津谷景子の一日目 その12
薫子の怒りの声が続く。
「その上、バッグを切るような危ない演技だったんでしょう? 間違えたら本当に刺さってるわよ。もう頭来た! 次に明に会ったら、二度と来れないようにしといてあげるから、ケイちゃんは安心して明後日働きに来てね」
ひゃあ、明さんが殺されると私は真面目に思った。
フォローしないととんでもないことになりそうだ。
「もしかしたら本当かも知れないじゃない。バッグも弁償してくれるって言ってるし」
「弁償! ほら、自分の仲間が切ったバッグだから弁償するんでしょう! 完全に黒じゃないの!」
薫子の金切り声が響く。やばい、火に油を注いだ。
「ちょちょっちょおっと待って。ね、落ち着いて」
まるで今にも明さんが殴り殺されるような気がして、私は大いに焦った。
明さんの家を薫子は知らないよなと心配になる。
このままにしておくと、本当に殴りこみに行きそうで怖い。
「ともかくもうちょっと様子を見ようよ。私もちゃんと疑うし、それに私、明さんのこと好きだし」
「――え? ケイちゃん明のこと好きなの?」
ちょっと薫子の声に落ち着きが戻っていた。
別に私は今のところ明さんに恋愛感情を抱いているわけじゃないのだが、こうでも言っておかないと、本当にどうなるか心配だからだ。
「そう。だから行き過ぎた方法でも私は嬉しいの。だからもう少し様子を見て、ね。明さんが本当にひどい男だとわかったら、そのときはまた相談するから」
「そう? そうかあ。ケイちゃん明さんのことが好きだったんだ。だったら大人しく見守っておくよ。でも本当にそういう嘘をつく人だって言うことを踏まえて付き合うんだよ。変なことされたらすぐ相談してね。ブン投げてやるから」
「うん」と言いながら、薫子は柔道もやっていて、黒帯だと言っていたのを私は思い出す。
特別な予知能力なんてないが、明さんの危険な未来を予感して未然に防いだなと私は満足した。
私は薫子との電話を終えると、ベッドに潜り込んだ。明日の朝も早い。
それにしても薫子の話を聞いて、そういう考え方もあるんだなあと感心してしまった。
明日はどういう風に明さんと接すればいいだろう?
何の考えも浮かばないまま、私はまぶたを閉じた。




