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天間明の4日目 その2

吉祥寺に着くと、タイミングよく五十鈴からの電話があった。


カフェで待ち合わせして、合流する。

 

そう言えば五十鈴が何か悩んでいるようだった。


それに明が予知を見たかどうかも気にしていた覚えがある。

 

五十鈴はやっぱり少し浮かない顔をしていた。


「元気ないけど、悩みでもあるの?」


「うん、ちょっとね」

 

やはり五十鈴は明に悩みを相談する気がなさそうだった。


「それより新しい予知を見た?」

 

一瞬、どう言おうか迷った。


「いや、予知はまだ見てないよ」

 

直感でそう答えていた。


考えてみれば五十鈴は明の予知の話に過剰な反応をしていた。


今日はまだその話をするのはまずいと何となく思ったのだ。

 

疑わしそうな目で明を五十鈴は見てきた。


五十鈴は勘が良いのか、明の嘘が下手なのか、すぐに見抜かれてしまう。


明はごまかすように笑って、輝を持ち上げた。

 

買い物をして、五十鈴のマンションに移動した。


五十鈴が晩御飯を作り終えるまで輝の面倒を見てから、ビーフシチューを片手に家に帰る。

 

だんだんと緊張してきた。


食欲もなくなってきて、ビーフシチューを食べる気がなくなる。

 

心を落ち着かせるために座禅を組んで、瞑想を試みてみる。


目を瞑ると過去の記憶がぐるぐると頭を回った。


明の夢を切り裂いていった交通事故。


五十鈴しか救えなかった。


でも今では思う。


六歳の俺は良くやった。


よく五十鈴を救えたものだ。


時間が来た。


今から出れば八時五分に交番に着く。


交番からヨガライク吉祥寺店の距離は歩いて五分くらいだ。


警察官を八時十五分にヨガライクに連れて行ければ、確実にあの男を捕まえられる。


早すぎて、まだ犯人がヨガライクに潜んでいないと、チャンスを逃してしまう。


警察官と話す時間を入れるとギリギリだがこの時間がベストだろう。

 

吉祥寺東口交番に着くと、警察官は二人しかいなかった。


「あのすみません」


「はい、何ですか?」


帽子の下から白髪交じりの短髪が見える、温和そうな警察官が対応してくれた。


「あの、ビルにナイフを持った男が入っていくのを見たんです」


「ん? どういうこと? ナイフを持っていたの?」


「はい。カバンにナイフを入れているのを見ました」


「ナイフね。刃渡りは長かった?」


「はい。二十センチはあったと思います。しかも眼が血走っていてかなり危ない感じでした」

 

真面目に対応してもらうために、嘘も混ぜていく。


ただ明の言っている話はほとんど本当だ。


スプレーか何かを掛けられる一瞬に見えたあの男の目は恐ろしいほど狂気の色に染まっていた。


「ふーん。で、どこのビル?」

 

どこのビルと言われても明はヨガライク吉祥寺店が何ビルに入っているのか知らない。


「歩いてすぐなので僕が案内します」

 

明がまともな人間か見極めるように、年配の警察官は明の目を見てきた。


警察官だけあって、なかなか鋭い目つきだ。


「おい、ちょっと巡回しているやつら呼び戻して」

 

年配の警察官は後ろにいた若い警察官にそう言っていた。


「もうちょっと待ってね、いま人が出払っているから」

 

そう言って、待たされてもう十分が経っていた。


時計を見ると八時二十分になっている。


焦りが募る。


もうそろそろ危ない。


明一人でも行くべきかもしれない。


明がスタジオにいないことで何か変化があってもおかしくない。


時間が前後する可能性も否定はできないのだ。


「あの」と言って明が立ち上がったときに、自転車が止まる音が聞こえて、一人警察官が帰ってきた。


「ちょっと番を頼むわ。俺はちょっと見回りに言ってくる。おい、行くぞ」

 

年配の警察官は帰ってきた警察官に留守番を頼むと、若い警察官と一緒に来てくれるようだった。


時間は八時二十五分。ギリギリだ。

 

明は早歩きで、ヨガライクを目指す。


土曜日の人の多さが、明の進行の邪魔をする。


人ごみを押しのけたい衝動に駆られたが、何とか気分を落ち着けて、ヨガライク吉祥寺店の出店しているビルに着いた。


一階の耳鼻科がもう閉まっているので、ビルの中は静かなものである。


「すみませんが逃げる可能性があるので静かにお願いします」

 

