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魔女と赤ずきんと狼2

「お兄ちゃんがカエルになっちゃった!!!」


ヘルフリートは、その声に何が起こったか分からず周りを見渡す。

何故かルルーとグレータが巨大化していて混乱する、恐る恐る自分の手を見ると両手は緑色になって、立派な水かきがついている。

ヘルフリートはそこでやっと、ルルーとグレータが巨大化したわけではなく、自分が小さなカエルになってしまったのだと気がついた。


「ルルーどうしよう、どうやったらお兄ちゃんを元に戻せるの?」


オロオロしたグレータがそう聞いて、唖然としていたルルーはやっとその言葉で我にかえる。


「え?ああ。そっか元にもどさないとね…えーっと……」


何故カエルになってしまったのかわからなかったが、ルルーはそう言って慌てて本棚を探る。


「これは、おばあちゃんが作った魔法薬なんだよね、……で……えーっと……」


パラパラと本をめくりながら、ルルーはその薬の項目を探す。作り方と共に解除方法も載っているのだ。

グレータは、混乱したまま床で固まっているヘルフリートを持ち上げる。ヘルフリートはグレータの手の上にちょこんと乗っかるくらいの大きさになってしまった。


「おばあちゃんは結構変な魔法薬を開発するのが好きで、これもその一つだったんだよね……あ、あった。えーっと、カエルを元に戻すには……“その人を心から愛している人のキスで元どおり”……」

「……キス?」


グレータはルルーの説明を聞いて変な顔をする。

混乱中のヘルフリートは、愛する人のキスと聞いて2人を見上げる。

ここは深い森の中だ、人はほとんどいない。

自分以外でいるのは2人だけルルーとグレータだけ、そのうちの1人は妹だ。

もう1人はルルーだが……

ヘルフリートはこの間、ルルーに言われた言葉を思い出して絶望的な気持ちになる。なんせこのあいだルルーに告白して、ごめんなさいと振られたばかりだったからだ。

ヘルフリートはあの後、告白なんてしなければよかったと後悔したのだ。

そう思った後、ヘルフリートは思いつく。


「そ、そうだ!グレータ家族愛も愛の一つだ。グレータ、お兄ちゃんとチューしよう」

「うわ、喋った。気持ち悪!」

「ひどい!」


グレータが間髪入れずそう言って、嫌そうにヘルフリートを作業台にぽいっと投げ捨てるように置く。

あんまりな妹の態度に緑色のヘルフリートの肌が少し青ざめる。


「うわ、手がなんかヌルヌルしてるし、キモい。キスとか無理無理。マジで気持ち悪い」


グレータは心底嫌そうにそう言って手を自分のスカートで拭う。

残酷な言葉にヘルフリートはワナワナと震え、まんまるに潤んだ瞳に涙がたまる。


「グ、グレータ……そんな、ひどいよ……お、お兄ちゃんカエルの姿で、これからどうしたら……」

ヘルフリートはがっくりと膝をつく。

周りにはルルーとグレータ2人以外に誰もいない。グレータがダメだったらもう望みは無い。

それにヘルフリートは当たり前だが、今までカエルになったことがない。こんな姿ではどうやって生きていくのかも検討がつかない。

それなのにグレータは、いいことを思いついたどでもいうような表情で言った。


「いや、ちょうどよかったじゃない。一人分の食料が余るし。かなり楽になるわ。お兄ちゃんはカエルなんだから虫でも食べたてたらいいのよ」

「虫を食べる!」


ヘルフリートの肌は、完全に真っ青になる。


「それに喋れるんだから、街に行って女の子をナンパでもしてこれば?口が上手いお兄ちゃんならなんとか騙せるでしょ?あ!そうだ。この国の王様のお城に行ってみたら?可愛いお姫様がいたでしょ?池にボールかなんか落としたところを狙って、友達になってくれたら拾ってあげるから、とか恩着せがましく言って口車に乗せてナンパすればいいのよ、お姫様なんてどうせ世間知らずの箱入り娘なんだから、どうにでも丸め込めるわよ」


