第51話『Q.初めてハマったゲームは?』
更新遅くなりました。
「まぁそれはそうと、俺のやりたいことでしたよね。ここでは出来ないので場所変えましょうか」
「あ、俺も一緒にやるのね」
「暇なんですよね?」
「はい。おかげさまで」
こうして俺たちはピースを後にした。
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「おいトール。こんなところに来て何をするっていうんだ?」
ここは王都から少し離れた川辺。
出会った時とは立場が変わって俺は半ば強引にダグラスさんをここまで連れてきた。
まぁ取り敢えず説明してやるとしますか。
「俺の故郷では水切っていう遊びがありましてね、コレが意外と奥が深くて面白いんですよ」
「ミズキリ?」
「まぁ見たらわかりますよ」
そう言って俺は川辺に散らばる石を一つ拾い上げると、横回転をかけながらその石を川に向かって投げ飛ばした。
石は水の上を走るように四回バウンドすると川の中へとポチャンっと落ちていった。
「と、とととトール! 今のはどうやったんだ? あれも魔法なのか?」
興奮した様子のダグラスさんは俺の身体に一ミリと間を空けずに迫ってくる。
俺は両手を挙げ一旦ダグラスさんを落ち着かせると、水切の原理について語り出した。
「水切りっていうのはですね――」
数分間に渡る俺の熱い水切り講義……ではなく、やたらとだるそうな水切の説明をようやく終える。
「ということなんです」
「な、なるほど?」
あ、こいつ絶対わかってないな。
「まぁ平べったい石をうまく投げれば上手な人なら十回以上バウンドさせられますよ。コレが水を切っているようにバウンドするので、水切って言うんです」
「ようは水を切ればいいんだな! よし――」
ダグラスさんは手頃な石を手に取ると勢いよくその石を投げた。
ボチョン! という音とともに石が川の中へと落ちていく。バウンドは一度もしなかった。
「ノー! 一回もバウンドしなかったぁぁ……」
楽しんでもらえたようで何よりです。
俺も先ほどより水切りに適した平べったい石を拾い上げると、肩を使ってヒョイと石を投げた。もちろんMP事情でいつものような元気はないが、それでも石は先ほどより多い五回のバウンドをさせた。
それを見たダグラスさんは悔しそうに俺へとアドバイスを求めてきた。
「何かアドバイスをくれ」
「そうですね……適度に石を横回転させることですかね」
「なるほど。横回転か」
「そうです。水を着ることを意識してください」
「よし、やってみる! んー、せい!」
ピシャッ、ポチョン。
ダグラスさんの石は見事一度のバウンドを見せ、川の底へと沈んでいった。
「見たかトール! 見たか? 見たか? 一回バウンドしたぞ! 一回バウンドしたぞォォオ!」
その姿はおもちゃを買ってもらった五歳児のようで、何というか……滑稽だった。
いやほんと楽しんでもらえたようで何よりです。
この後なまら石投げまくった。
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その日の夕食。
ダグラスさんはまるで子供が母親に今日の楽しかった出来事を報告するかのように、それはそれは楽しそうに水切の話をしていた。
俺はそれを、大の大人が何をそこまで水切ごときに興奮して話しているのかと呆れながら聞いていた。
エリシアさんは「私が買い物をし直している間に貴方は一体何をしていたの……」と嘆きながらも、その話を興味ありげに聞いているように見えた。
そして数日後、俺はダグラスさんから一通の手紙を受け取った。
挑戦状
そこにはそう書き記されていた。
「拝啓トール。先日は俺がお世話になったな。あの時の借りを返させてもらうぞ。川辺にて待つ」
と続いている。
あの時の借りってなんだよ。決闘か何かか!
