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天間明の二日目 その3

「生きる目的ですか」


「そう。大切な人をもう二度と失いたくないんだ。これはそのための力だよ」


予知の力を持っていたのに両親と鈴音を死なせてしまった。

でも今度は、ケイさんは救ってみせる。

それが出来ないのなら予知なんて意味がない。


第二レースは大穴が来たので、千円が八十八万円になってしまった。

カバン代を稼いでもらうつもりだったけど、ちょっとケイさんに儲けさせすぎたかもしれない。

オッズをちゃんと見ておけば良かった。

これに味をしめて親しくなろうと思われても、何だか悲しい。

ケイさんに好かれるなら、やっぱり男として好かれたいからね。


機械から八十八万のお金が払い戻されたときのケイさんの慌てぶりは見ていて楽しかった。

約九十万入ったカバンを胸に抱きしめながら、ガチョウが猛獣を警戒する姿さながらに、きょろきょろして歩いている。

あまりにも不自然なのでカバンを持ってあげることにした。

あのままだと強盗を招き寄せているようにしか見えないしね。


明とケイは一度吉祥寺により、ケイのお金をほとんど預けてから、新宿に向かった。

明は秘書時代に代議士のカバンを持っていたので、百万くらいを持ち歩くのには慣れていたので、財布の中にそのまま入れている。


新宿に着くと、なぜかケイさんは自分の服を選んでくれるといってくれた。

さすがにデートなのに普段着で来たのがまずかったのかもしれない。

三年前に買ったときは立派だったこの服も大分くたびれている。

お気に入りのシャツで温かくなると毎日この服を着ていたから、十万円ほどした服には見えないかもしれない。

しかし気に入っているとはいえ、何でこの服が十万円もするのだろう?

 安物との違いがいまいちわからないが、おじいちゃんが安物を着る事を嫌っていたために、昔からの服は値段が高い物ばかりだった。


「これなんてどうですか? 明さんなら似合うと思います」

 

そう言ってケイが渡してくれたのは、五千円ほどするTシャツだった。

爽やかな水色に可愛らしいイルカがワンポイントでプリントされている。

汚れが目立たないと言う理由で黒の服ばかり買っていたが、たまにはこういう色も良いかも知れない。

それにケイさんが選んだと言うことは、ケイさんの好みの服ということだ。

明は迷うことなく買うことをした。


「これも可愛いですね。これもどうですか?」


「そうやね。じゃあ、それも買おうかな」


 ケイの勧めてくる服をすべて入れていると、カゴがずしりと重くなってきた。

かごの中が色とりどりのミルフィーユみたいになっている。

店員が困惑した顔でこちらを見ていた。

あまりにも無造作に服を入れていっているので、悪戯と思われているのかもしれない。


「こんなものですかね。それで明さんはその中で何を買うんですか?」


「ん? ケイさんのお勧めだから全部買うよ」


「えぇ? 全部ですか。でも大金が入りましたものね。良い買い物ですよ」


ケイは満面の笑みでそう言って、なぜかガッツポーズをしていた。

別にケイの服を買ったわけでもないのに、こんなに良い笑顔をするなんて素敵な女性だと思った。


「じゃあ、次の店に行きましょうか」


「え?」と明は思わず声が出た。

こんなに服を買ったのにまだ見るの?


「次の店も良い服があると良いですね」


 ケイは嬉しそうに鼻歌交じりで隣の店に入っている。

一店目でもう買い物袋は三つになっていた。

何だか凄いことになりそうだが、ケイのお勧めはすべて買うと言ってしまった。

男に二言はないと思い、明は次の店に入る。


 二店目はシャツの種類が少ないためか、それほど服は増えなかった。

ケイの勧めた服は一着だけで、明はもちろんそれを買っている。


よし、一店目が異常なだけで、このペースならそんなに荷物が増えないかもしれない、という明の思いも虚しく、三店目では袋が四つ増えて、もう両手が袋でがんじがらめになっていた。


ウキウキでケイはまた次の店に入っていく。

そこはスーツ専門店なのだけどなぜ入るの? 

とつい思ってしまう。

結局、スーツも買ってしまった。

スーツは上等なのが家に眠っているのだが、新しいスーツを買っておくのもいいかもしれない。

あまり着る機会がなさそうだけど。


そして、なぜかアクセサリー店にもケイは入っていく。

明はチャラチャラしたのが嫌いなのでアクセサリーを付けたことがない。

男に二言はない。

と思ったのだけど、ネックレスだけはさすがに断ってしまった。


「いや、そういうのは着けないかな」と初めて明が断ったからか、ケイはとてもしょんぼりとしていた。

何だかプレゼンに失敗した新人サラリーマンのようだ。


「じゃあ、こっちのブレスレットはどうですか?」

 

さっきまでしょんぼりしていたのに、急に元気になってケイがまた勧めてきた。

あんたは店員か! と心の中で突っ込んでしまう。

ブレスレットも着ける気がしなかったけど、さっきのしょんぼり顔を思い出して、明はつい買ってしまった。

まあ、ブレスレットなら刃物を腕で受けるときに、少しは役に立つかも知れないと自分を言い聞かせる。

幅一センチもないブレスレットなので、まずそんな場面で役に立たないだろうけど。


ケイが服を選ぶのに満足した頃には、あれ? 

俺って買い物してたんだっけ? 

それとも筋トレをしに来てたんだっけ? 

と思うほど両手の荷物が重くなっていた。

ヤジロベーのように左右の荷物で揺れながらバランスを取っている。

握力が今にも死にそうだ。


何とかコインロッカーまで着くと、明はホッとした息を漏らした。

両手が重みから開放されて、かすかに震えている。

いま筆ペンを持って字を書いたら、解読不能の暗号みたいになるだろう。


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