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魔女の森1

「きゃー!」


女の子が床に押し倒され、赤い髪が床に広がった。

フードがめくれて、顔がさらされる。男は笑いながら、女の子を押さえつけた。


「食べるってそっちの意味だったんだ、ごめんね気がつかなくて」

「ち、違うわよ。そ、そのまんまの意味よ。っていうか上からどきなさいよ。動けないじゃない!」


必死にのしかかった男を突っぱねたが、女の力ではびくともしない。


「そんなに照れなくてもいいのに……でもそんなところも可愛い。じゃ、遠慮なくいただきまーす」

「ち、違うってば!い、いやーーーーー!!!」







むかしむかし、あるところに暗く深い森があった。

この森は恐ろしい森として有名で、人々から恐れられ「魔女の森」と呼ばれていた。

森には恐ろしい魔物と、文字通り魔女がいて、道に迷わせ食べてしまうのだ。

そんな森で、二人の兄妹が道を歩いています。

二人の名前はヘルフリートとグレータ。

二人はとても仲のいい兄妹だ。


「は〜ぁ。誰かさんのせいで、完っ全に道に迷ったわ」

「妹よ……どうせならはっきりと言ったらどうだい?その方が気が楽だ」


兄のヘルフリートが申し訳なさそうに、そう言いました。


「グズでマヌケで女好きで女ったらしの、今すぐにでも縁を切りたい私のお兄ちゃんのおかげで真っ暗な森の中で道に迷った。お兄ちゃんの所為よ!どうしてくれんの!!」


グレータは容赦なく言い放つ。


「……はっきり言われるのも、それはそれできついな」


ヘルフリートはがっくりと、うなだれた。

二人はとっても仲良しな兄妹だ。


「目印を置いてきてたから、大丈夫とか言ってたくせに。気が付いたら無くなってるし。そのくせ大丈夫!とか言って自信満々に歩いて行くから、付いてきたらこのざまよ!きっとお兄ちゃんの頭はカブト虫かなんかで動いてるんでしょ。ああ、ごめんカブト虫に悪いこと言っちゃったわね。多分木屑かなんかが入ってるのよ、今度こんな失敗したら、頭かち割って中身を見てやるわ!!」


「もう……やめて……」


ヘルフリートはグレータの猛攻撃に、虫の息だ。

とはいえそんな事をしていても、なにも解決しそうにない。そろそろ周りは真っ暗になって、明かりもなくなってしまった。

森の中、長い間歩き回っていた二人は、もうへとへとになっている。

そんな中、ヘルフリートが森の奥になにかを見つけた。


「あ!あれ、なんか光が見える」

「え?」


そう言ってヘルフリートが指をさした先には、小さいが星や月の光とは別の明かりがあった。

真っ暗な森の中、その光は炎のようにゆらゆら揺れている。

明らかに人工の物だ。


「明かりだ。あそこなら、人がいるかも」

「こんなところに人が?」


ヘルフリートは明るい顔で言ったが、グレータは訝しげな顔をする。

この森は、絶対に入ってはいけないと言われている森なのだ。

子供はもちろん大人でも一人では絶対に入らない森として有名で。こんな森に入るのは、腕試しをしたい怖いもの知らずの剣士や、後ろ暗いところのある犯罪者ぐらいしかいない。そんな森の奥で早々人に会えるとは思えない。

しかし、二人がその光に近づくと。そこには、紛れもなく一軒の家が建っていた。

家は森の拓けたところにあって、煙突からは煙も上がっている。

明かりもその家からもれていたものだった。

その家はかなり古い建物のようで、壁にはつたが絡まり屋根には苔やよくわからない雑草が生えていて、なんだかおどろおどろしい。


「なんか怖いよ、やめといたほうがいいんじゃない?悪い魔女がいるって噂もあるし……」


グレータは怯えた顔でヘルフリートの袖を掴み、そう言った。


「大丈夫だよ……たぶん。悪い魔女とかっていうのは、大人が子供を怖がらせるための常套句だよ。それにこのまま森の中で迷い歩くよりましだ、とりあえず行ってみよう」


ヘルフリートは疲れていたし。このまま森の中にいても、代わりに魔物に襲われる危険もある。それに自分はまだ大丈夫だが、妹はそんなに体力がもたないだろう、そう思って家に近づいていった。


