津谷景子の三日目 その4
午後からは吉祥寺店で勤務なので、私たちはまた中央線に乗ると吉祥寺まで移動した。
電車に乗っている時間なんて十分もないのだけど、明さんは優先座席に座っていた。
吉祥寺に着くと、私たちは大戸屋で昼食を取った。
私は鶏と野菜の黒酢あん定食の五穀米を大盛りで注文した。
明さんは四元豚のロースかつ定食を食べている。
やっぱり食事は誰かと一緒がいいよね。
日ごろの昼食はお弁当を買って、吉祥寺店で薫子と一緒に食べることが多い。
薫子はあんな長い爪をしているのに自分でお弁当を作ってきているんだ。
偉いよね。
ヨガライク吉祥寺店に行くと、ちょうど薫子がお弁当を食べているところだった。
薫子はもぐもぐしながら私に目で挨拶すると、明さんを見てピタリと動きが止まった。
目を見開いて明さんを見ている。薫子はファッションにうるさく、明さんの変わらない服装に苦言をしていたことがある。
急に服を一新した明さんへの反応は私の期待通りのもので、驚いた顔のまま私にアイコンタクトを何度も送ってきた。
私は薫子に明さんをゆっくり観賞してもらうため、先に更衣室で着替えることにした。
ワンピースをさっと脱いで、ヨガウェアに着替える。
今日三度目のお着替えなので、やっぱりワンピースが楽でいいね。
更衣室から出てみると明さんが薫子と話をしていた。
「ケイさんに惚れているお客さんっているかな?」
「私の見たところ何人もいるね。大体ケイちゃんってスタイルはモデル並だし、顔はそこら辺のアイドルも真青な美人じゃん。明さんももっとちゃんと見たほうがいいよ。今日なんてスッピンなのにあの美貌だよ」
そう言って薫子は私に向かってウインクした。
私が電話でとっさに明さんを好きだと言ったから協力してくれているみたいだ。
明さんは私の顔をちらりと振り返って見ると、また薫子との会話に戻っていた。
そのとき、ちょうどチラシを見てきた新規のお客様が来たので、私は薫子たちの会話に入らないで、お客様にヨガライクのシステムの説明をした。
私を好きな人が誰かなんて話を真剣にしている場に自分がいたら照れるし、それに私はお客様に私を殺そうとしている人がいるなんて思っていない。
きっと私をナイフで切りかかったのは通り魔なのだろう。
家の前を通り魔がうろついていたことを歓迎するわけじゃないけど、生徒さんが犯人とは思いたくないもの。
たとえそれが歪に変化した愛情の姿であってもね。
お客様への対応が終わった頃にちょうど明さんたちの会話も終わっていた。
「ここは安全だと思うから一度家に帰るよ。また七時に迎えに来るから」
そう言って明さんは帰ってしまった。
凄く眠そうな顔をしていたので昼寝でもするのかもしれない。
帰るうしろ姿が病み上がりの人みたいにふらふらしている。だいぶお疲れのようだね。
「ちょっとケイちゃん。明さんどうしたの? 黒くないじゃない」
薫子が明さんが見えなくなると同時に興奮した声で言った。
黒い服を着てなくて驚かれる人も少なそうだね。
明さんか葬儀関係者くらいかも。
「でしょう」と私は得意げに言った。
「何があったの? いつも同じあの黒い服はここに通うための制服だったの? 私服の明さんはああなの?」
私がどう返事しようかなと迷っていると、薫子がまたすぐ口を開いた。
「いや、でもあの服はすべて新しかった。ブレスレットも傷一つなかったし。じゃあ、ケイちゃんに格好良いところ見せるためにおしゃれしだしたんじゃないかな」
そして薫子はハッとした顔になる。
「ってことはもう相思相愛じゃん。やったじゃん、ケイちゃん。愛されてるねえ」
そう言って薫子は私の肩をパンパンと叩いた。
「でもストーカーの候補を明さんに聞かれたけど、第一候補はあんただよって言いたかったわ」
そう言って薫子は豪快に笑っていた。
薫子一人でしゃべって盛り上がっている。
予想以上のリアクションで私は嬉しい。
薫子のマシンガントークが続く。
「明さんにケイちゃんはもったいないと思っていたけど、おしゃれしている明さんなら悪くないかもね。顔もイケメンと言えなくないし。でも明さんって仕事何しているんだろう? 働いていなさそうだよね。それとも実はどこかで経営とかしていて、ほとんど働かなくても悠々自適な生活なのかな? さっきの服も高そうなの着てたものね。明さんってもしかしてお金持ち?」
今の会話で何回質問されたかな?
と私は首を傾げそうになった。
こんなに興奮している薫子を見るのは、某芸能人が一度レッスンを受けに来たとき以来じゃないだろうか。
「お金持ちと言えなくもないかな」と私は答えた。
だって予知さえ使えばいくらでも稼げる気がするもんね。
「じゃあ、玉の輿だね。いいなあ。でもケイちゃんは実家も裕福だものね。やっぱりお嬢様にはお金持ちが来るのかなあ。私の彼なんて売れてない自称ミュージシャンだからなあ。イケメンだからいいんだけどね」
薫子がほとんど一方的に話しているうちに次のレッスンのお客様が来たので、明さんの話題はひとまず終わった。




