津谷景子の二日目 その7
明さんの失った大切な人って誰だろう?
昔の恋人だろうか?
こんなに思われているのなら、とても素敵な女性だったのだろうな。
おじさんたちのどよめきに、自分が競艇場にいたのを思い出す。
どうやら第二レースが終わったようだ。
「へえ。順位は知ってるんだけど、オッズは知らないんだよね。これはケイさん得したね」
明さんはそう言うとさっきの穏やかな笑顔とはまるで別物のやらしい笑顔を作っていた。
そして私をまた払い戻し機に連れて行ってくれる。
自分の船券を機械に入れると、やたらカタカタと音がなった後にぬっと札束が出てきた。
「ちょ、明さん、これ!」
私は興奮してお金を明さんに差し出してしまった。
「あんまり大きな声を出さない。注目浴びるで。八百八十倍だったから、八十八万円だね」
「はちじゅうはちまん!」
声が思わず裏返ってしまう。こんな大金を手に持ったことなんて生まれて初めてだ。
通帳に書かれているのは数字で、実感がまったくないものね。
「ずるいと言われないために、俺も今回は千円だけ。さてもう合計九十万は勝ったから、競艇はやめよう」
「はい。でもこんなに受け取れないです」
「別にそれは俺のお金じゃないから。ケイさんが買った船券が当たったんだから、ケイさんのお金やで。恩に着る必要もない。俺を信じて買うも買わないもケイさんの自由だったからね」
そう言われて、明さんは私のバッグにお金を入れていた。急に私のバッグが重くなった気がする。
「ひったくられないように気をつけや」
明さんが耳元でささやく。
私は頷くと、六千円で買った青い水玉模様のバッグをぐっと胸に抱きしめた。
取られてなるものか。
「それじゃあ、不自然すぎるな」
明さんはそう言って、私を見てげらげらと笑っていた。
明さんがそっと私のバッグを受け取る。
「いいよ。銀行まで俺が持って歩くよ。そのまま歩くと今度はお金目当ての人に襲われそうだからな」
そう言って明さんはまだクスクスと笑っていた。
私もつられて笑ってしまう。
そんなに私の格好は変だったかしら?
私たちは無事に競艇場を出ると(本当に周りのおじさんたちが全員泥棒に見えて怖かった)吉祥寺に戻った。
吉祥寺の銀行で儲かったお金をすべて預けてから、移動することにした。
ショッピングはカードですればいいからね。
ポイントも付くし。