一方、その家で1人の老婆が窓から、その様子を見ていました。


「レオ、どうやらお客さんが来たようだよ」


老婆はしわがれた声でそう言った。

猫がそれに答えるように暖炉の前で「ニャオン」と鳴いた。


家の扉にたどりついたヘルフリートとグレータは、恐る恐るノックした。

家はどうやらかなり古くて、年季の入ったものに見えたが、近づいて見ると作りはしっかりしていて、ちょっとやそっとでは壊れそうもないくらいどっしりしていた。

扉の向こうでゆっくり誰かが歩く音がして、扉が開いた。

そこには、こげ茶色のローブを被った怪しげな老婆が立っていた。


「どちら様かな?」


そのしわがれた声にグレータは怖くなって、思わずヘルフリートの服を掴み後ろに隠れた。


「あの、すいません。森で迷ってしまって。……一晩でいいので、泊めていただけませんか」


ヘルフリートは申し訳なさそうにそう言った。魔女はそれを聞いて眉をしかめ、ヘルフリートとグレータを上から下までジロジロ眺めた。

ヘルフリートは見た目18・9歳ぐらいの青年で、茶色い髪に茶色い目。顔は整っていてなかなかハンサムだ。

妹のグレータも兄と同じく茶色い髪に茶色い目だ。その目は猫みたいにくりっとしていて勝気な感じで可愛らしい。年齢は10歳から12歳といったところか。

でも2人とも今は顔色が悪く、疲れている。

服は森を長い間彷徨っていたせいか汚れている。荷物もほとんど持っていない、森を歩くには軽装すぎる。

老婆は不審な者を見るような目をしたが、一つため息をついて言った。


「まあ、いいだろう。お入り」


家に入ると中は暖かかった。兄妹はその温もりに、少しホッとした表情になる。

森の空気はもうすぐ冬が来ることもあってとても冷たかった、しかももうすぐ夜になるため、どんどん気温が下がっていたのだ。

明るくて暖かい場所にきて、兄妹はさっきの暗い気持ちにも少し余裕ができる。

家の中は意外に広かった。重厚な棚や使い込まれた大きなテーブルや、椅子が並び、棚には沢山の本や色とりどりの瓶が立ち並んでいて。乾燥させた葉っぱやよくわからない物も、天井からぶら下がっていた。

