第58話『Q.連携の取り方は?』
四方八方から飛びかかってくるゴブリンたち。俺がそれに対応しようと腰を低く構えると、トールの声が俺の耳に届いた。
「魔法が先に飛んでくる! そっちを優先しろ!」
奥を見れば炎魔法を放つゴブリンロードの姿が見えた。確かにあのスピードなら魔法が先にこちらに届く。そして魔法を打ち返すことが出来ればゴブリンもその反撃を巻き込める。トールはどうやって背後の状況を見ているのだろうか。分からないが今は考える時ではない。トールの指示通り俺は魔法を剣で打ち返す。正確には炎を剣に纏わせゴブリンを薙ぎ払っただ。俺の前方百八十度の敵は全てやけながら吹き飛んだ。後ろに振り返れば俺は初めてトールの戦闘をみた。トールはゴブリンの動きを完全に見切っているようで飛び掛かるゴブリンの攻撃を躱してはうなじ目掛けて剣を振り下ろしていた。明らかに余裕のある動きだ。
「本当にHランクか?」
「本当にHランクだよ。次くるぞ!」
もう一度正面に向直れば先ほどよりも大勢のゴブリンが俺たちへと襲いかかってきていた。俺はいつもの癖で大剣を周り全てに向けて振り回していた。しかし後ろにはトールがいる。確実に今の攻撃はトールを巻き込んでいた。
「トール?!」
慌てて声をかける。しかしその時トールは俺の背後にはおらず、代わりに魔法を放ちながらゴブリンロードの方へと向かっていた。先ほどよりも大きな炎魔法はトールの魔法によってかき消され、見事トールの剣はゴブリンロードの首をはねた。
「大丈夫だ。ガイが周り囲まれたピンチの時とっさに取る行動は分かってたから。言ったろ? 合わせるって」
「……そうだったな」
トールは本当に俺のやることがわかっていて、それを制限させることなく敵と戦っている。頭の首は取った。残るは雑魚だけだ。
「トール、今から大技出すから近づくんじゃねぇぞ!」
「はいよ! 頼むぜ!」
「任せな」
いつも以上に剣が乗っている。今ならできる気がするんだ。まだうまく出来たことはないけど、きっと失敗してもトールがなんとかしてくれるさ。
「喰らえぇ、グランドブラストォォオオ!!」
自身の周りの地面を大剣で回転するように抉り取り、もう一回転する際に抉った地面を全方向に打ち飛ばす俺の必殺技。できる場所が限られている上に成功したのは練習で最も上手く言った時のたった一回だけ。だが不思議と俺はこの時失敗する気がしなかった。いや、少し違う。こんな土壇場でも失敗するのが怖くなかったのだ。今は一人じゃない、トールがいる。
俺の必殺の一撃は見事周囲のゴブリンを一網打尽にした。力一杯の二回転で俺の態勢は崩れている。数が多すぎて全てを倒しきったわけではない。ゴブリンは怯みながらも奇声と共に俺へと襲いかかってくる。だがそのゴブリンはトールによって吹き飛ばされた。
ゴブリンロードの痛い地から飛び降りるようにしてゴブリンを吹き飛ばしたトールは前転するように着地をすると、顔だけをこちらに向けてニカッと笑った。
「最後まで冒険を楽しもうぜ!」
俺はこれが今までで一番楽しい冒険だとそう思った。
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さて、ゴブリンロードも倒したしガイが雑魚もほとんど倒してくれたし、あとは残党狩りかな。いやぁにしてもさっきの技はすごかったなぁ。まさか地面をえぐってそれを打ち飛ばすなんて。確かにあれは近くにいたら避けられないし、当たったら致命傷どころじゃないぞ。Aランク冒険者恐るべし。
ここまで本当に順調だ。ガイの動きを見切るのにはだいぶ時間がかかっちまったが、ゴブリンはロード含めて大したことなかったし攻撃パターンはすぐに分かった。なんとかガイの動きにも付いて行けてるし、毎日行っている自主練もちゃんと効果出てるかな。このまま行けば勝てる。だが油断はしてはいけない。俺はそれをダンジョンで学んだ。車の事故も乗ってすぐと到着前の十五分間が一番多いって言うからな。ほら来たぞ。
「ガイ奥で弓矢構えてるやつが一匹いる。やに気をつけろよ」
右から三匹、左から二匹、俺の正面から三匹でガイの正面から四匹か。ガイは右利きだから剣を横に振れば俺の左側の二匹から吹き飛ばされるはずだ。近付いてくる速度からして振り切るまでに右から来るゴブリンの攻撃がギリギリ届くかどうか。ならば右のゴブリンに魔法を打って足止めした後正面のやつを浮かせればいいか。
「アイスボルト」
魔法はゴブリンの足元を狙って放った。見事にゴブリンは一瞬速度を緩め、そのまま突っ込んでくる。しかしそのタイミングはガイの体験の横振りへと突っ込最高のタイミングだ。ガイは俺の予想通りに大剣を俺から見て左から右へと振った。二匹、四匹、三匹綺麗に順序よく斬り跳ねていく。そして最後に俺は正面から突っ込んでくるゴブリンの足を地面をスライドするように移動して打ち上げる。振り返れば惰性で後ろまで回ってきたガイの剣によってゴブリンは真っ二つに斬られた。ガイもこっちを見て笑っている。打ち合わせのない俺たちの作戦は見事に成功した。俺は手に持った剣をガイの後ろへと投げると笑い返して行ってやるのだ。
「矢に気をつけろって言ったろ」
カキンッという音と共に矢が俺の剣によって弾かれる。ガイは舌を出して「忘れてた」と言うと猛スピードで矢野飛んできた方向へと駆け出し、目にも留まらぬ速さで最後の一匹を仕留めた。
残ったのは大量の魔石と財宝の山。
俺たちの冒険はこうして最高の形で幕を下ろした。
とおるA「念を飛ばす!」





