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天間明の四日目 その2

図書館に着くと、九日前の新聞から見ていった。



『アパートで女子大生 刺殺される』

 

八月十五日、午後十一時ごろ武蔵野市のアパートで女子大生(20)が胸部を刺され死亡した。

自宅の玄関前での犯行で、警察は顔見知りの犯行と見て捜査を進めている。

 

事件発生翌日の記事はそれだけだった。

いろいろ探してみたが、詳しい内容はほとんどわからない。

警察はどうやら痴情のもつれから起こった殺人事件と考えて捜査をしているみたいだ。

もう十日も経って犯人が捕まっていないということは、この女子大生の親しい人物ではないのかも知れない。

ケイが狙われている理由が本当にナイフを持った姿を見られたからというものなのなら、この犯人はよほど狂っている。

しかも殺人を犯した一週間後に目撃者を殺そうとしているのだ。

正気の沙汰じゃない。

ケイは悪魔のような邪悪な人物に狙われているのかもしれない。

まだこの女子大生殺しの犯人がケイを狙っていると決まったわけではないが、気を引き締めないといけないと明は思った。 


図書館から出て、サンロード商店街に戻ったときに携帯電話がなった。

五十鈴からの電話である。


「もしもし」


「もしもし。お兄ちゃん、今どこにいる?」


「今はサンロード商店街やな」


「それはちょうどいい。お茶でもしようよ。その後は夕飯の買い物を手伝って」

 

赤ん坊を連れての買い物は大変だろう。

それにたぶん明の夕飯も五十鈴は作ってくれるつもりのはずだ。

 

サンロード商店街にあるカフェで待ち合わせすると、電話を切った。

歩いて三分の場所なので先に行って、ベビーカーを置けるスペースがある席で待つことにした。

砂糖とミルクを入れたコーヒーをちびちび飲みながら待つ。


五分ほど待つと五十鈴が来た。


「お待たせ。じゃあ、私もコーヒー買ってくるね。ちょっと輝をお願い」


五十鈴は輝を抱き上げると明に渡して、ベビーカーを畳んで隅に置いた。

そして、さっとコーヒーを買いに行ってしまう。


最近ゆっくりと相手をしていないからか、輝は明の顔をじっと見てきた。


何の汚れもない好奇心に満ちたその目を見ていると嬉しくなる。

この子は今から様々なことを学んで成長して、大人になっていくのだろう。

そう、きっと立派な人になってくれるはずだ。

俺の甥っ子だもの。

 

輝に顔面七変化を見せていると五十鈴がコーヒーを持って帰ってきた。

ちょっと疲れているのか五十鈴にいつもの元気がないように見える。


「どうした? なんか元気ないけど? 育児疲れ?」


「いや、違うよ。どっちかというと悩み事かな」


「悩み? 相談に乗ろうか?」


「うーん。まだ相談できないかな。それよりも新しい予知は見た?」


「予知? まだ見てないね。あれから一度も見ていないから本当に予知の力が復活したのか良くわからないな。偶然に一回だけ見れたのかも知れない」


「そう。子供の頃の記憶も戻ってないの?」


「うん。ある程度は覚えているけどね。どうやって予知夢を見ていたのかとかは全然覚えていないね。自由に予知夢を見れた時期があったような気もするんやけどな」


良く覚えていないのだが、毎日のように予知夢を見ていた時期があったと思うのだ。

覚えていないのは徐々に忘れたためではなくて、記憶喪失のためである。

ということは時期は両親の交通事故の辺りになるはずだ。

その頃の明は予知夢を意識的に見れていたと思う。

 

五十鈴は窓の外で歩く家族を見ていた。

お父さんが姉の手を引き、お母さんが妹の手を引いて歩いている。

とても幸せそうに笑顔を振りまいてその家族は歩いていった。


「もしパパとママとお姉ちゃんが死ななかったら、私たちもっと幸せだったかな?」

 

両親と姉が亡くなったときに強烈な心の痛みがあったはずだ。

でも幸いかどうか判断しづらいが、明はその記憶が抜け落ち、五十鈴は赤ん坊だったので、どちらも絶望に近い心の苦痛は覚えていないのだ。

二人に残ったのは両親と姉がいなくなった孤独だった。


「そう思うよ」


今が不幸だと明は別に思っていない。

でもやっぱり家族が生きていた方がいいに決まっている。


「そうか」


 何気ない会話なのに五十鈴の思いつめた感じはますます深刻になっているように思えた。

明の受け答えの何に反応して、そうなっているのかまるでわからない。

二十年前の両親と姉の死が、今の五十鈴を苦しめている理由は何だろう。

輝の顔を両親に見せられないことを悲しんでいるのだろうか? 

 

明は両親と姉と五十鈴が輝を囲んで団欒している姿を想像してみた。

でもあまり上手くいかなかった。

なぜなら明自身も両親と親密に話した覚えがないからだ。

明が東京に行く予定だった元日だけは家族の団欒があったかもしれない。

でもそのあとに起こった悲劇と共にその記憶は失われている。


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