未だMPの回復しきっていない俺は心の中で癖になってしまったツッコミを軽く入れふと、果たし状を握りしめ川辺へと向かった。
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川辺にはダグラスさん。そして何故かエリシアさんが手提げ鞄を持って一緒にいた。
「トールさん。今日は頑張ってくださいね! お弁当作ってきたので!」
「運動会か!」
「ウンドウカイ?」
しまった。地球の行事のこと言っても分からないのか。っていうかなんでこの夫婦はこんなにナチュラルにボケてくるのだろうか。
俺が内心呆れていると、ダグラスさんが一歩前へと出て大きな声を張り上げ始めた。
「待ちわびたぞトール殿!」
その言い方はまるでゲームの中の戦国武将のようで、この前のテューと言い今回のダグラスさんと言い、この人達は地球のラッパーや武将を知っているんじゃないだろうか。
「トールよ! 我が果たし状には目をどうしてもらえたかな?」
通して無いとここに居ないわ。
「あれから俺は幾度となくこの川辺に通い、血の滲むような努力をした末ついに水切りを極めた」
「はあ……」
先生! ここにバカが一人います!
なんて無駄な努力をしているのだろうか。もはや意味がわからん。
「今がその成果を知らしめる時ダァァァァアアア!」
俺は身の危険すら感じた。
「という事でトールよ。また俺と水切勝負をしてくれ」
またって言うか、前回は勝負した覚えがないって言うか、勝負する段階ではなかったと言うか……。
「まぁいいですよ。やりましょうか」
「そうこなくっちゃ!」
まずは挑戦者であるダグラスさんが一球目を投げる。
石は五回バウンドして沈んでいった。
「くそぅ。まぁいい、勝負は始まったばかりだ」
くそぅと言うってことだからもーちょっといけるってことなのかな?
「次はトールだ!」
「じゃあ遠慮なく――」
俺は様子を見て軽めなフォームで手首をスナップさせるとサイドスローで石を投げた。石は八回バウンドした。
しかしダグラスさんはニヤリと笑うのだ。
「トール、八回でいいのか?ククク。この勝負もらったな!」
ダグラスさんはやけに自信ありげに高笑いをしていた。
どうやらルールは三球投げで最もバウンド数が多かったものが勝ちのようで、この後それぞれ二回ずつ石を投げたのだが……結果ダグラスさんは最高七回しかバウンドさせることができず、対して俺はあそこからバウンド数を二回増やし十回のバウンドとなった。
「おかしい。練習では九回バウンドさせられたのに……」
嘆くダグラス氏。
まぁ練習中にまぐれでできた九回が本番で出来るわけないしね。俺は目の前の恩人に若干の呆れを見せていた。
そんなダグラスさんの肩を叩くのは応援のために駆けつけてくれたエリシアさんだった。
「大丈夫よダグラスさん。夫である貴方の仇は妻である私が打つわ!」
仇ってなんだ仇って!
しかしそんな俺のツッコミを入れるほどの心の余裕は次の瞬間消えて無くなった。
エリシアさんは石を拾い上げる。何故かわからないが石を拾い上げるその様子はダグラスさんは兎も角、俺よりも洗練されているように見えた。選ばれた石は平べったく、水切に最適なものだった。
四本の指で挟むように石を握ると、美しいフォームのサイドスローが俺たちの視線を虜にした。
シャッ! シャッ! と言う美しい音とともに石はバウンドしていく。そして――
「に、にに二十回!?」
石は川の上を走り抜け最後は向こうの岸へと見事着地をした。
「エリシア……お前……」
「アッハハァ」
可愛らしく笑うエリシアさんに、俺は苦笑いをする他なかった。
どこの世界でも、それを勧めた本人よりもその事を極め抜き達人化する人はいる。こう言う現象はあるのだなと思うのだった。
俺はこの一件を『エリシアさん水切達人化事件某』として後世に語り継ぐのだった。
まぁ語り継ぎませんがね。
とおるA「ポケットにモンスター六体詰め込んで旅するゲームです!」――電気ネズミで岩の化け物倒さなきゃいけなくて当時は初手から無理ゲーかよって思いましたね





