狼はもういなくなっていた。
「ルルーこっちだよ」
そう言ったのは、大きな木のうろで気を失ったグレータを守るように抱きしめている、男の子だった。
「レオ!大丈夫?グレータはどうしたの?」
「大丈夫、気を失っているだけだ。少し足をひねったみたいだけど、歩いたりはできる程度だから」
ルルーはその言葉にホッと表情を緩ませる。
「それにしても何があったの?結界の外に出てしまうなんて、あなたらしくないわね……」
ルルーがそういうとレオは少し気まずい表情になる。
「ちょっと油断してて……グレータが崖から落ちちゃって……」
「え?あの崖から?結構高いわよ?グレータは本当に大丈夫?」
「うん、それに関して運が良かったよ。頭巾があったおかげだ。でも頭巾は取れてしまって……」
レオはそう言って、グレータがこうなった経緯を説明する。
「それで運悪く冬狼が現れてしまって……」
「そうだったの……まあ、無事でよかったわ」
ルルーはそう言って。自分の周りを照らしていた炎を数を増やしさらに大きくし、辺りの空気を温める。
今はもう真夜中と言っていい時間になっている。
雨はまだやんでいないので、寒さは厳しくなる一方だ。
ルルーは持ってきていたタオルでレオとグレータを拭いてやり毛布で包む。
そして即席で暖かいコーヒーを作り始める。とりあえず、身体を温めるのが先決だ。
流石に寒かったのか、レオはそれを飲んでホッとした表情になった、この森には慣れているとは言ってもグレータが気を失った状況では、どうすることもできず困っていたのだ。
「見つけてもらってよかった、最悪ここで一晩過ごそうかと思ってたんだ。」
この森で育ったレオでも、ここから家に戻る道は探すのに時間がかかりそうだったのだ。
出来なくはなかったが、一人で気を失ったグレータを運んで戻ることは危険を伴うことにもなる。
体が暖まると、幸いなことに雨も徐々に止んできた。
それでもグレータはまだ気を失ったままだ、早く安全で暖かい家に帰った方がいい。
「さてと、ヘルフリートも心配しているだろうしそろそろ家に帰ろう」
帰る道はルルーがわかる。手早く準備をすると、ルルーはそう言ってグレータを抱き上げようとした。
「いや、グレータは僕が運ぶ」
レオはそう言って、自分のものだと主張するようにグレータを抱き寄せる。
ルルーは少し驚いた顔になる。
「いいけど、結構家まで距離があるわよ」
「大丈夫だって、僕だって男だし」
心配して言ったルルーにレオは少しムッとした表情をしてグレータを抱きかかえたまま立ち上がる、少しよろけたがレオはしっかりとした足取りで歩き出した。
ルルーはあっけにとらる。
「せめて背負った方がいいわよ」
慌ててルルーがそういうと、流石に無理があると思ったのかレオは頷き、ルルーに手伝ってもらってグレータを背中に背負う。
「それにしても本当にいいの?途中でグレータが目を覚ましたりしたらその姿を見られちゃうわよ?」
ルルーは少し心配そうな顔で聞いた。
「……うん、いいんだ」
レオは少し考えた頷いて、そう言った。そして続ける。
「決めたんだ。グレータは僕のこと身を呈して助けようとしてくれたし……それに、僕としてもけじめをつけたいしね。自分からちゃんと言うよ」
レオは振り返り、愛おしそうな表情でグレータを見ると、決意したようにそう言った。
「へー……急に仲良くなったと思ったら。今度は急に男になっちゃって……どういう心境の変化なんだろうね?」
ルルーは少しからかうように言う。
「グレータはバカなんだ、怖いって泣きそうになってたのに狼の前に出て来て、俺を助けようと無茶な事をするんだ」
レオはそう言って、負けずにルルーに言い返す。
「どっちにしても、そのうち言わなくちゃならなかっただろ?ルルーもヘルフリートと随分仲良くなったみたいだし?」
「っう!」
途端にルルーはヘルフリートとの事を思い出して、真っ赤になる。なんせ、つい数時間前に急激に距離を縮めたところだった。
「うぅ……レオってば結構言うようになったわね。……いや、確かに随分状況が変わったから、いつかはどうにかしなきゃいけなかったけど……」
ルルーはレオの意外な反撃にブツブツ言い返す。
「あ、そうだ。結界の綻びが見つからない理由がわかったよ」
レオが思い出したようにそう言った。
「え?本当に?どうしてなの?なんでなの?」
ルルーは目を丸くさせ驚く。時間があれば結界の見回りには行っていたのだが、結局全くわからなかったのだ。
とはいえ特に実害もなかったから、この問題は春が来てからまた再検証しようと思っていた。
それでもルルーはずっとその事が気になっていた、全く理由がわからないと言うのはそれはそれで気持ち悪かったのだ。
「それは家に帰って、グレータが目を覚ました後に説明するよ。二度手間になっちゃうし。とりあえず早く帰ってグレータを休ませた方がいい。ルルー道案内よろしくね」
レオはそう言ってグレータを背負い直す。
そうしてゆっくりとだが力強い足取りで進み出した。
「あ。そ、そうだね。今はその議論をしてる場合じゃなかったわ」
ルルーはハッと気がついたようにそう言って慌ててレオの前に立ち、明かりをつけるとルルーはヘルフリートの待つ家に歩き出す。
森は暗く凍えそうに寒かったが、雨はやみ雲が晴れて空には星が瞬きはじめた。