津谷景子の一日目 その5
「へえ、タコライスって言っても蛸が入ってないんですね」
「俺も思った。たこ焼きの新種かと思ったもんな」
明さんはそう言うと笑顔になった。
「タコライスは沖縄料理で挽肉とチーズとレタスとトマトが主な材料みたいだね。あとサルサソースか。ケイさんが注文したのはそれにアボカドだね」
「それがご飯の上に乗ってるの?」
「そう。それがタコライス。残念ながらたこ焼きの仲間とはちゃうで」
明さんは完全な関西弁でそう言うと、笑っていた。
つられて私も笑う。
出てきたアボカドチーズタコライスは、刻んだレタスがたっぷり入っていて、思った以上にヘルシーでしかも美味しかった。
私が半分食べたときには、オムライスみたい卵で包まれたオムタコライスを明さんはぺろりと食べ終わっていた。
私がタコライスを食べ終わると、ちょっと明さんは姿勢を正し、真面目な顔になった。
何を言われるのかドキドキする。本当に告白をされたらどうしよう?
「これから言うことは冗談ではないから、そのつもりで聞いて欲しい」
明さんの表情は真剣だった。
私は「はい」と頷く。馬鹿な話だけど私はプロポーズを受けるような気になって、凄く緊張していた。
そんな訳はないと頭ではわかっているのだけど。
「実はね。俺がこんなに真剣にヨガをやっていたのは失っていたある力を取り戻すためなんだ」
予想していないことを言われたので、私はどう反応していいかわからず「へ?」と間抜けな返事をしてしまった。
「その力って言うのが予知能力なんだよね」
「予知能力?」
「そう予知能力。未来がわかるっていうやつやね」
「はあ」と私はまた間の抜けな返事をしてしまう。
でもそんなことを急に言われて、どう返事すればいいのかわからないのは普通だと思う。
「それでさ。今日ケイさんが死んでしまうのがわかってるから、それを食い止めようと思って今日食事に誘ったわけやねんな」
「へえ」と私は思わず食いついてしまった。何て信じがたい刺激的な話をしてくれるのだろう。
疑う前に私は楽しいと思っていた。
「え? 死ぬってどういう感じで死ぬんですか?」
私が嬉しそうに聞いたからか、明さんはあっけに取られた顔で見てきた。