天間明の二日目 その5
まだ午後の五時で大人のデートとしては帰るには早い時間だが、朝の六時からなのでもう十分である。
それに明にはヨガの疲れもあったので、次に行く場所を考える気になれず帰ることにした。
そして服を入れているロッカーの鍵を開けて中を見ると、少しため息が出た。
海外旅行用のキャリーバックが入るほどの大きなコインロッカーを四つも借りたのに、開けると雪崩のように買い物袋が飛び出してきたからだ。
つかの間の自由で忘れていたが、明は買い物袋に支配されていた二時間前を思い出していた。
「大変そうなのでちょっと持ちますね」とケイが三つほど袋を持ってくれた。
「力仕事は男の仕事だから」と明は言いたかったがさすがに限界に近かったのでその好意に甘えることにする。
そしてケイさんは優しいなあ、と惚れ直していた。
帰りの電車は空いていたので、迷惑になっていると思いながらも荷物置き場に置かず手で持っていた。
一度下ろすと、もう持つ気がなくなりそうである。
電車の改札もケイに自分のSuicaをタッチしてもらい、荷物がぶつかるので横歩きで出た。
「あの、先に明さんの家に行って荷物を下ろしましょうか」
「そうしてもらえるとありがたいな」
さすがにケイが持っている三袋を追加したら、もう手が引き千切れる気がしたので、明は素直にその厚意を受けた。
うなり声を上げるのを我慢して、もう少しの帰路を歩く。
もうすぐこの筋肉トレーニングも終わる。
買い物袋という悪魔たちから開放されるのだ。
頑張れ、俺頑張れ、めっちゃ頑張れ!
脳内で自分を応援しながら着実に明は歩みを進める。
もつかなあ? 俺の両腕、と明が疑問に思っているうちに、なんとかアパートの自室の前に着いた。
アパートの階段が、最後の難関として立ちふさがってきた。
鬼に両腕を引っ張られながらも何とか地獄から脱出している気分だ。
「ちょっと持ってもらえる?」
そう言って右手の荷物をケイの渡した。
「わ、重い。明さんこんなに重い荷物持ってたんですね」
「まあ、男だからね」と明は言いながら、極限の疲労のため震える手でポケットから鍵を取り出す。
震えでなかなか鍵穴に鍵が入らなかった。
左手が「早くしろよ、こっちはもう限界を超えているんだぞ」と右手を怒っている気がした。
右手は「うるせえ、こっちもギリギリなんだよ」と言っているようだ。
何とか鍵を開けて、中に入るとまず奥に入って左手の荷物をドサリと置く。
両手を軽く振ってから、ケイに持たせていた荷物を両手で受け取って、また部屋の奥に置いた。
片付けられない俺がこんなに大量の服を買って大丈夫だろうかと今更ながら疑問に思ったが、明は深く考えないことにした。
あとはケイを家に送るだけである。
両手が開放されたので、もう楽勝だ。
ゆっくりと歩いてケイを家まで送り届け、寄り道もせず帰ってきた。
今日のやることが終わったと思ったら、疲れがどっと押し寄せてきた。
アシュタンガヨガの影響で体の節々が少し痛い。
明は畳の上に寝転んだ。
今日はもう起きたくない。
目を閉じると、簡単に意識は夢の世界へ行ってしまう。




