津谷景子の四日目 その1
日ごろより一時間遅い朝六時の目覚めは爽快だった。
やっぱり早寝早起きはいいよね。
私の場合は早寝すぎるとみんなに言われるんだけど、気にしない。
今日はゆっくり出来るので、まずは朝食の準備。
と言っても目玉焼きを焼いて、トーストを三枚焼くだけだけどね。
初めはトーストの上にバターとマヨネーズを塗って、目玉焼きを乗せて食べる。
うん、食べにくいけど美味しい。
次はイチゴジャムをたっぷりとつけて食べて、最後はバタートーストにして、オレンジジュースで流し込む。
腹七分だけど、もしかしたら明さんともう一度朝食を取るかも知れないからこんなものかな。
それから洗濯機に洗い物を入れて、部屋の掃除を始めた。
掃除機を掛け終えて、洗濯物を干して、下着を乾燥機に入れても、まだ時間が残っている。
体をほぐすために二十分ほどヨガをやってから、ヨガの本の続きを読むことにした。
知識がなさ過ぎてもインストラクターとして失格だしね。
私はどうも体を動かすほうが好きなので、ついつい読書をおろそかにしてしまうから、読まないといけないヨガの本が五冊ほどたまっている。
読み始めると面白いんだけど、なかなか手が伸びないのは何でだろう?
性格かなあ。
ゆっくり噛むように本を読んでいると、いつの間にか八時半になっていた。
もうそろそろ出かける準備をしないとね。
今日は水色のワンピースを着ることにする。
時間もあるし、汗をそんなにかかないだろうから今日のメイクを丁寧にしてみた。
あんまり化粧をしないから腕に自信はないけど、今日はまあまあの出来かな。
忘れ物はないかと見渡して、お気に入りのワンピースに目がいく。
そう言えば、染みがついているんだった。
クリーニング屋さんに持って行こうと思って忘れていた。
私はお気に入りのワンピースを持って、部屋を出た。
玄関ホールから外を見ると、明さんが待っていた。
今日は時間通りだね。
明さんの今日も服装はすべて新品でそろえている。
買わせた本人が言うのもなんだけど、葵の家紋が書かれたシャツを選んだかな?
私でも忘れていた服を着ていたけど、やっぱり今までの黒い服装よりは断然格好良かった。
「おはようございます。元気ですか?」
「元気だけど筋肉痛だね」
明さんはそう言うと肩を回して少し痛そうな顔をした。
油が切れた機械のようなギスギスした動きをしている。やっぱりロボットダンスを上手く踊れそう。
「一番充実した状態ですね」
私が笑顔でそう言うと、明さんも笑ってくれた。
「充実と快適とは別物ってことやな」
明さんがスッと背筋を伸ばした。アシュタンガヨガの影響でいつもより肩幅が広くなっている気がする。
続けていくともっと良い影響が出るなと私はにやついた。
「今日はまずクリーニング屋さんに寄ってもらっていいですか?」
早くワンピースをクリーニングに出したかったのだけど、さすがに今までは朝早すぎて出せなかった。
忘れていたのもあるけどね。
歩いて三分の場所にある私の通っているクリーニング屋は、九時から開いているのが便利でいい。
そのクリーニング屋は窓から大量の洗濯物が見える。
そこで忙しそうに働いている人も見ることが出来た。
私ですら一週間も経つと洗濯物が大量にたまるから不思議じゃないのだろうけど、文字通り山のようにある洗濯物を見ると、ビックリする。
男の人が終わりそうもない、衣服のピラミッドから一枚取り出してはアイロンをかけていた。
クリーニング屋に入ると、私はワンピースを紙袋から取り出した。
汚れている部分を店員さんに見せる。
「あの、この染み取れますか?」
ワンピースの腰についている黒い斑点を指して聞いてみた。
「あら、鼻血でも出したの?」と恰幅のいいクリーニング屋のおばさんが聞いてきた。
「鼻血? これ血なんですか?」
「そうだよ。もう黒くなっているけどこれは血だね。これぐらいなら取れるから大丈夫だよ」
おばさんの笑顔で言ってくれたけど、私は染みが血だったと言う事実に、かなり驚いていた。
私はワンピース渡して料金を払うと、クリーニング屋を出た。外で明さんが待っている。
「今の服に血が付いていたんですよ」
「へえ、なんか心当たりあんの?」
「それがまったくないんですよね」
ちょっと気になったので私はいつこの服に血が付いたのか、歩きながら考えてみた。




