津谷景子の一日目 その4
私はスカートだけ縞の模様がある白のワンピースに着替えた。
着替えるのが楽なので私はワンピースをよく着ている。
今日着ているのはお気に入りのワンピースだった。
「明さん、外で待ってるよ」
そう言って、薫子は嬉しそうに扉の外を長い爪で指す。
「じゃあ今日は戸締りお願いね」
そう言って行こうとしたとき「ちょっと」と薫子に呼び止められた。
「何かお腹の辺り汚れているよ」
「え?」と自分のワンピースを見てみた。
確かによく見ると腰辺りに、黒い小さなシミが点々と二つ付いていた。
「まあ、黒い縞の上だからあまり目立ってないし、大丈夫か。明さんは服に無頓着みたいだしね」
そう言って薫子に送り出される。
このワンピースは私のお気に入りなので、軽くショックだ。
一体、いつ付いたのだろう?
何のシミだかわからないけどちゃんと取れるかなあと、今からデートなのにそんなことを考えてしまっていた。
「へえ、ケイさんってワンピース着るんだ。よく考えたらヨガウェア着ているところしか見てないもんなあ」
そう言う明さんは普段の服装のままである。
黒いサマージャケットに青いシャツとジーンズで、別にデートだと言う気合はまるで感じられなかった。
ちょっと日ごろより姿勢はいい気もするけどね。
でも話す口調は日ごろより少し親しみがこもっているように感じられた。
関西弁のイントネーションがいつもより強まっているからそう感じるのかもしれない。
関西弁で話しかけられると、それだけで友達になったように感じるから不思議だ。
私たちは早速、食事に向かうことにした。何を食べたいか聞かれたのでお任せすると、ハーモニカ横丁にあるタコライス専門店に着いていた。
日ごろ明さんは牛丼しか食べていないと言っていたので、吉野家に連れて行かれたらどうしようかと思っていたが、さすがにそれはなかったのでホッとした。
これを明さんとの初デートだとしたら、さすがに吉野家は悲しいものね。
店に入ると私たちは一階の角のテーブルに向かい合って座った。
ガラス壁のため、ハーモニカ横丁を楽しそうに歩く人たちがよく見える。
私は一番人気だというアボカドチーズタコライスを注文し、明さんはオムタコライスを注文していた。