第5話『Q.格好付けた後にすることは?』
したっけ=そしたら、それでは
と言う意味の北海道弁で、バイバイと言う意味にもなります。
「怪我はありませんか?」
自分に出来る精一杯の優しいボイスで女の子に話しかける。見た感じ俺と同い年くらいの女の子だ。しかし何故だ。なんだか怯えられている気がする。
「あ、あの……」
女の子は何か言いたそうだが、俺が怖すぎるようでまともに話せていない。ん〜俺そんなに怖い?
ーーあ! そうか! 俺が隣国のライトソードだと思ってるから怯えてるんだ。誤解を解かなきゃ。
「立てますか?」
俺はそー言って、座り込んでいる女の子にそっと手を差し出す。女の子は弱々しく俺の手を掴んだ。
ウッヒョ〜女の子と手繋いじゃったよ。いや、落ち着け俺。ここは勇ましく行かなければ。
俺は女の子の手を引き、ゆっくりとその場に立ち上がらせた。路地に紛れ込む僅かな街灯の光。辛うじて髪が少し長めのショートである事、色は……街灯のオレンジ色が強くてハッキリとはしないが、銀白ではないかと思われる。
「さっきの奴ら、俺のことライトソードとか言ってたけど、実はそんな大層な者じゃないんだ。戦ってたら俺絶対やられてた」
アハハと笑いながら誤解を解こうと抜けている部分を見せてみる。すると今度は女の子が両手を胸に当てながら、小さな声で質問をして来た。
「ーーじゃあなんで助けてくれたんですか?」
なんで? って……間違えて話しかけちゃっただけなんだけどなぁ。まぁでもあの後逃げることもできたか。じゃあなんで? ラノベの主人公なら助けたからとは言えないしーーここはちょっとカッコつけてみるか。
「君が、助けを求める顔をしてたから」
ほんとは暗くて顔見えてないけどね! はっ!
しかし俺は女の子に笑われてしまった。
「フフッ……なにそれ。そんな理由で助けてくれる人いないよ」
そんなマジレスすんなって……。
「ーーでもありがとう」
まぁしかし、お礼を言われるのっていいもんだね。なんだか怖いの我慢して頑張った甲斐があったっていうか、報われた気がした。
ーーさて、これからどうするか。俺の理想としてはここで名乗らず立ち去り、再び運命的な出会いをするって感じなんだが……そんな奇跡はそう簡単には起きないだろう。だが俺は理想主義者なのだ。それをやらずにはいられない。
「もう一人で大丈夫?」
「ええ。もう平気よ」
「なら俺はもう行くよ。夜道には気をつけろよ! バイバイキン」
俺はそう言って走り去った。
「まってまだ名前を……行っちゃった。バイバイキンって……なに?」
■■■
あれから俺は迷った。迷った。ひたすら迷った。しかし戻るわけにはいかなかったのだ。何せあんなに格好つけて立ち去ったんだから。
幸い、元いた世界でも方向音痴だった俺は走り回ることで行きたい場所に無理やり辿り着くと言う技? を身につけていたのでなんとか宿に戻ることはできた。午前一時にね! まぁそれも、アニタクなら普通にアニメ見てる時間なんだけどさ。
ーーそして今現在。朝九時。
なんだろう。言わなくてもわかる? 異世界最高! 朝寝てられるの最高。遅刻だぁぁってならないんだもん。
さて、今日と明日は三日後の試験に向けて色々準備をしなければ。と言っても、一文無しの俺には装備を揃えるとかそう言ったことはできないから、無料で手に入る情報を集めるくらいしかできないんだがな。取り敢えずダグラスさん達に色々聞いてみよう。
「俺が持ってるものは……」
ひとまず俺は今自分の持っているものと情報を整理する事にした。
持ち物
・学ラン
・ポケットティッシュ
・ハンカチ
・スマホ
・イヤホン
次に情報
・魔王がいて、幹部は一人しか倒せてないとか言う絶望的な状態。
・ここは『ソオラム』と言う王国の王都で、ノーツェンスという名前である。
・ノーツェンスには騎士団がある。
・ソオラム王国には、隣国に対立する国があって、そこにはなんかの大会で三位になったソードライトなる者がいる。そして、そこの学生は残虐で有名。
・冒険者には階級がある。ダグラスさんは下から三つ目。
・空島がある。
こんなところだろうか……。今回大活躍だったスマホだが、昨日さまよった時にライト使いまくったから充電がもーほとんどないんだよなぁ……。よく魔力を電力に変換するとか言う設定あるけど、アレこの世界でも通用するのかな?まずはそれを聞いてみよう。
■■■
「ダグラスさん?」
俺は部屋から出て、ダグラスさんのところへと向かった。ダグラスはすでにお昼ご飯の仕込みを始めていた。ーーこの見た目で料理ですか。素晴らしいですね。
「お! トールおはよう! 朝食、机の上に用意してあるぜ」
「あ、ありがとうございます。今少し時間ありますか?」
「なんだ? これつけ終わったら一旦手放せるからパンでも食べて待っていてくれ」
「分かりました」
■■■
「待たせたな。それで? どうしたんだいお客さん」
「実はですね。魔力について教えて欲しいんです」
「……」
朝食のパンを食べ始めて五分が経った頃、ダグラスさんが仕込みを終えて来てくれた。そして迎えの席に座る。俺は真剣な表情で質問したが、この歳で魔力について知らないってもしかしてまずい事だったかな?
「実はな。私もよく分からんのです」
ズコっ。
なんだよ! 緊張して損したわ。でも困ったな。他に聞ける人なんていないし……どうしたものか。
「提案なんだが、試験の前にギルドに冒険者登録をしてみてはどうだ?」
それは俺も考えたんだ。ギルドの人なら色々知ってるだろうからな。でもな、金がねえんだよ。情報買う金どころか、冒険者登録する金すらないだよ。
「でも、登録にはお金がかかるのでは? 僕一文無しですし……」
「なんだ? そんなことか」
そんなこととはなんだ。めちゃめちゃ大きな問題だろうが
「登録の金くらい俺が出してやるよ!」
……え? まじすか? いやでもさすがにこれ以上お金の事でお世話になるわけにはなぁ。
困っている俺を見て、ダグラスさんはこう言った。
「ほれ! 倍返しで頼む」
「何度もすみません。お借りします」
倍返しくらい安いものだ。もーダグラスさん達には感謝しても仕切れないな。
「したっけ、ちょっとギルドまで行って来ます」
「おう! ……おっと、ギルドは町の中心のお城の向かいの建物だ。道間違えんなよ!」
「ありがとうございます」
まぁあんだけ盛大に道に迷って帰ってこればこーいう扱いになるよね。それはさておき、俺は異世界の第一歩、冒険者登録に心を踊らせ今日もスキップしながらギルドへと向かうのだった。
とおるA.「迷子になる」
本日20時より6話公開予定。