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魔女と恋2

「デート?」

「そう」

「えっと……誰と?」

「そりゃあ、ルルーとに決まってるじゃん」


ルルーは目を見開く。


「え?い、いやでも……この格好じゃ……」


そう言ってルルーは自分を見下ろす、古い茶色のローブにシワシワの手にシワシワの顔。

今は魔法で老婆になっている、この格好では傍目から見てもデートとは言えないしヘルフリートも楽しくないのではないかと思って、ルルーは戸惑った。そうしているとヘルフリートが言った。


「でも、もうそろそろ魔法が切れる頃だろう?」


確かに魔法の効果はもうすぐ切れる、そのために変装の魔法薬は予備も持ってきていた。ルルーは頷く。


「だからその薬を飲まずに、いつものルルーとデートしたいなって。今日はまだ時間があるんだろ?」

「え。う、うん……時間はあるけど……」

「短時間なら元の姿でも大丈夫だよ。女の子一人なら危ないけど、俺と一緒なら怪しまれることもないよ」

「でも私、デートとかしたことないし……」


ルルーはもじもじしながら言った。確かにヘルフリートの言ったように、元の姿でも二人一緒なら問題はないだろう。

しかし、知識としてデートとは男女2人でどこかに行くこと、であると言うことは知っていたが、実際にしたこともないし、具体的に何をしたらいいかもわからない。


「それは、大丈夫だよエスコートは男に任せるもんだし。ルルーの行きたいところがあれば、そこに行けばいいんだよ」


ヘルフリートは軽い感じでそう言った。こういったことに詳しいヘルフリートの言葉は説得力があっる。

そう言われてルルーは、それならなんとかなるかなと思い、迷いつつ頷いた。

ヘルフリートは、それを見て、嬉しそうにやったと言って喜んだ。

しばらくすると、魔法薬の効果が切れていつものルルーに戻った。

服は老婆の時のままだが、茶色いローブで隠れるのでそこまで変ではない。


「じゃあ、行こうか」


ヘルフリートはそう言って、手を差し出す。


「あ……う、うん……」


手を差し出されたと言うことは、手を繋ぐと言うことなんだろうが、ルルーはなんだか気恥ずかしくて戸惑う。変な風に心臓が高鳴った。

ルルーは恐る恐るその手を握った。

ヘルフリートの手は、鍛冶の仕事をしているだけあって皮膚が硬くてゴツゴツしていて大きい。

当たり前なのに今更ながらヘルフリートは男なんだなと再確認して、なんだか恥ずかしくなってルルーはうつむく。


「ルルーはどこか行きたいところとかある?」

「え?えーっと……」


そう言われてルルーは悩んだ。

ルルーはこの街には買い物には来るものの、いつも行く店以外の店をよく知らなかった。

迷っていると「じゃあ露店の方をぶらぶらしようか?色々売ってるし何か食べ物とかつまんだりこれから買う予定の下見になるかも」と言った。


「ほら、グレータにお土産も買ってくれるっていってたじゃん」

そんな風にヘルフリートが付け加えると、ルルーはなるほどと思い頷く。

それを見たヘルフリートは嬉しそうに笑うとルルーの手を引き、歩き始める。なにがそんなに嬉しいのだろうとルルーは思いながらついて行く。それでも、手を繋いでいるという以外は同じなのになぜかそわそわしてきた。

ちなみに荷車は預けてある。

露店はその街の中心部分に噴水を囲むような形で並んでいる。丁度お昼ごろなのも手伝って人が多くかった。


「そういえばそろそろお昼なんだね」

「お弁当を持ってきたけど……」


ルルーはそう言った、今日はこんな風にお金に余裕が出るとは思っていなくて、お弁当を作ってきたのだ。しかし露店の方からは、何かいい匂いが漂ってきてそちらも気になる。


「美味しそう……」


ルルーがそう言うとヘルフリートは。「じゃあ、何か一つ買って二人で分けよう」と提案する。

一人なら無理だが、二人なら食べ切れる。ルルーも同意して早速買いに行く。

二人は迷いに迷って串の焼肉を買って、中央にある噴水の前で座りお弁当を広げる。

朝焼いたパンに干し肉やチーズを挟んだものだ、買った串とも合って美味しい。

今日はいい天気で風も少ない。少し空気は冷たいが日差しが暖かいので過ごしやすかった。

心配しなくても、露店で買ったものもお弁当も美味しくて、2人はあっという間に全て食べてしまった。

お腹もいっぱいになった2人は持って来たお茶で一息ついた。

ヘルフリートは満足そうに言った。


「いい天気でよかったな、なんだかピクニックをしてるみたいで楽しい」

「うん、そうだ……やっぱりグレータも連れてきたらよかったかも。きっと喜んだと思うわ」

「そうだな」

「そういえば、お礼はこんなことでいいの?」


まだデートは途中だが今のところお礼をできている気がしなくてルルーはそう言った。


「うん?なんで?」

「だってこんなのでお礼って簡単すぎるし、私なにもしてないよ。遠慮しなくていいのよ、っていうかヘルフリートが稼いだと言ってもいいお金だし、お礼っていうのも変なんだけど」


