津谷景子の二日目 その13
お守りを見て、心にじわりと泥水が湧き出るのを感じた。
弟の明人のことを思い出す。
楽しかった今日との差が激しく目が少し潤んでくる。
テーブルを寄せてヨガマットを引くと、その上で蓮華座になった。
そして背骨を伸ばして姿勢を正し、膝の上に手を乗せ、肩の力を抜く。
目を閉じ、呼吸に集中する。
呼吸の音を聞き、胸の動きを感じて、呼吸のリズムに意識を向ける。
二十分ほどすると心が落ち着いてきたので、瞑想をやめると、お守りをパソコン机の引き出しにしまった。
ちょっと小腹が減ったので、パスタを茹でることにした。
茹でたパスタにベーコンとオリーブオイルに唐辛子とバジルを加えて、ペペロンチーノの出来上がり。
テレビで夕方のニュースを見ながら、ペペロンチーノを食べた。
今日の出来はまあまあかな。
洗濯物を畳むなどのこまごまとした家事を済ませると、いい時間になっていたので薫子に電話をすることにした。
大丈夫だとは思うけど明さんに変な態度を取らないように釘を刺しておかないとね。
携帯電話を取り出して薫子に掛けると、三コール目に電話に出てくれた。
薫子は外にいるのか電車の音が聞こえる。
軽く挨拶をしてから私は本題に入った。
「それで今日は明さんとデートしてたんだよね」
「本当? へえ、ちゃんと進展してるんだ。それでどうだったの?」
薫子が興味津々になっていることは声を聞いているだけでわかった。
声に勢いがある。
それにとても嬉しそうだ。
「楽しかったよ。まずね、競艇に行ったの」
「競艇? 競艇ってあのギャンブルの?」
「そうそう。なんか船がレースしてるやつ」
「初デートに競艇って。ケイちゃん。やっぱり明さんは止めといた方がいいよ。ギャンブルに狂っている男なんて絶対止めといた方がいいって」
また変な誤解を薫子に与えた気がする。
「いや、違うのよ。バッグを弁償するためにね」
「何? ギャンブルで当てたら弁償するなんて言ってるの? 最低な考え方してるじゃない」
「いや、そうじゃなくて予知で」
「予知? まだそんな嘘も付いてるの? 最低!」
おかしい。伝えたいことをまるで伝えられていない。
ちゃんとわかりやすく説明しないと。
「あ、ごめん。彼が来たから電話切るね」
そう言われて電話は切れてしまった。
どうやらデートの待ち合わせ中だったみたいだ。
たぶん今日はもう電話に出てくれないだろう。
仕方なく私はメールを打つことにした。
メールはあまり得意ではないんだけどね。
どう伝えようか文章を考える。
文章を考えるのも厄介なら、メールを打つのも時間が掛かる。
私はため息を一つ付いてから、次のようにメールを打った。
『明日、明さんが話しかけても普通に接してね』
誤解は解けないけどこれで大丈夫だろう。
私は扱いなれない携帯電話を充電器に付けると、ベッドに寝転ぶ。
明さんが薫子に投げられる夢を見ないといいな。