明はそう言うと、返事も待たずに、階段を駆け上る。


そして、犯人に気づかれないように二階から三階は静かに歩いた。


入り口から中を見ると、ケイは事務処理をしている。


よかった。まだ犯人は動いていない。

 

口元に指を立てて、静かにと言うジェスチャーでゆっくりとドアを開け、中に入っていく。


ケイは明に気が着くと、口を開きそうだったが、後ろの警察官を見て、ビックリした顔をしていた。

 

明はプライベートレッスン用のドアを指差す。


「ここにナイフを持った男がいます」

 

警察官は怪訝な表情をした。


まあ、ケイが普通に事務作業をしていたのでそれも仕方がないだろう。


でもここまで来たからか、明の言葉を信じた行動を起こしてくれた。

 

ドアを開けると、目出し帽を被った男が立っていた。


右の腰にナイフ、左手にスプレーのようなものを持っている。


「そこの君。大人しくしなさい」

 

年配の警察官がそう声を掛けた。

 

その声に反発するかのように男はナイフを前に突き出した。


警察官も警棒を取り出す。


ナイフの刃渡りが長すぎるためか、少し警察官の腰が引けている感じがした。


明は隠し持っていた銃を男に向けて構えた。


今日、中野で買ってきた精巧なモデルガンだ。


目出し帽の男の目線が明のモデルガンに釘付けになった。


その隙を逃さず、年配の警察官がナイフを叩き落とし、若い警察官が男を取り押さえていた。


ただのモデルガンだけど、銃を持っていてもおかしくはない警察官の隣で構えられると、本物かと思ってしまうだろう。


少し警察官の手助けになるかなと思って、ハッタリで買っておいたのだ。


「一件落着やね」

 

明はそう言うと驚きを隠せないケイにモデルガンを振って見せた。


「どうかしましたか?」とサクラがのんびりとスタジオから歩いてきた。


「オー、水戸様でござーい」と明の葵の家紋Tシャツをみると言ってきた。


「控えおろう」


「ははあ」と言い、サクラが頭を下げる。


「あの、どうなってるんですか?」とケイが不思議そうに聞いてきた。

 

警察官に後ろ手で手錠を掛けられ、目出し帽を取られ男の顔が見えた。


見たことがあるような気もするが、いつどこで見たか思い出せない。


「ケイさん、あの男誰だかわかる?」


「いいえ、わからないですね」

 

まあ、そうだろうなと明は思った。


ケイほど美人なら一度見ると印象に残るけど、ケイから犯人を見ても記憶に残っていないだろう。


ケイがもう少し目立たない顔なら、どこの誰かもわからず、犯人からも忘れられたかもしれない。


美人で損をしたケースの一つだね。


「それではお騒がせしたね」

 

年配の警察官がそう言って、男を連れて行こうとしたのを見て、明は思い出す。


このままだとすぐにあの男が釈放される可能性がある。


「あ、お巡りさん。説明すれば長くなるんですけど、あの男が十日前に吉祥寺で起こった女子大生殺人の犯人だと思いますよ」


「それは本当かね?」


「はい。それに彼女は一度ナイフで襲われています」


そう言って明はケイを紹介した。

 

本当に女子大生殺しの犯人かわからないが、こう言っておけば取調べが厳しくなるだろう。


それにケイを殺して、明を刺したのは間違いない。


どちらも起こらなかった事実になったが、この男は危険な人物だ。


何とか余罪を引き出して、刑務所に入ってもらわないといけない。

 

後で交番に話をしに行くということになって、警察官は男を連れて帰っていった。

 

明は思う。


たまに自分の住む世界が一変するような出来事が起こるときがある。


二十年前に起こった出来事は、過去に戻れる力を持ってしても、あまり変えられなかった。


でも今回は何とか成功した。


ただ不思議に思うこともある。


人の死は変えられないとおじいちゃんは言っていた。


そして、それは六歳の頃の経験で身に染みて感じている。


今回のケースだとケイの死ぬ事実を変えるのに、かなりの苦労をするはずなのだ。


でも記憶のはっきりと戻っていなかった俺は、助けられたことをそこまで不思議に思わなかった。


何が原因でケイを簡単に助けられただろう? 


不思議だ。

 

でも、まあいいか。


平和な世界が一変するのを食い止められたのだ。それだけで十分じゃないか。


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