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第52話『Q.課題やり忘れたらどうしますか?』

 数日後。

 しっかりと睡眠をとった俺のMPはようやくマイナス値を抜け、正常な値を示すようになっていた。


「おはようテュー君。今日も元気にやっていこー!」


「お? 今日はテンション高いね。MPはちゃんと回復したのか?」


「おうよ! しっかり横棒が消えてたぜ!」


 リバウンドでやたらとテンションの高い俺だった。





 ■■■





 昼休み。

 俺たちはいつものように四人で机を囲んでお弁当を食べていた。

 話の話題はこの間のダンジョン合宿で持ち切りだ。


「ねえ、トール最後に打ったあの魔法は一体なんだったの?」


「あ、それ私も気になってたの!」


 お弁当の野菜らしき丸い実をフォークで刺しながらユナが俺へと問いをパスしてきた。パスはティナを中継して俺へと届く。無言だがテューも知りたそうにこちらを見ているのが分かった。

 仕方ない。他でもないユナの頼みだからな。答えてやるとしよう。まぁ、ただの思いつきなんだけど。


「アレは、俺の故郷で寒い日に起きる自然現象の名前だよ」


「ブライニクルだっけ?」


 テューよく覚えてるな。あんな切羽詰まった状況だったのに。


「そう。触れたもの全てを凍らせる、と言われている」


「それを具現化したってこと?」


 テューだけじゃない。ユナもこの通り飲み込みが早い。普通信じないぞあんなインチキみたいな魔法の正体が地元の自然現象です。なんて。


「まぁそんなところだな。魔法はイメージって言うし」


「誰がそんなこと言ったんだよ」


「俺」


「じゃあ嘘だな」


「なんでだよ! まぁ本当のこと言うとデイブォリット先生に教えてもらった」


「なら本当だな」


 なんで俺が言ったら嘘になるんだよ。

 相変わらずティナは俺たちのコントを楽しそうに聞いてくれている。これがなかったら本当に何しているのかわからなくなる。


「あまとうそう言えばあれやってきたか?」


「ん? あれ?」


 突然テューが何かを言い出したがこの時の俺は本気で何を言っているのか分かっていなかった。前の二人も「え? やってないの?」とか「それはちょっとまずいかもね」などと言っている。本当になんだと言うんだ。


「次の授業までの課題が出てただろ?」


「…………。本当だ出てたわ」


「出てたわじゃねえよ!」


 本日の三限目。戦争における陣形の研究と自論をまとめてディスカッション、その後提出。完全に忘れていた。と言うかここ数日は何があってもやる気が起きなかったと思う。

 で、どうするかだが――


「頼む!」


「何を?」


「見せて♡」


「見せようと思ったけどキモいからやめた」


 女性陣の目線が痛い。確かにキモかった。

 ちくしょうそれじゃあ仕方ない……じゃなくて。


「そこをなんとか」


「はぁ、仕方ない。あまとうは不思議な陣形たくさん知ってるのにこの国の伝統的陣形についてはからっきしだからな」


 ダンジョン攻略の時に披露した俺の陣形に関する知識。あれは戦国時代に用いられた日本の古き良き陣形だ。当然この世界にはそんな陣形はない。


「それには色々事情がありまして」


「ま、深くは探らないけどさ」


 そう言ってテューは俺のお弁当からいつものように卵焼きをとっていく。


「そうしてもらえると助かります」


 代わりに俺は……そうだな、今日はその黒い豆見たいのをもらおうか。うん、美味しいこれも卵みたいな味だ。


「それより早く写さないと時間になっちゃうよ?」


 気付けば三限まで残り十五分を切っていた。俺はお弁当の残りを口の中へかき込むと、この世界の慣れない文字をひたすらに写した。とは言っても毎晩練習しているだけあって、俺はそこまで苦労することなく写し終えることができた。うん。この出来栄えなら文句はないはず。付与する魔色も間違えてないし。バッチリだ。


 後日俺は先生に呼び出された。何やらこの間の課題について話があるそうだ。きっと細作の参謀と同じ結論に至った俺を褒めてくれるんだ。そうに違いない。

 俺は弾む足を先生の待つ教室へと進めた。


「トール君。これは君の字だよね?」


「はい。最初は書けなかったんですけど、毎晩練習してここまで書けるようになりました!」


「ああ、毎晩練習しているのか。それは偉いね」


 やはり俺を褒める気満々ではないか。まさか文字のことでも褒められるとは。しかし何故か先生の眉が寄っている。気のせいだろうか?


「さて、本題に入るが」


「はい」


「ここを見たまえ」


 そう言って先生は俺に提出した紙の一番上の部分を指差した。

 そこには、名前 テュー・ル・グン と、書かれていた。これは俗に言う、詰んだってやつですね。


「やり直しです」


「はい」


 まさか異世界に来てまで課題のやり直しを食らうとは思っていなかった。って言うか自分の馬鹿さ加減には本当に呆れる。どうやったら名前まで書き写すんだよ……。

 帰り際、俺のモチベーションを上げようとしたのか先生が「テュー君の文をしっかりと写せていた。ノーミスだ。日々の練習は無駄にはならないから頑張れ!」と言ってきた。いやほんと、こんないい先生にズルしようとした俺をどうか許してください。

 俺はこの時、この世界ではもう勉学でズルをしないことを決意した。

とおるA「授業中にやって出す!」

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