グレータはうんうん頷きながら容赦なくそう言って、ニヤリと笑う。

その爽やかなくらいの悪党顔に、ヘルフリートの顔面は青から蒼白になった。


「グレータなんて恐ろしいことを……」

「うん、我ながらいい案だわ。じゃあ、問題解決ってことで私はまだ仕事があるからいくね!」


グレータは畳み掛けるようにそう言うと、満足そうな笑顔で部屋を出て行ってしまった。


「グ、グレータ!待って!お兄ちゃんはそんなこと無理だよ!」


必死になってヘルフリートはそう言ったが、その時にはグレータの姿はもうなかった。

ヘルフリートは、水かきがついた手を床にぺたりとついて、項垂れる。どう考えてもグレータの案はいい案とは思えない。そもそも単体でこの森から出て行くことが、まず難しそうだし、途中で本格的に冬になってしまう。

それに運良く森から出られたとしても、話すカエルなんて気持ち悪がられるに決まっている。殺されるか捕まってどこかに売られる未来しか想像できない。

ルルーを見ると、少し困った顔をしてこちらを見ていた。


「ル、ルルー。なんとか春までここに置いておいてくれないか。でも食べ物は虫じゃない方が……いいんだけ……ど……」


ヘルフリートが最後の望みをかけてそう言いかけたところで、視線を感じて上を見上げる。すると棚の上にいたレオと目が合った。

いつも、目を合わすことがないのに、レオは興味深かそうにジッとヘルフリートを見つめていた。


「ッヒ!」


まるで獲物を狙うかのようなその視線にヘルフリートは慌てて目線をそらす。しかし、後ろを向くと今度は棚においてある、瓶の中にいるカエルと目が合った。

ルルーが魔法薬を作る時に使うカエルだ。もちろん死んでる。

ヘルフリートは全身からダラダラを汗を流して固まる。


「あわわわ……」


よく考えたらカエルはよく魔法薬の材料になっている。そもそもカエルに変身する薬にはカエルの脳みそが使われているのだ。

よく見るとこの棚には、他にもトカゲの干物や何かの動物の骨がいくつも置かれていて。

作業台の上にいるヘルフリートは、ただの魔法の材料にしか見えない。

そのことに気がついたヘルフリートは慌ててルルーに向き直る。

すると思いつめたような顔をして、ルルーがゆっくりこちらに近づいてきた。


「!!ル、ルルー!俺はもう食事は虫でいいから!お願いだから殺さないで!……ぎゃー」


無様に命乞いをしてみたが、ルルーは黙ってヘルフリートを掴み持ち上げる。

なすすべもなく、死を覚悟したヘルフリートはぎゅっと目を瞑った。

可愛い女の子に殺されるならむしろ本望だ、ヘルフリートはそう諦めようとした。


「っ……」


しかし、持ち上げられただけで何も起きなかった、ヘルフリートが疑問に思ったところで。

ルルーが顔を近づけ、ヘルフリートにキスをした。

そうするとヘルフリートの周りに、もくもくと煙が立ちあがった。

そうして煙と共に人間の姿に戻ったヘルフリートが現れた。


「へ?……あれ?」


カエルの姿のまま死ぬことも覚悟していたのに、元に戻ってしまったヘルフリートは、状況を把握できずに自分の手を見たり、周りを見てキョロキョロする。


「これでいいでしょ?じゃあ、私も仕事があるからもう行くわね」


ルルーはなぜか早口でそういうと、何事も無かったように足早に部屋を出てしまう。

しかし、よく見ると耳が真っ赤だ。


「え?ル、ルルー!ちょ、ちょっと待って!」


なんとか状況を把握したヘルフリートは、慌ててルルーを追いかける。

ルルーはすぐに捕まった、ヘルフリートはルルーの手を掴み引き止める。


「!」


向かい合わせになったものの、ルルーは恥ずかしくてヘルフリートの顔を見れない。


「もしかして俺にキスしてくれた?」

「っ……」


ルルーは更に真っ赤になったものの何も答えない。


「カエルになる魔法は、愛する人のキスがなくちゃ元に戻らないんだよね?」


ヘルフリートはさらにそう言ったが、ルルーは黙りこくったまま逃げようとする。

しかしヘルフリートはルルーを壁際まで追い詰めて、逃げられないように腕で囲ってしまう。


「ルルー、もしかして俺のこと好き?」


ルルーはもう全身が真っ赤だ、恥ずかしさとヘルフリートが近くにいるせいで心臓が爆発しそうなくらい高鳴っている。黙っているルルーにヘルフリートは更に近づき言った。


「ルルー。俺も、もしルルーがカエルになっても俺は同じようにキスするよ……」