ルルーは少し困ったように言う。なんだか自分ばかり得をしているような気がする。


「いや、お礼とか本当はいいんだ。むしろ俺の方がお礼をしなきゃダメだから……」

「え?何かあったっけ?」


身に覚えのないことを言われてルルーは驚いて首をかしげる。

まあ、最初は脅されて居座られるという始まりだったが、今は協力しあう同居人といった感じだ。だからルルーには心当たりがなかった。むしろ今日は、街育ちのヘルフリートには教わることも多い。


「グレータが母親のことで俺に罪悪感を持ってたって教えてくれただろ。あれ、本当に感謝してるんだ」


ヘルフリートは、少し苦笑して続ける。


「そんな風にグレータが気に病んでるとは、思ってなかったから……」


ヘルフリートはその事を後悔するように、そう言った。


「それからルルーがグレータに言ってくれたことも。グレータはすごく救われたと思う」


ヘルフリートは続けてそう言った。グレータは同じような境遇だったルルーだからこそ心を開いた、そしてだから救われなのだ。

兄妹のヘルフリートが同じように言っても、同じ結果にはならなかったろうから余計にヘルフリートは感謝しているのだ。


「実は、母親に関しては俺も色々あったから…」


ヘルフリートはそう言って複雑な顔をし、話し始めた。


「正直いうと妹を恨んだこともある。今はそんなことはないけど、当時はまだ母親に甘えたい頃だったし…」


ヘルフリートは少し悲しそうに顔を伏せる。ルルーも想像して顔が曇る。その頃はヘルフリートは5歳くらいだったのだ。


「いきなり母親がいなくなってしまって。父親は仕事があるから妹の面倒は当然、俺が見ることになった。そうなると友達とも遊べなかったり、真夜中に起きて泣かれたりするし。本当に最初の頃は、なんで俺ばっかりって思って、正直妹のことを可愛いとも思えなかった」


ヘルフリートはそう言って「これはグレータには内緒ね」と少し笑った。


「だけど、必死にグレータの面倒を見てたら、いつの間にか母親が死んだショックを忘れていた。妹がいなかったらきっとずっと引きずって、乗り越えることもできなかったと思う」

「そうだったの……」

「……そういえばグレータが一番最初に喋った言葉が、俺の名前だったんだ」


ふと思い出したように言って、ヘルフリートは微笑む。


「……その頃からかなグレータのことが可愛く思えるようになったのは。グレータは俺がいなければ生きていけないんだって思ったら途端に愛おしくなった。今は大分口が悪くなったんだけど小さい頃は本当に可愛かったんだよ、お兄ちゃんお兄ちゃんって言って、いつもくっついてきて。ちょっと留守にするだけで泣いちゃったり」


ヘルフリートは、懐かしそうにはにかんだ。


「だから、母親のことはもう終わった過去だったから。グレータが思い悩んでることも想像できなかった。だからルルーに言われなかったら、ずっと気がつくこともできなかった。あの後グレータと2人でこの事について話したよ」

「グレータはなんて?」

「ごめんなさいって謝られたけど、俺も気がついてやれなかったからおあいこだって言ったらグレータ泣いちゃって、でも次の日はすっきりした顔してたから、もう大丈夫だと思うよ」


ヘルフリートはそう言ってルルーに正面から向き真面目な顔をする。

ルルーはそんなことがあったとは知らず少し驚いた。


「だから、ルルーには感謝してるんだ。改めてありがとう」


そう言ってヘルフリートは、深々と頭を下げた。


「ヘルフリートそんな……頭を上げてよ」


ルルーは慌てる。


「そんなに感謝されるほどのことじゃないし。それに……私もデートってやつをちょっとしてみたかったら……その…楽しいし」


ルルーはそう言って、赤くなる。

実は、以前ヘルフリートと猟に言った時、ヘルフリートがデートは楽しいと話していたのを聞いて、一度行ってみたいと思っていたのだ。

それと同時に気がついた、ヘルフリートがデートをしたいと言ったのはお礼がしたいと言ったルルーを気遣って言ってくれたのだと。

そう思ったルルーはなんだか恥ずかしくなってくる。


「でも意外だった。ヘルフリートも大変だったんだね。なんだかいつも軽い態度だったからそんな事があったなんて想像できなかった」


きっときっと気が付かなかっただけで、ヘルフリートはいつも気を使ってくれていたのかもしれない。

ヘルフリートは苦笑する。


「ルルーもそんな生まれだったら、もっと人を恨んでてもおかしくないのに、素直でまっすぐな性格ですごいと思うよ。俺はあんまりものを深く考えてなくて単純なだけなんだと思うけどね」


