第56話『Q.分かれ道があったらどうしますか?』
中は俺が想像した通りの絵に描いたような洞窟だった。
天井からは何処からか漏れ出した水がポチャンポチャンと音を立てて落ちている。壁はゴツゴツした岩肌に覆われており、何かの節にぶつかれば怪我をしてしまいそうだ。もちろん足場も例外ではない。舗装された道とは違い気を付けていないと転んでしまう。天井はゴブリン用というだけあって、屈まなければならないほどではないがそこまで高くない。ジャンプなどはできないだろう。
少し進んだあたりで俺たちは別れ道に辿り着いた。うまくカモフラージュしているようだが右側に人が通れないほどの道が一つある。恐らく俺たちがまっすぐ進んだ際にその道から出て来て、手前から迎え撃つゴブリンと挟み撃ちにするという算段だろう。
「トールあの穴どうにか塞げないか?」
「んー無理だと思う。俺の使える魔法じゃあのサイズの穴は塞げない」
「トール魔法が使えるのか」
「初期魔法だけだけどな」
ガイはそれでも凄いと俺を賞賛してくれた。それだけこの国では魔法という存在が貴重であることがわかる。そう言えばあんなになんでもこなすテューも魔法は使えないからな。となると死んでなければなんでも直してしまう回復魔法を使うデイブォリット先生は神か何かですかね?
まあそれはそうと、この穴に対してどうするかだが――
「じゃあ放置でいいか?」
ガイさんそれで本当に大丈夫なんですか? 私知りませんよ。後ろから百匹くらい出てこられても私何もできませんからね。
「よし。じゃあ進もう!」
ガイは能天気にどんどんと進んでいく。俺はただただその背中の後ろをついて歩いていた。しかしなかなかゴブリンに遭遇しない。これはラッキーなのかそれとも罠なのか。
洞窟侵入からすでに十分以上が経過していた。ようやく見えて来たらのは小さな部屋のような空間。しかしそこにもゴブリンはいなかった。
「ガイ、なんかおかしくないか?」
「そうだな。村を襲って来たゴブリンが全部だった可能性もなくはないが、にしても食料も財宝もないのは不自然だ」
そうして俺たちは部屋の奥にある小さな台とその上に置いてある魔石を見つけた。
「これ絶対罠だよな」
「なら発動させるしかないな!」
「え? ちょっガイ?」
おいおい待て待て。今なんと申しましたこの人は。バカなの死ぬの? なんでトラップ見つけました。発動させなきゃ! になるんだよ! おかしいだろ! ワイソオラムピーポー!
俺声はガイの無謀な行動を止めることは出来なかった。勢いよく魔石を拾い上げるガイ。直後入り口の方から大きな音が聞こえて来た。どうやら何かが発動したようだ。
「ガイ、急いで戻るぞ!」
「オーケー」
なんでこの人はこんなに楽しそうなんだ? 洞窟がダンジョンに似ているせいか、俺は嫌な予感しかしないのだ。Aランク冒険者ってこんな無謀な奴しかいないのだろうか。だとしたら俺は慣れる気がしないよ。きっとSランクは洞窟ごと爆破するような日常識人に違いない。
俺は背中に大剣を担いでいるとは思えないほどの猛スピードで入り口へと走るガイの後ろを追いかけながら上級冒険者への偏見を作り上げていた。
そうして戻ってきた分かれ道があった場所。そこで俺たちはようやくゴブリンを見つけた。どうやらあの分かれ道は裏口だったようで、体格のいい雄ゴブリン数匹が偵察に来ているようだった。ガイもそのことに気づいたようで、速攻でそのゴブリン達を背中の大剣で刺し殺すと、洞窟の外へと走った。
っていうか洞窟の中でも大剣使うんですね。俺も一能腰に安物の両刃の剣つけてるんだけど今のところガイが暴れまくってるせいで使うタイミングがない。出来ればこのままガイさんに全てやっつけてもらいたいところではあるんだけど、多分そう簡単にはいかない気がする。
入り口を出た俺たちは岩山の裏側へと急いだ。そこには財宝を運ぶゴブリンの姿が。ガイはニヤリと笑い再び大剣を抜いた。
「さーてここからが本番だぜ!」
ガイに向かって襲いかかる五匹のゴブリン。それをガイの大剣は一振りで、ゴブリンがまるで野球ボールをのように容易く打ち返している。
俺は内心、うわぁ……と思っていた。だってよ。これが俗に言う弱いものいじめってやつだからさ。なんかゴブリンにも同情しちゃうって言うか。ね?
「でえりゃあ!」
大きな掛け声でゴブリンを蹴散らすガイは味方としてはとても頼もしかったが、敵に回すととんでもなく厄介だろうなと思うのだった。ちょっとティナに戦闘スタイルが似ている気がするが、ティナのは一対一用の技で、ガイのは多対一用の戦い方な気がした。
しかし、そんなガイの大暴れも一匹のゴブリンの登場によって勢いを大幅に削がれてしまった。
「アレは……ゴブリンロード!?」
いかにも魔法を使えそうな杖を持ったこの一団のボスであろうそれは、ガイが財宝に手をかけようとした時ようやく姿を現した。
とおるA「俺右利きだから右に行く」――あるある