部屋の中心にはこれまた大きな暖炉があり、老婆はその暖炉に向かうと、何かを温め始めた。

老婆は暖炉の前にあるテーブルを指差し「そこにお座り」と言った。

ヘルフリートとグレータは老婆にそう言われ、恐る恐るテーブルの椅子につく。

そのまま待っていると、鍋からいい匂いがしてきた。

老婆は器にそれをよそうと、ヘルフリートとグレータの前に置いた。

それはとても美味しそうなシチューだった。


「食べな」


老婆は無愛想にそう言う。

実は1日何も食べていなかった兄妹は、飛びつくようにすぐに食べ始めた。

そのシチューは具も多くて見た目通り美味しく、何より暖かかった。


「こんな状況で、外に出すのも目覚めが悪い、泊まってもいいがベッドは2つしかないんだ。悪いけど2人で一つのベッドで寝ておくれ。ただし一晩だけだ」

「ありがとうございます」


老婆は無口で偏屈な感じだが、親切にも今夜は泊めてくれるようだ。

ヘルフリートとしては物置でも貸してくれたらそれで十分だと思っていたので、むしろありがたかった。

ヘルフリートはお礼を言ったが、老婆が少し眉を顰めてふんと言ったきり黙り、老婆は2人が食べているのを横目に、少し離れたところで編み物を始めてしまった。

お腹が満たされホッとしたグレータは、老婆の足元に猫がいることに気がついた。


「あ、猫ちゃん。可愛い」


猫好きだったグレータは、老婆が怖かったのも忘れて目をキラキラさせ、思わず声をあげた。


「ねえ、触ってもいい?名前はなんていうの?」


その猫はツヤツヤでふわふわ白毛で、青い目をしたとても綺麗な猫だった。

首には青い石をぶら下げていて、白い毛は発光しているように真っ白で、なんだか神秘的で優雅で気品があった。

グレータは触りたくて近づく。


「その子はレオだ。気難しい猫なんだ、不用意に近づくと引っ掻かれるよ」


魔女は編み物をしながら、グレータを横目にそう言った。

老婆は怖かったが、グレータは猫の美しさに惹かれ。老婆が座る椅子にできるだけそっと近き、怖がらせないように姿勢を低くして手を伸ばす。

しかし猫は嫌そうな顔をしてグレータに唸ると、伸ばされた手を素早く引っ掻き。暖炉の上に飛び乗ると専用の寝床と思われる籠に入り、丸くなってしまった。


「痛っ!逃げられちゃった……」


グレータは残念そうに呟く。

猫は手の届かないところに行ってしまった、グレータはこれ以上無理に触っても余計嫌われそうだと思って諦める。

シチューを食べ終わってお腹いっぱいになると、2人は眠そうな顔になる。

老婆は2人を部屋に案内する。部屋はベッドと椅子、それから本棚や色々な用具が置かれている机がある、簡素だが清潔で綺麗な部屋だった。

疲れていた2人は、すぐにベッドに入る。

ベッドはふわふわで、清潔なシーツがかかっていた。


「お兄ちゃん、お婆さん怖そうだけど結構優しいね」


ベッドに潜り込んだグレータがベッドの柔らかさに感動しながら、ひそひそ声でそう言うとヘルフリートも「そうだな」と頷いた。

正直に言うとヘルフリートも老婆を見たとき少し後悔していたのだ、やっぱりやめておけばよかたったと。

しかし「俺の言った通りだろ、大丈夫だって」と言って得意げな顔でそう言った。

それでも明日からどうするか、まだ何も決まってはいない、とりあえず森から出て街に出たい。

明日はとりあえず老婆に道を聞いて、街に出れる道を聞くことにしようと話し合い。2人は眠ることにした。


真夜中、ヘルフリートは何かの物音で目が覚めた。

耳をすませると、何かシュツシュツという音がする。

おそらく扉の向こう。暖炉がある部屋からだ。

しかもブツブツと誰かが喋っているような声も聞こえる。

なんだろうと思ったヘルフリートは、ゆっくりとベッドから出て部屋の扉をそっと開ける。

見ると暖炉の前で、老婆らしき人物が背を向けて何かをしていた。

ブツブツ何かを呟いていたのは老婆のようだ。

ヘルフリートからはローブを被り俯いて、なにかをしている老婆の姿しか見えない。ヘルフリートはそっと部屋を出て、老婆が何を言っているのか確認しようと近づいた。


「……な……もう……食べて……太らせて……だ……ない……」


ヘルフリートからはボソボソと喋っていて、何を言っているのかわからない。

でも何をしているのかはわかった、老婆は包丁を砥石で研いでいた。


「……ね……と………な……を……太らせて食べてやる」

「!?」


もっと近づくとヘルフリートは驚く。老婆はっきりと食べてやると言ったのを、聞いたからだ。


「おい!どう言うことだ!」

「え?きゃあ!」


道に迷っていただけなのに殺されてはたまらない。そう思ったヘルフリートは先手必勝とばかりに、老婆の腕を掴みあげた。

そうすると老婆のはずのその人は、女の子のような可愛らしい声で悲鳴をあげた。


「え?」


その声にヘルフリートは動きを止める。

掴み上げたせいでフードが取れて顔が見えた。

見上げたその顔は可愛らしく。髪は燃えるように赤い、表情はまだあどけなさが残るが年齢は16・17才くらいと言った感じの女の子だった。

女の子はまん丸な目で、ヘルフリートを見あげる。


「え!!なんでこんな女の子が?」

「え?なんで……あ!!しまった、魔法は解けてたんだ」


女の子は自分の顔を触り、慌ててそう言った。


「きみ誰?お婆さんは?」


ヘルフリートは驚いてそう聞いた。しかし、よく見るとその子は老婆が着ていた服と同じものを着ている。


「君はあのおばあさん?魔法とか言ってたけど、本当に魔女っていたんだ………って言うか君、可愛いね」


ヘルフリートは困惑していたのに、いきなり顔を輝かせそう言った。


「え?な、なに?っていうか離してよっ……ぅわ!きゃー!」

「うわ!」


気がつくと女の子はヘルフリートに押し倒されていた。

赤い髪が床に広がる。


「ちょっ、何するの!」

「いや、足を滑らせたのはそっちだよ」


どうやら慌てていて、ローブの裾に引っ掛かって転んでしまったようだ。



「でも男としては役得だな。こんな可愛い子を押し倒せるなんて」


グレータが言っていた通りヘルフリートは女好きで女ったらしだった。

むしろこの状態で何もしないのは、逆に失礼だとさえ思っている。ヘルフリートはにっこり笑って言った。こんな森の奥で、可愛い女の子に会えるなんてラッキーだ。


「さっき言ってた食べるってそっちの意味だったんだ、ごめんね気がつかなくて」

「ち、違うわよ。そ、そのまんまの意味よ。っていうか上からどきなさいよ。動けないじゃない!」

「そんなに照れなくても。じゃ、いただきまーす」

「ち、違うってば!い、いやーーーーー!!!」

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