ヘルフリートは明るく笑い「じゃあ、そろそろデートの続きをしようか」と言って立ち上がり手を差し出す。

ルルーは頷き、手を取った。今度は戸惑わなかったが、心臓は前と同じくらい高鳴った。

二人は手を繋いで、ゆっくりと露店を周ることに。

露店には食べ物から書籍まで色々なものが並んでいた。

いつもよく通る街なのに、やけにキラキラして見えて不思議だった。

外国からの品物もたくさんあって、見たことも何に使うのかもわからない物が並び、見ているだけで楽しい。

その中には、女性用の宝飾品や雑貨が並んでいる店もあった。色とりどりの飾りが所狭しと置かれていた。


「ルルー、これルルーに似合いそうじゃない?」


そう言ってヘルフリートは、その店に近づき商品を手に取った。

それは淡い緑の小ぶりな可愛い髪飾りだった。


「え、そう?」

「ルルーは、こういうのあんまりつけないよね?」


たしかにルルーはいつも質素でシンプルな服ばかり着て、こういった装飾品はつけない。しかも狩に行くときはズボンスタイルなものだから、こんな女の子らしさは無縁だった。

ルルーは街に来ても、必要なものを買えばすぐに帰るのが常だったので買おうとも思っていなかった。


「ほら、ちょっとつけてみなよ。絶対に似合うと思うよ」


ヘルフリートはそう言って、ルルーの頭にその髪飾りをつける。


「どう?」


ルルーは恥ずかしがりながらもそう聞く、こんな扱いをされたことがなく戸惑う。

その髪飾りは、ルルーの赤い髪と相まってとても似合っていた。


「お嬢さん、似合ってるよ。よかったら鏡をどうぞ」


そう言ってその露店の店主が鏡を差し出した。

ルルーは鏡を覗き込む。そこには、少し戸惑っているが自分の顔と、可愛らしい髪飾りが写っていた。いつもと違う自分になったようでルルーはさらに戸惑う。


「なんか、変な感じ……本当に似合ってる?」

「うん、すごくよく似合ってる。可愛いよ」


ヘルフリートのそのストレートな言葉に、ルルーは逆に恥ずかしくなり赤くなる、それでもいつもの軽薄な言葉だったが可愛いと言われてルルーは嬉しくて、思わず笑顔が漏れた。


「……っ」


ヘルフリートはその可憐だけど控えめな笑顔を見て、思わずヘルフリートも真っ赤にって思わず顔をそらしてしまった。


「……」

「……」


真っ赤になった二人の間に、変な沈黙が降りる。


「お二人さん、買うのか買わないのかどっちなんだね」


たまりかねた店主がそう言うと、二人は我にかえる。

ヘルフリートは慌てて手を戻し頭をかく。


「あ、そうだ。ルルーお礼になにか買っていいって言ってたよね。それでこれ買っちゃだめかな?」


ヘルフリートが何かを誤魔化すように言った。


「え?これ?別にいいけど……ヘルフリートが着けるの?」

「なんでだよ。もちろんルルーが着けるに決まってるでしょ」


変な解釈をするルルーに呆れたヘルフリートがそう言った。


「でも、それじゃお礼にならないし……」

「俺がルルーにあげたいの。もらってくれないの?」

「う……そ、それは……」


ヘルフリートにそう言われて、ルルーは言葉に詰まる。

それでもルルーは何度か食い下がったが、口の上手いヘルフリートに結局押し切られて買うことになった。


「あ、あのヘルフリート。ありがとう」


支払いを済ませたあと、ルルーは照れながらもそう言った。

ヘルフリートは「うん」と言いつつ顔を逸らし複雑な顔をする、照れたルルーが可愛かったからだ。


「……参ったな……このままだと本当に家を出るのが辛くなりそうだ…デートしたいなんて言うんじゃなかったかな……」

「え?なに?、なにか言った?」


小さく言った言葉にルルーが聞き返すが、ヘルフリートは「なんでもないよ」と誤魔化した。

そんなやりとりをしたあと、いい時間になったので二人はデートを終えることにした。

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