ヘルフリートはルルーの頬をそっと撫で、顎を持ち上げこちらを向かせる。

ルルーの頬は真っ赤に火照り、目は潤んで困ったように眉が八の字になっていて、ヘルフリートはとても可愛いと思った。


「へ、ヘルフリート……わ、私も……」


ルルーは少し震えながら口を開ける、でも言葉が上手く出てこない。

ヘルフリートはそれをなだめるようにもう一度頬を撫でると、ゆっくりと顔を近づける。

ルルーはぎゅっと目を閉じた。


「ゴホン!ゴホン!」

「え?わぁ!」


わざとらしい咳払いが聞こえてそちらを見ると、グレータがニヤニヤした顔でこっそりこちらを覗いていた。


「うまくいったみたいね、お二人さん」


どうやらグレータの酷い態度は、二人をけしかけるためのものだったようだ。

グレータは2人が想い合っているのに気がついていたのだが、何も出来ずずっとじれったいと思っていたのだ。


「本当にお兄ちゃんは世話がやけるわよね。……じゃあ私はお邪魔だろうから、ちょっと薬草を摘みに行ってくるわ。ごゆっくり」


グレータは呆れたように言った後、訳知り顔で籠を持つと、もうすっかり馴染んだ赤ずきんをかぶり、さっさと外に向かった。


「え?グ、グレータ!あの。1人じゃ危ないわよ」


真っ赤になりながらルルーはそう言った。

本当は恥ずかしすぎて、この場から逃れたい一心でそう言ったのだが「大丈夫!レオが一緒に来てくれるって」とグレータに元気よく言われ、レオも当然のようにグレータの後について行ってしまう。


「え?え?いつの間に二人ともそんなに仲良くなったの?」


ルルーが呆気にとられている間に、グレータとレオはあっという間に森に入ってしまった。

後に残されたのはルルーとヘルフリートだけだ、あたりは急に静かになる。

ルルーはさっきの事が恥ずかしくて、ヘルフリートの顔をまともに見られない。

気まずい空気に耐えられなくなったルルーは「や、やっぱり心配だから私も行って来る」と言って赤いローブを掴んでかぶって外に向かおうとした。


「ルルー、待って」


しかしヘルフリートがそう言って、ルルーを後ろからぎゅっと抱きしめが。


「っ!あ、あの……ヘルフリート……」


ルルーは、またあっという間に真っ赤になって、固まってしまう。


「せっかくグレータが気を利かせてくれたんだし……」

「きゃ!」


ヘルフリートはそう言うと、ルルーを横抱きに持ち上げる。

驚いたルルーは、慌ててヘルフリートの首にしがみついた。


「あ、あの……ヘルフリート?」


ヘルフリートはルルーの戸惑った言葉を無視して、ルルーを抱き上げたまま。ルルーの部屋にむかってしまう。


「え?あ、あの……」


そしてヘルフリートは部屋に入ると、どさりとルルーをベッドに押し倒した。


「へ、ヘルフリート?」

「さっきの続き、いい……?」


ヘルフリートはそう言って、触れるだけのキスをする。

ルルーはヘルフリートの行動の意味がやっと分かり。さらに顔を真っ赤にさせて慌ててフードを被り顔を隠した。

時間はかかったが、ルルーは自分の気持ちは自覚していた。

この状況は嫌ではなかったが、やっぱり恥ずかしくてどうしていいかわからなくなる。


「わ、私……」


困った顔のルルーに、ヘルフリートは微笑む。


「ルルー、嫌なら言ってくれすぐにやめるから……」


ヘルフリートにとってルルーは、いつの間にか本当に特別な人になっていた。

だからごめんと言われた後、何もアクションが起こせなくなったのだ。

だから今も、ルルーが嫌がることはできるだけしたくない。

それでも真っ赤になりながら少し震える唇は、本当に美味しそうでいつまでも我慢はできそうにないとヘルフリートは思った。

ルルーは必死に顔を隠しながらも「い、嫌じゃない……」と小さな声で言う。

そうするとヘルフリートも困った顔になる。


「参ったな……こんなに可愛いいこと言うなんて、途中で嫌だって言ってもやめてあげられそうにないな……」


ヘルフリートはそう呟くと優しい手つきでルルーの手をどかしフードをめくる。

ルルーは今度は抵抗しなかった。

ヘルフリートは今まで見たことがない顔をしていて、ルルーはカッコいいなと思った。

ヘルフリートはもう一度ルルーにキスをする、今度はもっと深い物を。

そして微笑み言った。


「じゃあ、いただきます」

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