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津谷景子の一日目 その10

「いや、助けてもらったのは私だから頭なんて下げないでください。私こそありがとうございます」


「いや、まさか俺がおっても襲ってくるとはな。計算違いや。ほんま、ごめん」


 そう言うとまた明さんは頭を下げていた。


「たぶんですけど犯人から明さん見えてなかったんじゃないかな。ちょうど犯人から見たら明さんは自動販売機の影に隠れていたと思います」


「なるほど。そうかも知れないな。ところでカバンが台無しになってるね。けっこう高いやつだった?」


 明さんに聞かれたのでもう一度自分のバッグを見てみる。

黒い水玉模様のバッグで二ヶ月前に買ったばかりのやつ。

目玉が飛び出るほど高いバッグではないけど、私にしてはとても高級な品物だ。

命が助かったのはありがたいけど、バッグの状態を見て、私はため息が出た。


「半分、俺の責任だからそのカバンも弁償するよ」


「え? いやいや、そんな悪いですよ。明さんは何も悪くないじゃないですか」


「まあ、まあ。そんな気にするような弁償の仕方じゃないから大丈夫やで。明日デートに付き合ってくれたらカバンは手に入るから」


 そう明さんは気楽な感じで言った。


 そして、マンションの玄関ホールの前まで見送ってから、明さんは帰ってしまった。


 私は自分の部屋に入ると、もう一度切られたバッグを見てみた。

ちょうど斜めにすっぱりと切れているが、中身はほとんど無事だった。

外側に入っていたポケットテッシュと昔おばあちゃんにもらったお守りだけが切れている。

特にお守りは綺麗に真っ二つに割れていた。


 それを見ておばあちゃんのお守りが私を守ってくれたんだなと思った。

このお守りをいつもらったのか思い出そうとしたら、胸がじくりと痛んだので慌てて呼吸を整える。

呼吸に意識を集中し、鼻から大きく息を吸い、大きく息を吐く。


息をすると言うのは生きるということ。


そう言えば弟の葬式でこのお守りをおばあちゃんにもらったんだと思い出した。

とても辛い記憶。


 それから私は怪我がないかお風呂でもう一度確認した。

幸いなことに、転んだときの擦り傷も出来ていなかった。

ゆっくりと湯船に浸かり、明日からのことを考えてみた。


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